【平成30年度 参加企業プロジェクトレポート】 一般社団法人WorkDesignLab プロジェクトレポート

一般社団法人WorkDesignLab
業種:人材コンサルティング・イベント企画
所在地:東京都中央区

一人一人が多拠点で主体的に活躍する未来の働き方として、“複業”が注目を集めている。都市と地方をつなぎながら個人の可能性を広げる——このような複業の効果に着目する一般社団法人WorkDesignLab(ワークデザインラボ)は、茨城県で複業する人を増やす取り組みを通じて、働く個人の自己実現と茨城県の活力創出の後押しを試みている。

一般社団法人WorkDesignLab 代表 石川 貴志様
  • 一般社団法人WorkDesignLab 代表
  • 石川 貴志

働き方をリデザインし、都市と地方をつなぐ

ワークデザインラボは、「個人と組織のよりよい関係性を創造すること」を目的に、個人のチャレンジ、組織の変革を応援する団体です。一人一人がイキイキと働くことで社会に価値を生む——個人と組織のそんな関係性をつくることを目指しており、思いを同じくする社会人メンバーが集まっています。

普段の活動では「働き方と組織の未来」をテーマとするディスカッション型セミナー「ダイアローグセッション」や、イベント、勉強会の企画・運営を手掛けています。また、場所に捉われない働き方を推進すべく、企業・行政との連携による地方と都市をつなぐプロジェクトなども実施しています。

ワークデザインラボが推進する未来の働き方の一つに“複業”があります。私たちが考える複業とは、2箇所以上から収入を得ることだけに限らず、多拠点で活動することでやりがいを得たり、社会貢献したりすることなども含みます。私たちは茨城県と東京をはじめとする都市をつなぎ、将来的に茨城県で複業する人を増やすことで、場所に捉われない働き方を通じた個人の自己実現や茨城県の活性化を後押ししたいと考えています。特に目指しているのは、東京の企業に勤める会社員が、週1~2日程度、茨城県の企業で働いたり、都内にいながらリモートで茨城県の企業の仕事をしたりできるような“複業社員制度”の促進です。

複業で個人・企業・社会の可能性を広げる

私たちが複業を推進する背景には、「イキイキと働く大人で溢れる社会、そんな大人を見て子どもが未来に夢を描ける社会を創りたい」という思いがあります。

複業をして、さまざまな場所・方法で自己実現する人が増えることは、イキイキと活動する人がいる地域が増えることを意味するので、地域社会の活力を取り戻すことにもつながると考えています。

また、2カ所以上の企業で働く複業社員の制度を広げることは、地方企業が課題としている人材不足の解決に寄与します。労働人口が減っている地方企業にとっては、複業社員の視点・原動力を取り込みながら、いかに連動して成長していくかがますます重要なテーマになるため、個人だけではなく、企業へも複業制度の啓蒙を行っています。

複業をしたい個人向けのイベントでは、具体的な複業の始め方からレクチャーした

ビジョン実現への一歩目は複業促進の環境整備

今回の茨城県とのプロジェクトでは、ワークデザインラボの「ビジョン合宿」と、茨城県内の企業と個人を対象にした「複業や多拠点活動についてのダイアローグセッション」を実施しました。

ワークデザインラボは、普段別の会社で働く社会人が、複業として集まっている組織のため、メンバー間で改めて活動趣旨の共通認識をつくる機会が必要でした。
今回実施した合宿では、各々が持つスキルや考え方の共有に始まり、ワークデザインラボの3年後のビジョン形成についてのディスカッションや、実際に県内の行楽地や商業地域を訪れながら個人の働き方やマーケットの可能性について考える活動などを行いました。それぞれが思い描いていた複業やこれからの働き方のイメージを、改めてワークデザインラボのフィルターを通して言語化・具体化する機会となりました。
その合宿を経て行った「ダイアローグセッション」は、9月と11月の計2回実施しました。テーマはそれぞれ、「茨城と東京を繋ぎ、新しいチームを創る」と「茨城での新しい採用とチームの作り方」で、ワークデザインラボの活動メンバーをはじめとする茨城県出身の多拠点活動家やUターン起業家などが登壇し、多拠点を股にかける現在の働き方や、地方を軸とするさまざまな経験についてお伝えしました。

