【平成30年度 成果報告会①】
ローカル×複業×新規事業
最新ビジネスの可能性を探る
2019年3月6日、つくば駅から徒歩2分のコワーキングスペース「up Tsukuba」にて、茨城県トライアル移住・二地域居住推進プロジェクト関連のイベントが開かれました。「ローカル×複業×新規事業」をテーマに、ビジネスアイデア創出と複業ワーカー活用のポイントについて講演やパネルディスカッションで語られました。なごやかな雰囲気でありつつも、熱のこもった真剣なトークが繰り広げられたイベントの模様をお伝えします。
サマリー
イベントの冒頭では、茨城県 トライアル移住・二地域居住推進プロジェクトの概要が紹介されました。続いての講演のテーマは、新規事業を立ち上げるためのコツ。活動事例のリポートでは、複業人材活用のメリットが語られました。後半のパネルディスカッションで3名のパネリストが語り合ったのは、「ローカル事業×新規事業」と「ローカル事業×複業人材活用」。全体を通じて、地元で新しいコトとモノを生み出すための道筋が見えてくるイベントとなりました。
15:30 事業説明
最初に茨城県政策企画部計画推進課の鈴木貴裕さんより、茨城県トライアル移住・二地域居住推進プロジェクトについての説明が行われました。同プロジェクトでは、東京圏から茨城への移住という流れを作るために、昨年度より情報発信や首都圏の企業のトライアル移住などに取り組んできました。今年度はさらに新たなビジネスが生まれることを目指して、6社が参加。茨城と東京のビジネスマッチングで新しい何かが生まれるのではないかという手応えを感じたとのことでした。
茨城県より委託されて同プロジェクトの企画・運営を担当しているパーソルプロセス&テクノロジー株式会社の森啓亮さんからは、都心の企業と茨城県の企業をつなげて新しい仕事を生み出していくために、今年度のプロジェクトがビジネスマッチング寄りの事業にバージョンアップされたという説明も行われました。プロジェクトに参加した6社が独自色を出して様々なモデルが生まれたことで、大きな広がりが感じられる結果となっています。
15:45 基調講演〜ビジネスアイデアを創出するポイント〜
新規事業を立ち上げるためのポイント、そこでの成功の確率を上げるためのポイントについての講演が行われました。登壇したのは、TAAS株式会社の大越隆行さんです。
TAAS株式会社
大越 隆行さん
神奈川県出身。アマゾンジャパン、ランサーズを経て、2016年にTAASを設立。業界初のタダで機密文書処理ができるサービス「e-Pod Digital」などを手がける。
大越さんはご自身の経験を実例として挙げながら、ビジネスを立ち上げる際にポイントとなる「機能」「コスト」「ミックス」について解説しました。たとえば、大越さんは以前勤務していたamazonでバイク本体を売る事業を立ち上げましたが、これはそういうシステムを作ったということから「機能」にあたります。同じくamazonで、コストでしかなかったダンボール箱に広告を掲載することで収益を生み出す事業「Amazon Box」を立ち上げていますが、これは「コスト」にあたります。最後の「ミックス」は異なるビジネスモデルを混在させるもので、機密文書処理のビジネスと広告を組み合わせた「e-Pod Digital」がこれにあたります。
また、アイデアを生み出すためには、「1:日常に疑問を持つ」「2:自分たちのサービスは市場に受け入れられているか考える」「3:常に新しいことに挑み続ける」「4:お客さんの予想を超える」といった4点が重要とも大越さんは語ります。そのためにも市場をとらえ、顧客を理解することが重要とのことでした。
このようにして立ち上げた新規事業の成功確率を上げるためには、「プロ経営者」「外部人材の登用」「分業」という3つの要素が重要になります。自社ですべてを行ないたいという傾向がある日本企業にとって苦手とも言われる3要素ですが、大越さんもご自身の事業を展開する上で、これらの必要性を強く感じているそうです。
茨城県 トライアル移住・二地域居住推進プロジェクトにも深く関わる外部人材の登用についても語られ、新しいことを始めたい参加者の方々に大きな刺激を与える講演となりました。
16:15 活動事例〜複業人材活用のメリット〜
続いて、茨城県トライアル移住・二地域居住推進プロジェクトに参加した、一般社団法人Work Design Labの石川貴志さんが登壇しました。複数の肩書を持ち、ご自身も複業ワーカーである石川さんに複業人材活用の様々な面について語っていただきました。
一般社団法人Work Design Lab
石川 貴志さん
広島県出身。2013年にWork Design Labを設立し、「働き方をリデザインする」をテーマにした対話の場づくりや企業や行政と連携したプロジェクトを手がける。
