【平成29年度 成果報告会①】 IT・ベンチャー企業が地方で取組む
人材確保×働き方改革

平成29年度 成果報告会②
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2018年2月15日、茨城県 トライアル移住・二拠点居住 推進プロジェクトの成果報告会を行いました。第1回は、茨城県でのトライアル移住や拠点開発を実践したIT・ベンチャー企業が登壇。会場となった上野駅に 程近いシェアオフィス「上野いいオフィス」には、通信、運輸、製造、ITなどの多業種から、人事・総務関係者や事業責任者など、さまざまなポジションの方 が足を運んでくださいました。

サマリー

報告会前半は、茨城県 トライアル移住・二拠点居住 推進プロジェクトに参加した3社がその体験をリポート。そこから見えてきたのは「地域と連動した新しい働き方の可能性」と「茨城における人材確保のポテン シャルの高さ」でした。後半では、3社の代表によるパネルディスカションを実施。地域を活用することが、どのように「優秀な人材の発掘」や「社員定着率の 向上」といった企業のメリットにつながるのか。実体験に基づく具体的なノウハウを共有する時間となりました。

16:00 プロジェクトの導入目的

まずは、茨城県企画部の渡邉友規さんによるプロジェクト紹介からスタートです。
茨城県では、2016年から東京圏の企業を対象にニーズ調査を実施。多くの企業が「いかに優秀な人材を確保し、継続的に雇用するか」を課題に掲げ、「従業 員満足度の向上」や「働き方改革」を模索していることがわかりました。一方、茨城県の課題は「人口の減少を緩和すること」と「地域の活力を維持するこ と」。東京へのアクセスがよく、豊かな自然を誇る茨城県でのリモートワークが、両者の課題解決になるかもしれない。そこで、茨城県への移住や二拠点居住を 検討する企業のトライアルを積極的にサポートすべく、このプロジェクトが立ち上がりました。
「新しい働き方の実現が、東京圏の企業と茨城県、双方にとってWIN-WINの打開策になるのではないかと考えています」と渡邉さん。トライアルに参加した企業は、コンサルティング、奨励金の支給、地元企業とのマッチングなど、多角的なサポートを受けました。

16:10 トライアル実施後の検証結果

続いて、このプロジェクトを受託運営するパーソルテンプスタッフの松山雅人さんから、2017年8〜12月にかけて実施されたトライアルの検証結果発表がありました。

今回のトライアルに参加したタイアップ企業は9社。水戸市、つくば市、結城市など茨城県内の各地で、延べ591日間行われました。社員の短期移住、 新拠点の構築、スタッフ合宿の実施など、参加のスタイルはさまざま。実施後のアンケートでは、こうした新しい働き方がもたらすメリットと、意外な効果も見 えてきました。

Q.通常時よりも残業時間が減りましたか?
96%が「減った」または「変わらない」
Q.普段よりも集中して働けましたか?
約70%が「普段よりも集中して働けた」
Q.通勤時間は通常より減りましたか?
64%が「減った」
Q.ワークライフバランスの向上につながりましたか?
約90%が肯定的
Q.ビジネス拡大・創出の可能性を見出せましたか?
約40%が肯定的
*アンケート結果より抜粋

「ワークライフバランスの向上については肯定的な答えが圧倒的で、参加された方々にとって実感の強い部分だったようです」と松山さん。「さらに特筆 すべきは、約4割の方がビジネスチャンスにつながりそうだと答えたこと。懇親会やイベントでネットワークが生まれ、そこから新たなビジネスに発展するケー スもあったようです」

16:15 事例発表①
水戸市にトライアル移住 by 株式会社キャスター 勝見彩乃さん
新しい働き方「ワーケーション」の可能性とは

実際にトライアルを体験した企業の発表に移ります。まずは「株式会社キャスター」の勝見さんの登壇です。同社では、オンラインアシスタントサービスや中小企業専門のデザインエージェンシーを運営。「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、すでに全社員300人がリモートワークをしています。「私たちがこのプロジェクトに参加した目的は『ワーケーション(「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語で、旅行先でのリモートワークを指すことが多い)』の社内認知を拡大し、従業員の満足度を向上することでした」

まずは勝見さん自身が1ヶ月間水戸に滞在。「日中は仕事に集中し、効率的に時間を使うことができました。休日は大洗や結城市でマリンスポーツや観光を楽しみ、余暇が充実しました」と話します。さらに、6名のスタッフが同時に短期移住を実施。「非日常の環境で時間を共有することで連帯感が醸成され、福祉的な効果が得られました」

