【平成30年度 参加企業プロジェクトレポート】 合同会社ヘマタイト プロジェクトレポート
- 合同会社ヘマタイト
- 業種:IT
- 所在地:東京都品川区
コンピュータ技術がさまざまな分野にイノベーションを起こしている今日。農業も例外ではなく、合同会社ヘマタイトは人工知能(AI)技術を使って茨城県結城市の農家である宮崎協業さんの課題解決に取り組んでいる。人々の声に耳を傾け、地域の魅力に目を向ける――その姿勢が地方と最新技術をつなぐ要となっている。
コンピュータの可能性を農業に
私たち合同会社ヘマタイトは、「人とコンピュータのよい関係をつくる」という理念の下、ソフトウェア開発、情報セキュリティ、コンピュータリテラシー教育の三つの領域で事業を展開しています。今日、社会のあらゆる側面でデジタル化が進んでいますが、コンピュータの活用に不安感を持つ人は少なくありません。当社が目指すのは、そうした心理的な障壁を取り除いてコンピュータの利便性を人々に享受してもらうこと。そのため、教育事業として講師派遣なども行っています。
今回、私たちが取り組むのはコンピュータを通じた農業の課題解決で、茨城県結城市で人工知能(AI)技術を活用したネギの選別機の開発を目指します。当社は以前にもAIを用いて、職人の視覚判断に頼ってきた化学プラントの状態検知方法の自動化に取り組んだことがあり、この経験を活かします。
エンジニア達と日々ソフトウェア開発を行っている
結城市で出会った街の魅力
過去に取り組んだ案件の一つに、獣害対策用のシステム開発があります。千葉県千葉市と木更津市で、イノシシが罠に掛かかると自動的に電話で猟師に通知されるシステムを開発し、罠の見回りの負担減に貢献しました。
今回の活動地である結城市を訪れるのは初めてですが、結城駅の北側には土壁造りの蔵(見世蔵)が点在する歴史ある街並みが広がっており、ゆったりと時間が流れているような、心安らぐ魅力を感じました。そんな風情ある結城市では、今でも酒屋や結城紬の卸問屋などが見世蔵で店を営んでおり、中でも、同市で大正13年から作られているという味噌屋さんの「秋葉糀味噌」のファンになりました。見世蔵でお店の方と会話しながら過ごす和やかなひと時も魅力で、味噌を買いに行くのが楽しみの一つになっています。
結城市の広大な農地
熟練農家の技をAIがつなぐ
私たちのパートナーである結城市の宮崎協業さんは結城駅の南側に拠点を構える、17戸の農家から成る農事組合法人です。ドローンや本州に数台しかないといわれる超大型収穫機などの先進的な機械も積極的も取り入れながら、60ヘクタール(東京ドーム約12個分)以上の広大な土地でさまざまな農作物を生産しています。
農業産出額全国第2位を誇る茨城県の農業を支える宮崎協業さんですが、全国的に課題となっている農業人口の減少や高齢化、それに伴う技術の継承問題は宮崎協業さんにとっても例外ではありません。現地で農家の方々と話す中で知ったのが、特にネギの選別に課題を抱えているということ。現在、宮崎協業さんではベルトコンベアを流れるネギを、太さ・青さ・白い部分の長さなどにしたがって手仕事で等級別に仕分けているといいますが、農業の担い手が減っている上、長年の経験に基づく熟練の技を継承していくことは簡単ではありません。
当社は、宮崎協業さんと協力してこうした課題の解決に取り組むことで、地方の農業の担い手やその技術を守るお手伝いをしたいと考えています。そこで当社が活用するのが、属人的なノウハウの「学習」に長けているAIです。私たちはAIを用いて、言語化して伝えることの難しい熟練農家の技を機械に習得させ、ネギの選別機を開発することを目指しています。
AI開発では大まかに、人間でいう脳みそに相当する「学習モデル」と、教科書に相当する「教師データ」の2つが必要になります。一般的な開発の手順としては、教師データとしてAIに膨大なデータを読み込ませ、そこから規則性や関連性を学ばせるプロセスを繰り返すことで、AIに的確な回答を導き出してもらうための脳みそである学習モデルを構築していきます。
今回はまず教師データを準備するために、さまざまな角度から撮った1,000枚以上のネギの写真を集めることが目標です。2018年9月から現地に赴き、宮崎協業さんとプロジェクトの進行やコストについて議論を重ねてきました。今後はネギの収穫時期に入るので(2018年11月現在)、本格的に教師データの作成を進めていきます。
ネギの苗(ネギは種を植えてから出荷まで半年以上の期間を要する)
農家に技術を普及させるカギは信頼関係
宮崎協業さんはプロジェクトを好意的に受け入れてくださっていますが、これまで馴染みのなかった技術を導入するわけですから、一般的には「機械に任せられるのか」といった抵抗を感じる農家さんもあるでしょう。そうした不安・不信を解消できるかどうかは、私たちの姿勢と言動にかかっていますから、農家さんたちに少しでも疑問や不安があればしっかり耳を傾けて丁寧に説明するなど、常に誤解が生じないような信頼関係づくりを心掛けています。
画期的なAIも、技術の元となる教師データは人の手を掛けて作るものなので、農家の方々の協力が不可欠です。農家の方にネギを一本ずつ見てもらい、等級を確認しながらコンピュータに覚えさせる作業の繰り返しですが、こうした過程を共有することで、実用性のある選別機を開発し、活動のインパクトを最大化したいと思っています。
この技術はさまざまな分野に応用できると考えています。例えば、魚の目利きも現在は属人的に行っているそうなので、水産業が盛んな国内の他の地域にも需要があるのではないでしょうか。そうした可能性も視野に入れながら、プロジェクトに取り組んでいきたいと思います。
宮崎協業の超大型機械に大興奮
- 合同会社ヘマタイト
- 業種:IT
- 所在地:東京都品川区
茨城県結城市で、16戸の農家を束ねる法人として大規模農業を営む農事組合法人宮崎協業。農家の高齢化や流通業者が求める規格基準への対応として、農業へのIT導入を模索する中、IT事業を展開する合同会社ヘマタイトが、人工知能(AI)技術を使いネギのサイズや等級を選別する機械の開発に取り組んだ。
人工知能によるネギの選別機を「農業×IT」の足掛かりに
ープロジェクトではどのような取り組みを行いましたか?