複業人材が注目されている背景には、まず人口減少があるとのこと。労働人口が減る中で、政府も企業も複業を解禁する流れにあります。特にIT企業の場合、学生時代にアプリを開発していた学生がいても、複業が禁止の会社に入社した場合は「あなたが学生時代に開発したアプリは手放してください」ということになってしまい、優秀な人材を逃してしまう可能性があります。
様々なITツールが開発されたこともあり、複業で働くための環境も整っています。複業ワーカーをターゲットにした採用も始まっているとのことです。
複業人材側のハードルとしては、「複業という働き方のため、即時対応が必要な業務はできない」「関わりたい企業や自治体の窓口がわからない」「土日に活動することになる場合、家族の理解が得られない」などがあります。
こうしたハードルを取り除くためにも、茨城県 トライアル移住・二地域居住推進プロジェクトのような試みは重要と言えるでしょう。石川さんは茨城で取り組みたいこととして、「茨城でも複業ワーカーの事例を作りたい」「複業ワーカーが持続的に活動できる環境を作りたい」と語ってリポートを締めくくりました。
16:45 パネルディスカッション〜ローカル企業のイノベーション・複業人材活用〜
休憩を挟んで「ローカル事業×新規事業」と「ローカル事業×複業人材活用」をテーマとしたパネルディスカッションです。先ほど登壇したTAASの大越さん、Work Design Labの石川さんに加えて、パーソルプロセス&テクノロジーの成瀬岳人さんがパネリストとして参加。モデレーターはヤフー株式会社の鈴木哲也さんです。
パーソルプロセス&テクノロジー株式会社
成瀬 岳人さん
静岡県出身。パーソルグループの中でも先進的な働き方を実験している組織「ワークスイッチ事業部」の働き方改革企画・推進を担当。週3~4勤務や、複業の可能性を模索しており、自身も複業で個人コンサルタントを行う。
ヤフー株式会社
鈴木 哲也さん
茨城県出身。ヤフーにて全国の地方創生案件、結城市のプロジェクトを担当。結城市内のコワーキングスペース「yuinowa」の立ち上げに携わる。
ー複業人材の活用の現状についてどう思われますか?
ー新規事業開発のための外部人材活用のポイントは?
- TAAS大越
会社ごとの慣習や社内ルールみたいなものがあるんですが、それを一旦、度外視していただくことが前提として必要だなと思います。その上で外部人材の方々が客観的に見て、どこを改善するべきなのかなどのアドバイスをしたり、支援するという形がいいんじゃないでしょうか。
- ヤフー鈴木
外部人材となる複業ワーカー側はどういうマインドで臨めば、企業とうまくフィットするのでしょうか?
- Work Design Lab
石川 先ほどの話と一緒になるんですが、複業はワーカー個人にとっても手段なので、その目的がなんなのかをワーカー自身で整理しておかないといけないと思います。それから企業への参画意識が強くないとうまくいきません。複業で関わる組織体への共感性も必要だと思います。
ー都内のサラリーマンが他県企業でリモート複業というのは難しい?
- パーソルプロセス
&テクノロジー成瀬 都心の企業でも、まだまだ複業やテレワークが普及しているわけではないんですが、実はやらざるをえない状況になっている企業が増えてきています。様々な事情で東京を離れないといけない従業員の方に対して、以前だったらそのまま辞めていただくという結論だったと思うんですが、今は「それでもいいから働き続けてほしい」となることが多いんですね。また、いろいろなノウハウや経験値を持っている方に働いてほしいと思っている地方の企業も増えているので、リモート複業が難しいというより、どんどんやりやすくなっているのではじゃないでしょうか。
- Work Design Lab
石川 Web会議も普通になってきていますので、逆に実際に集まらないといけない仕事は何なのか定義したほうがいいのかもしれないですね。それからテレワークのための環境も整えないといけないと思います。10人チームのうち1人だけテレワークの場合、会議で9人側だけで盛り上がって、テレワークの1人は「ホワイトボードが見えないな」みたいなことにならないようにしないと(笑)。せっかく人材を採用したのに環境を整えないのはもったいないです。
- TAAS大越
リアルで相対する理由ってあんまりないと思っています。最初の1回2回は直接面と向かってお会いして経営課題などを聞くということはありますが、それ以降の業務はいろんなツールを使えば会わなくても問題ないことが多いので。その場にいないといけないということが発生してこない印象ですね。
ー新規事業の展開やネットワークづくり、組織づくりの仕方はどうすればいい?