同社の参加者の満足度は100%。メディアにも取り上げられ、ワーケーションの認知拡大も達成できたといいます。「事務職のリモートワークはハードルが高いと考えられているようですが、オンラインコミュニケーションツールを利用すれば、すぐにでも可能です。東京に近く、自然に恵まれた茨城は、取組みやすい環境にあると思います。通常の業務をそのまま行うだけでなく、自治体や現地企業との協業につながるとより魅力的ですね」

16:30 事例発表②
つくば市に新事業所を設立 by 株式会社ietty 村田大輔さん
地方での人材確保のリアルな結果

続いて登壇したのは「株式会社ietty」の村田さん。同社は、チャットを駆使したオンライン不動産仲介事業を中核とし、さらにそこで培ったノウハウによる会話型コマースの導入支援も行っています。首都圏での人材確保の競争の激しさを実感していた同社は、首都圏外に新たな拠点を設立し、優秀な人材を確保したいと考えていました。そこへちょうどこのプロジェクトの話が持ち上がったというわけです。

「つくば市の人材募集の現状を見てみると、接客業が71%を占めており、事務系はわずか6%でした。オフィスワークを希望している人にとって、そもそもの受け皿が非常に少ないのです。そこに我々のチャンスがあると考えました。地方だからと採用基準を変えることなく、非常に高い基準をキープしたままで、初月に4名の優秀なスタッフを採用することができました。翌月には10名に増員し、4ヶ月目には30名以上に。半年も経たずに増床のため移転することになりました」

このエピソードからも、働きたい意志を持つ優秀なポテンシャルワーカーがいかに多いかがわかります。「宅建など資格取得のための勉強会を開くなど、スタッフには業務外での学びの場を提供しています」と村田さん。さらには、筑波大学の学生にインターンの場を提供するなど、地域とのより深い交流も生まれはじめているそうです。

16:45 事例発表③
大子町で二拠点居住 by 株式会社CRAZY 小守由希子さん
二拠点居住は、スタープレーヤーにこそ向いている

最後に登壇したのは「株式会社CRAZY」の小守さん。同社は「人生が変わるほどの結婚式」をテーマにしたウェディング事業のほか、オーダーメイドケータリングや、法人向けのイベントプロデュースなどを行っています。「私たちの仕事は『人と向き合うこと』です。それは、お客さまに対してだけでなく、スタッフ同士でも同じです。そんな対面での文化を醸成してきた企業が、『場』を離れても人と向き合う文化を維持できるのか。私たちがこのプロジェクトに参加した目的は、その検証にありました」

「まず私自身が『1ヶ月のうち1週間を茨城で働きながら過ごす』というトライアルを3ヶ月間行いました。最初の1週間はオンラインミーティングの嵐。ずっとPCの前で仕事をしていただけで、茨城にいる意味がまったくなかったと反省しました。2回目の1週間は現地の視察ツアーに参加し、大子町の商工会とのつながりができました。現地に行けば自然発生的に接点ができるわけではなく、自分で動いて接点を設計しなければならないのだと学びました。最後の1週間は、茨城の環境だからこそできることをやりました。例えば、長期的なプランを立てるといった仕事は、東京にいるときよりもはかどりましたね」

小守さんいわく「二拠点居住は、社内のスタープレーヤーにこそおすすめ」とのこと。「属人化している仕事を共有できるようになり、本人も自分にとってベストなワークライフバランスを見つけることができます。さらには、社に残った人材の成長にもつながります」

さらに同社は、3ヶ月以内に入社した10名の社員とマネージャー4名での一泊二日研修を常陸太田市で実施。「壮大な自然の中で、じっくり語り合う時間が持てました。お互いが感じているカルチャーギャップを吐露し合い、よい関係性を築くことができました」

17:25 パネルディスカッション
移住・二拠点居住で実現する人材確保と定着

休憩を挟んで後半へ。テレワークの専門家であるパーソルプロセス&テクノロジーの成瀬岳人さんがモデレーターを務め、プロジェクトに参加した企業の代表とのパネルディスカッションがスタートです。パネリストの方々はこちら。