エンジニアとして、ユーザーが求める技術の開発に熱意を注ぐ茨木さん
ー地域の農業に対してどのような問題意識を持っているのですか?
- 秋元
茨城県の農業の役割は、首都圏の食糧基地としてより多くの農作物を供給することです。したがって、広大な面積での大規模営農が必要ですが、農家の高齢化が進んでいる上、新たな農業人材の確保も難しいのが現状です。こうした状況下で将来にわたって大規模農業で生産・経営を維持していくための手段として、ITに期待を寄せています。
- 茨木
そのような思いをお持ちの一方で、法律が壁となり最新の技術を現場で最大限に活かし切れないジレンマがあることを知りました。例えば、農薬散布などでドローンを飛ばす際は、技術的には自動飛行が可能でも、監視役を2人付けなければならないそうです。こうした規制にしばられることなく農業にITを生かせるテーマを考えるために、実際に農家を訪ねたところ、ネギはサイズや形状・緑色と白色の割合など、確認する箇所が多く、選別に時間がとられている状況が見えました。そこで、AIを使い、ネギを選別する機械の開発に挑戦しました。
- 秋元
農作物の品質を保証する明確な基準の必要性も常々感じていた課題です。現在は熟練の農家の方々が目視でネギのサイズや等級を仕分けていますが、市場に並ぶ商品ですから、消費者にとって明らかな客観的基準が必要だと思うのです。「当社はAIで選別している」ということは、品質保証のアピールになると考えています。
- 茨木
選別作業をする方々の高齢化も進んでいるとのことなので、言語化することの難しい属人的な技術の継承にもお役に立てると思っています。
「時代の流れにあわせて農業の未来を考えていかなければならない」と秋元さん
人の役に立つところまで作り切って初めて「技術」と呼べる
ー残っている課題は何ですか?
- 茨木
今回は“ソフト”としての技術開発までできましたが、ネギの選別から出荷までの一連の工程を機械が行うためには、選別されたネギを箱に詰める作業をするロボットアームなどの機械を造る必要があります。ですが、その前に、選別機を実際に現場でどう活かすのかなど、農家の方々にとって最適な導入の在り方を検討したいと思っています。
- 秋元
私も同感です。今後加速する農業人口の減少に備えることが必要な一方で、ITを導入すると機械が人の仕事を奪ってしまい、農業人口の減少に拍車をかけるように見えるかもしれません。しかし、長期的な視点で考えると、深刻化する農業の人手不足を解消し、地域農業を守るための手段であると理解してもらえるよう、関係者に働き掛けたいと思います。
- 茨木
技術的な面でいえば、サイズだけでなく傷物の選別もできる技術まで開発したいと考えています。
- 秋元
ITは、ネギの選別に限らず、田畑の管理など農業のさまざまな側面で役に立つと思っています。農作業の自動化が進み、農業の繁忙期でも適度に休みが取れるようになれば、農家のワークライフバランスの向上につながり、新たな人材も確保しやすくなるのではないでしょうか。
地域の農業の担い手のことを第一に考えるからこそ、選別機の開発は焦らずに進めたいと二人は話す
技術の相談役から将来のビジネスパートナーへ
ープロジェクトに参加して、どのようなメリットや気付きがありましたか?
- 茨木
農業はITを組み合わせるとイノベーションを起こせる分野だと感じていたため、大規模農家としての課題や必要とされる技術を当事者から伺えたことはとても有意義でした。
- 秋元
農機具販売会社からは既製品を買うことしかできないので、自分たちが求める技術から相談できる企業さんと知り合えて心強く思います。最新技術の使用について、法律の規制が緩和され、農業に利用できる時が来たときに、茨城県の農業先進モデルへの道をすぐに走り出せるよう、この関係を大事にしていきたいです。
- 茨木
ネギの選別機に限らず、当社が技術的にどのようなお手伝いができるのか、今後も継続的にお伝えしていきたいと思います。
私たちは茨城県結城市の宮崎協業さんの協力の下、人工知能(AI)技術を使ったネギの選別機の開発に向けて活動しました。
宮崎協業では現在、ベルトコンベアを流れるネギのサイズや等級を目視して人の手で選別し、箱詰めしています。農業人口の減少や規格に対する意識の高まりなど、農業を取り巻く環境の変化を鑑みれば、今後、農業へのIT導入は不可欠になると考えています。そうした時代の流れに対応していく手始めとして、今回はネギの選別にAIが取り入れられるか探っていただきました。
AIの開発は、教科書を使って0歳児の脳みそに特定の作業を覚え込ませるのと似た仕組みです。昨年11月にネギの収穫時期に伺い、ベルトコンベア上を流れるネギの動画を撮影し、それを“教科書”として、ベルトコンベア上のネギの位置やその大きさを認識することのできる“脳みそ”を開発しました。
結果として、AIを使ったネギの選別は技術的に実現可能だとご報告いただきました。組合の農家の方々にもこの結果を共有したいと思います。