- TAAS大越
一言で言えば、権限委譲という言葉につきます。これは新規事業に関して往々に直面する課題で、新規事業を作るディテールがどうこうという以前に、組織の社内事情でつぶれてしまうことが結構あるんです。ですから、新規事業をやるとなったら、担当者に「自由にやりなさい」と託す姿勢が大事かなと感じています。
- パーソルプロセス
&テクノロジー成瀬 権限委譲された側も目的をちゃんと作れないといけないですね。その目的を達成するために必要であれば新たなネットワークを作る必要もあると思います。新規事業で外部人材を受け入れる場合、企業側としても刺激を受けられるのではないでしょうか。
- Work Design Lab
石川 僕らのケースで言うと、プロジェクトの下にコミュニティがあるような形になっています。コミュニティが下に広がっていると、課題の輪郭を早くハッキリさせることができるんです。たとえば社会福祉系のサービスに関わる場合、自分だけで調べて情報を集めるのは大変ですけど、コミュニティの中の社会福祉に詳しい人達に話を聞くと、課題の全体の輪郭がわかる。わからないでプロジェクトを進めるとめちゃくちゃ時間がかかることがあるので、わかっている人を取り込むのは意味があるなと思います。
- ヤフー鈴木
外部人材の方と企業のマッチングのポイントはどういったものでしょうか?
- パーソルプロセス
&テクノロジー成瀬 相性ってすごく大事だなと思っています。結局、人と人とがやっていくので、企業側の担当と外部から来ていただく方の相性はすごく大事なんです。最近、新卒採用の面接官もやらせていただいてますが、志望者と会社との相性を見るようなやり方に変えています。外部の方とのパートナーシップも同じなんじゃないでしょうか。
ー最後に茨城で新しいものを生み出したいと考えている方々にメッセージをお願いします。
- Work Design Lab
石川 「自分にはその視点はないなあ」ということが結構あると思いますので、ひとりで新しいモノを作っていくのは難しいなと感じています。小さくても新しいプロジェクトを創って自ら動いてみる、動けばまた新しいことが見えてくると思っています。行政や大学、金融機関を巻き込めると、各ステークホルダーにとってメリットがある仕組みになるんじゃないでしょうか。
- TAAS大越
日本企業はアクションが遅いと世界中で言われ続けています。時価総額ランキングを見ると30年前は日本企業が上位を占めていたのに、今はトップ30にも入っていない。これはずっと下がり続けていて進歩がないということを意味しています。ですので、いかに意思決定を早くするかという重要性が問われている時代になっています。やりたいと思ったら、是が非でもトライしていただきたいですね。
- パーソルプロセス
&テクノロジー成瀬 本日ここにいらっしゃったということは何かを期待されていらっしゃるんだと思いますので、ぜひ小さな一歩でもいいので行動に移していただけたらと願っています。茨城県の事業だから言うわけではないのですが、いろんな自治体さんと話す機会があると茨城県が注目されていると感じます。客観的に見ても先進的になっていると感じます。その中にいらっしゃる皆さんにはチャンスが来ていますので、ぜひアクションに移していただきたいと思います。
17:30 次年度事業の概要説明
イベントを締めくくる懇親会の前に、平成31年度の茨城県の事業について、茨城県政策企画部計画推進課の小森学さんより説明がありました。
東京圏の企業人材と茨城県の企業人材をつなげるマッチングのスピードを上げるために、その間に中間支援のためのプラットフォームを作るとのことです。茨城県の魅力度を上げるための「if design project 茨城未来デザインプロジェクト」が2018年9~12月に行われましたが、来年度も継続して実施する方向で動いていることなども語られました。
17:40 懇親会
最後は登壇者をまじえての懇親会です。茨城のお酒「結ゆい」や茨城産の美味しい食べ物などがふるまわれ、会場のそこかしこで活発な意見交換が行われました。登壇者と参加者、そして参加者同士の交流が進み、今回のイベントは新たな人脈作りの場ともなっていました。参加者の中には、複業人材を受け入れたい茨城の方も、複業人材として茨城に関わりたい方もいらっしゃいましたが、ひょっとすると、この日は新しいビジネスが生み出すきっかけになったのかもしれません。
&テクノロジー成瀬
都内の中小企業の経営者さん向けに複業や外部人材の活用についてのイベントを行わせていただいたのですが、皆さん、自社でどう複業を解禁すればいいか悩んでいらっしゃるのが実情かと思いました。自社で複業を行なったり、外部人材を活用することに関しては及び腰な状況もあります。
石川
複業人材というのはあくまで手段の話なんです。僕は地元の広島県で中小企業家同友会におじゃますることもあるんですが、やはり個社ごとに課題が違います。先に課題を明確にして、その課題を解決するという目的に対して複業ワーカーがハマるようであれば複業を検討するといった感じで、なにが目的なのかを明確にしないと話も噛み合わないと思います。
複業人材の活用によって経営意識の高い人材をはぐくむことができます。うちの会社のメンバーも複業をOKにしています。やはり、一社単独で働いて得られる知見や経験値より複数のところで得られるもののほうがはるかに大きい。その大きな知見や経験値を自社に還元してもらえれば、自社のパフォーマンスの向上にも貢献してもらえるという考え方を持っているんです。