株式会社キャスター 代表取締役 中川 翔太

株式会社キャスター 代表取締役
中川 翔太さん

「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、オンラインアシスタントサービス「CasterBiz」やリモートクリエイター紹介サービス「Remote Style」を運営

株式会社ietty 取締役COO 内田 孝輔

株式会社ietty 取締役COO
内田 孝輔さん

不動産賃貸物件の紹介をチャットアプリにて行うオンライン店舗「ietty」を運営。営業スタッフが内見案内するまでのプロセスを担当。ヒヤリングなどの接客ソリューションを導入し、全国にエリア展開している

株式会社CRAZY 社長室 カルチャーオフィサー 小守 由希子

株式会社CRAZY 社長室 カルチャーオフィサー
小守 由希子さん

新卒1期生として入社。新卒採用責任者として2期生を採用。2年半ウェディングのプロデューサーを担当したのち、営業部を立ち上げ。トップ営業として前線に立ちながらも、カルチャーオフィサーに就任

Q.なぜこのプロジェクトに参加しようと思いましたか?

キャスター 中川

僕たちはそもそも全社員がリモートワークですから、全国に社員がいますし、どこにいてもらっても仕事はできます。サポートもしてもらえるというので「誰か行きたい人ー」って声を掛けて、手をあげてもらいました。もちろんこのやりとりもすべてオンラインです。

ietty 内田

うちの場合は、もともとオペレーションセンターを地方に立ち上げることを検討していました。とはいえ、ベンチャーとしては社内のリソースをあまり遠いところへ分散させるのも避けたい。そう考えていたところに、今回のお話がありました。

モデレーター

実は、茨城以外の場所で検討されていたと聞きましたが?

ietty 内田

当初からつくばも候補の一つではありましたが、甲府や高崎もあがっていました。僕自身が甲府に住んでいたことがあり、土地勘があるところはやっぱり安心ですから。でも、折よくこのお話をいただきました。拠点開発にはコストがかかるので、正直なところ助成金は魅力的でしたし、自治体から支援が得られるのではないかとも思いました。

CRAZY 小守

弊社の場合は、働き方として新しいことをしたいと考えていました。「ウェディング業界では無理なのでは?」という意見は多く、また社内では「なぜ茨城?」という疑問も出ました。が、茨城出身のスタッフが「茨城はいいところなんです!」と声を上げてくれ、その熱意が弾みをつけたというのもありますね。実は、2年ほど前に別の地域で同様の試みをしたのですが、そのときは「行きたい人は?」という呼びかけに誰も手をあげませんでした。時期も違うので単純には比較できませんが、実現には、距離や業務内容、タイミングなど、いくつかの条件が合致しなくてはならないと思います。

Q.採用の観点で、地域とコラボレーションできることは?

キャスター 中川

うちの場合、採用はすべてオンラインで行います。特定の「場」に来てもらうことはありません。すべてシステム化されていて、応募経路に応じて課題が出ます。採点し、一定以上の点数の人だけがオンライン面接へ。そこで人物を見ると同時に、オンラインミーティングツールを使いこなせるかどうかもチェックしています。
本当に優秀な人だけを採用しているので、採用率は0.78%と非常に低いです。社員の99%が女性で、70%が地方の人。ですから、うちの会社の在り方そのものが、地域とコラボレーションしているといえるかもしれません。
東京の賃金水準で募集すると、毎月1000人の応募があります。それって普通じゃない。なぜそうなるか。それは、やっぱり地方では男女の賃金格差がまだまだ大きいからです。地方の人材ポテンシャルは非常に高いです。マッチングさえうまく行けば、人材はいくらでもいます。うちは給料も高いですから、結局旦那さんより稼いじゃって、旦那さんが仕事を辞めて扶養家族になるケースもあるくらいです。

ietty 内田

つくばエリアでの求人状況を調査すると、飲食や販売などの接客業が大半。けれども、本当はオフィスワークを希望している人が多い。一方、うちは「接客ができるオフィスワーカー」がほしい。というわけで、お互いのニーズがうまくマッチしました。

モデレーター

実は、茨城以外の場所で検討されていたと聞きましたが?

ietty 内田

採用した人にはチャットでの接客をしてもらうことになりますから、面接もチャットで行います。まず自己紹介からしてもらうのですが、文章のマナー、適度な長さ、スピードなどをチェックします。接客業としての心配りはもちろん、チャットのレスポンシブな特性を感覚的に理解しているかを見ていますね。

Q.社員定着率の観点で、地域とコラボレーションできることは?