今後の活動の焦点は、茨城県企業に対する複業社員制度の環境整備です。複業社員として地方で働くことに関心を持つ人が増えつつある一方で、地方企業側では複業という考え方はまだほとんど知られていません。
そのため、まずは県内企業の人事担当者に複業について知ってもらい、都内と茨城県の企業で複業に関するディスカッションをするための土台作りが出来ればと思っています。

茨城県庁で行った県内企業向けのイベントで、複業受け入れについてディスカッションした

東京で行った複業促進イベントでは、複業の細かい制度や企業が取り組む第一歩について話した

一般社団法人WorkDesignLab
業種:人材コンサルティング・イベント企画
所在地:東京都中央区

近年、首都圏ではやりがいや自己実現を求めて、複数の企業と雇用関係を持ったり、協力関係の下でプロジェクトに参画したりする“複業人材”が増えている。こうした人々と茨城県を結び付けることを目的として活動した一般社団法人Work Design Lab(ワークデザインラボ)と、その思いに共鳴した地元企業2社の担当者がプロジェクトの成果と課題を語る。

一般社団法人Work Design Lab代表理事 石川 貴志様
  • 石川 貴志
  • 一般社団法人Work Design Lab
    代表理事

出版流通企業の経営企画部門にて勤務。2013年にワークデザインラボを設立し「働き方をリデザインする」をテーマにした対話の場づくりや、イントレプレナーコミュニティの運営、地方自治体や企業などとの連携によるプロジェクトを多く手掛ける。

茨城移住計画発起人/株式会社カゼグミ 代表取締役 鈴木 高祥様
  • 鈴木 高祥
  • 茨城移住計画発起人/
    株式会社カゼグミ 代表取締役

茨城県水戸市出身。2017年に茨城県外の人と県内のキーパーソンをつなぐ、茨城移住計画を立ち上げ、本格的な多拠点活動を開始。ワークデザインラボと茨城県移住計画の双方の立場から複業促進に取り組む。

株式会社NEXT・カワシマ営業企画グループ グループリーダー 川嶋 啓太様
  • 川嶋 啓太
  • 株式会社NEXT・カワシマ
    営業企画グループ グループリーダー

茨城県ひたちなか市出身。ベンチャー企業勤務を経て、社会人4年目に実家の会社にUターン転職。お客さんをベースにした地域のつながりを作る視点から、ガスに限らず新たなサービスを展開。地域のキーパーソンが集う場作り「まぜるなキケン」を主宰。

Tadaima Coffee(日立市コーヒー専門店)代表取締役 和田 昴憲様
  • 和田 昴憲
  • Tadaima Coffee(日立市コーヒー専門店)
    代表取締役

茨城県日立市出身のUターン起業家。オリジナルブレンドコーヒーの製造と販売を行う「Tadaima Coffee(ただいまコーヒー)」を創業。『「ただいま」と言える場所を作る』をコンセプトに、コーヒーを通じて人が集まるコミュニティーづくり進めている。

新しい働き方を求める人と茨城県を結び付ける
ープロジェクトではどのような取り組みを行いましたか?

石川

私たちは茨城県の企業での複業人材の受け入れを促進するため、茨城県の企業向けに複業の啓発活動を行いました。

鈴木

茨城県ではワークデザインラボとの連携を機に、昨年9月から県が主体となって正式に複業を促進しています。経営課題や人材不足に直面する県内企業と、多拠点ワークなどの新たな働き方を求める複業人材を結び付て、win-winの地方創生を実現するのが狙いです。

石川

地方では複業という考え方はほとんど知られていません。また、私たちとしても県や県内企業の課題を知る機会が必要でした。そこで、県を視察しながらワークデザインラボにできることを考える機会として昨年9月と11月に1泊2日でワークデザインラボの「ビジョン合宿」を実施。それぞれ2日目に、地元企業を対象とする複業や多拠点ワークに関するダイアローグセッション(対談型セミナー)を行いました。

鈴木

合宿では日立と笠間を訪れ、コワーキングスペースや観光地の視察、伝統工芸品・笠間焼のろくろ体験などを行いました。ダイアローグセッションには、複業につながる先進的な活動をされている地元企業の代表として、NEXT・カワシマの川嶋啓太さんとただいまコーヒーの和田昴憲さんに登壇いただきました。