CRAZY 小守

女性の場合、結婚や出産といったライフチェンジにまつわる問題が大きいと思います。「子どもが生まれても仕事を続けらるのか?」「旦那さんが転勤しても働けるのか?」といった不安に対するポジティブな可能性が見えていたら、それは大きな安心感につながるんじゃないでしょうか。
今回、二拠点居住のプロジェクトに参加することで、会社として多様な働き方を推奨していることを社員にアピールできました。社員から「こんな働き方ができたらと思うのだけど、どうだろうか」と率直な提案が来るようにも。そういうオープンな環境がつくれたこともよかったです。

Q.企業が地域に期待することは?

キャスター 中川

「ワーケーション」自体に事業化の可能性があると考えています。けれども、自治体のほうが追いついていないケースが少なくないと感じます。「ここに行きたいか?」と聞かれたときに誰も手をあげない場所なんて、旅行でも行かないですよね。自分たちの地域の魅力は何か。それを検証せずにやっても何にもなりません。こういうプロジェクトでは、それができている自治体だけを選んでいます。いい地域であることが大前提。じゃなきゃ、行く意味ないですから。茨城に行ったスタッフは「大洗の波がいい」とか「アンコウがとにかく美味しい」といっていました。僕もアンコウ食べに行きたいです。

ietty 内田

僕たちは産学連携の共同研究をいくつか進めているのですが、今後筑波大学とも新しい研究をはじめることになりました。新しいビジネスを創出するという観点で見ると、ただ移転しただけでは難しい。これまでにない環境が新たな発想を生み出すことはあるでしょうが、より確度を高めるには、自分たちが持っていないリソースを持つ場所というのは、行く意味がありますね。

Q.もしも「トライアル移住・二拠点居住」をやり直せるとしたら?

モデレーター

実は、プロジェクトを運営していた私たちは、当初は「大手企業の介護離職者が減るのでは?」といった流れを予測していました。しかし、ワーケーションや優秀な人材の確保など、よい意味で予想外の展開がありました。そこで、みなさんにこのような質問をさせていただきました。

キャスター 中川

僕たちにとってはリモートワークは普通のことなので、今回のプロジェクトも何の支障もありませんでした。踏み出せない企業は何らかの支障があるのでしょうが、逆に何が支障なのか聞いてみたいです。

ietty 内田

正直、つくばの拠点立ち上げは想定以上にうまくいったんです。もう一度やり直せるとしても同じアプローチをすると思います。一つあるとしたら、いい人材が採用できたことで半年も経たないうちに増床のために引っ越したので、最初から大きく賭けておけばよかったな、と。

CRAZY 小守

私たちにとってこういう取組みは初めてのことだったので、経験値のある企業にヒヤリングできる機会があったらよかったなと思います。それと、体験したスタッフの個人のインプットに終わらないよう、その人からのアウトプットをほかのスタッフにどう展開するかも大切だと感じています。

モデレーター

小守さんがおっしゃった「情報交換」については、運営側として反省するところです。今後はそのような機会をつくっていけるようにしたいと思います。

Q.これから参加を検討している企業へアドバイスするなら?

キャスター 中川

まず、やることです。ダメならダメでいい。業態的に無理な企業もあるとは思います。

ietty 内田

拠点開発の第一歩として、ニアショアはおすすめです。立ち上げ当初は本部から人材リソースを持ち出すことになると思いますが、距離的に遠いところはやっぱり難しい。首都圏から1〜2時間の場所なら、成功確率は高まります。

CRAZY 小守

こうしたプロジェクトを通して「時代は変わっていく」ということを全社員が認識できるといいと思います。今からやるからこそ、意味があると思います。

18:20 懇親会

質疑応答ののち、登壇者やパネリストを交えての懇親会へ。株式会社CRAZYのケータリングサービスにより、いちごのドレッシングのサラダ、納豆のミネストローネ、タコ飯など、茨城にゆかりのある食材を使った料理が振る舞われました。

報告会参加者のアンケートによれば、参加目的として最も多かったのは「働き方改革に関する事例情報集め」でした。改革を検討しているけれど、現状に照らしてどこから着手すべきかと模索している企業は少なくないと思います。茨城にはこのようなトライアルの仕組みがあること、一社一社に合った多様な取組みが可能であることを知っていただければ幸いです。