鈴木さん(右)は、ワークデザインラボと茨城県企業の2人を引き合わせる役割を担った

ーどのような問題意識を持っていたのですか

和田

「ただいまコーヒー」は開業2年目で、今は店舗運営を軌道に乗せていく段階です。例えばウェブサイトの構築など、課題が明確な部分に対して複業者の力を借りられたらと考えています。また、私は自分が経営している「ただいまコーヒー」でも社員が個人として特技を生かして夢を叶えたり、社外で活躍したりできるような組織体をつくりたいと考えており、社員にも複業も進めています。ダイアローグセッションでは、こうした点についてお話しました。

川嶋

NEXT・カワシマは、プロパンガスの供給を主力事業とする創業60年の企業です。過疎化が進む地域で経営を維持していくためには、会社として何ができるかを常に考えていかなければなりません。ダイアローグセッションではこうした問題意識に加えて、私が主催している地域のお祭りや地元のコミュニティーづくりの活動を紹介しました。複業という言葉は今回初めて知りましたが、私の活動も地域密着型の本業の強みを活かした複業なのだと気付きました。

和田

私は今回ダイアローグセッションに参加したことで、もともとの関心事であった複業に多拠点ワークという観点が加わりました。

ーお二人に登壇してもらった狙いは何だったのでしょうか?

石川

経営者の思いや取り組みは、複業を考える人にとって重要なポイントです。ダイアローグセッションの参加企業の方々にはそうした点をお伝えしたいと思い、お二人には考えやご活動を発信していただきました。

地域と人の可能性を広げる複業の実現に向けて
ー残っている課題は何ですか?

鈴木

今回のプロジェクトの活動は啓発が中心だったため、今後は、実際に県内企業での複業人材受け入れプロジェクトを立ち上げられればと考えています。

石川

課題は、「地元の雇用を奪うのでは」といった複業の“レッテル”を取り除くことです。その他にも受け入れ企業からすると「複業人材は責任をもって仕事をしてくれるのか?」「フルタイムでない人への仕事の任せ方がわからない」「必要な準備・制度整備は?」などハードルはいくつかあります。一つの企業で働き続けることが当たり前だった世代からも理解を得られるよう、複業の本質を丁寧にお伝えしていく必要があります。

川嶋

当社でも複業の受け入れに対してはまだ全面的な理解は得られていません。学生インターンシップの受け入れを始めるところなので、こうした外部リソース活用の動きを複業の受け入れにつなげていければと思っています。

石川

プロジェクトを通じて、複業希望者と受け入れ企業の価値観の一致が重要だと再確認しました。仕事内容とスキルの機械的なマッチングではなく、双方の人となりや実情に精通した人が間に入って両者をつなぐようなマッチング方法が理想的だと考えています。

川嶋さん(左)と和田さん(右)は、企業が抱えるさまざまな課題に応じて、専門スキルを持つ外部人材の力を借りられるのが複業受け入れのメリットだと口をそろえる

個人・企業人として茨城県と関わっていく
ープロジェクトに参加してどのような気付きやメリットがありましたか?

石川

複業や多拠点ワークに共感してくださる2社さんと出会い、事業課題やニーズを伺うことができたのが最大の利点です。また、地元企業への啓発活動においては、県が正式に複業を推進し始めたことが強力な追い風となりました。

鈴木

ワークデザインラボのメンバーは、企業人である前に一個人として地域と向き合ってきました。個人と個人の共感や信頼から始まり、その上に企業人としての視点を重ねていく———そんな出会い方を支援していくことが大切だと感じました。

川嶋

5カ月間という短期間で腹を割って話せる関係を築けたのも、個人間の共感があったからだと思っています。

和田

経験の浅い20代の私の目線に合わせて話してくださったのもありがたかったです。

石川

首都圏にはローカルな複業の機会を求めている人がたくさんいますので、このプロジェクトで得た人脈や知見を生かして、今後も彼らと茨城県をつなぐ支援をしていきたいと思います。

複業受け入れを実現する上での今後の課題をヒアリングする石川さん(左)。共感に裏打ちされているからこそ議論が白熱する