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茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
Pizzeria PIATTAFORMAオーナー
五十嵐快さん
決意と応援から生まれたキッチンカー。大切なのは、「その場でできることを一生懸命やる」こと
独立開業するときに大切なものとは何だろうか?スキルを磨くこと、市場調査をすること、マーケティングを徹底することなど、挙げれば枚挙にいとまがない。しかし、仕事である以上、お客様に真剣に向き合う姿勢は、何を置いても重要なことではないだろうか。
今回話を伺った高萩市の五十嵐快(いがらし・かい)さんも、その姿勢を第一に事業を続けている1人。今回は、そんな五十嵐さんに、開業の背景と事業へかける想いを伺った。
おいしく楽しい、本格ピザのキッチンカー
「一番大切にしているのは、楽しい気持ちで食べていただくことです」
朗らかにそう語る五十嵐さん。
五十嵐さんは、手作りのピザ屋「Pizzeria PIATTAFORMA(以下、ピアッタフォルマ)」のオーナーでありピザ職人。石窯付きのキッチンカーで、茨城県北地域を中心にさまざまな場所に駆け付け、本格的な焼き立てピザを提供している。
大きく開いたキッチンカーの窓からは、赤いタイルで飾られた石窯と、手際よくピザ生地を伸ばしトッピングを乗せていく五十嵐さんの姿が見える。黒板にはその日のメニューが書かれ、なかには県内の生産者の名前を冠したピザもある。いきいきとピザを作る五十嵐さんの姿とあわせて、おいしさへの期待が高まってくるばかりだ。
茨城県産の小麦粉で作ったピザ生地の上に、新鮮な野菜やチーズ、魚介類などを、奇をてらわずシンプルに乗せて焼き上げるのが五十嵐さんのスタイル。
「キッチンカーでも、レストランで食べるものと遜色ない美味しさを提供したいです。そしてこのピザを通して、トッピングの生産者さんの情熱も届けたいですね」
明るくハキハキと話してくれる五十嵐さんは、お客様とのコミュニケーションにも積極的。サービスの基本である挨拶を欠かさないのはもちろん、生産者の話をしたり、冗談を言ったり言われたり、ピザづくりの様子から生まれる会話を楽しんだりと、店先での楽しい時間を作り出していく。
さらに五十嵐さんは多才で、人力車を引いたり、ソムリエとしてワイン会を開催したり、キッチンカーや生産者が集うフードイベント「ピアッタマルシェ」を主催したりと、地域を盛り上げる取り組みも行う。
「自分が住む地域を楽しくしていきたいですね。自分の妻や子どもが暮らしている場所だからこそ、高萩はもちろん、茨城全体を楽しくしたいし、好きになりたい。それに、皆さんにも好きになってもらいたいですね」
ピザづくりに留まらない五十嵐さんのアクションは、きっとたくさんの縁を生み出していることだろう。
実は、キッチンカーの名前「ピアッタフォルマ(Piattaforma)」は、プラットフォーム(Platform)のイタリア語読みから名づけられている。そこには、キッチンカーを地域の発信場所に見立て、地域の生産者、飲食店、そしてお客様を繋いでいきたいという五十嵐さんの熱い想いが込められているのだ。
失業から一念発起で作り上げた「いきいきと働ける場所」
五十嵐さんは、高萩市出身。飲食業界で15年、人力車の車夫として3年というキャリアを持つ。
都内の大学卒業後は俳優を志す。養成所に通いながらもイタリアンレストランでアルバイトを続け、さらに「英語ができる俳優」を目指すため、外国人観光客も多い浅草で車夫としても働くようになったそう。
一時期は不動産業界にも身を置いていたが、飲食業界への興味は尽きず、30代半ばで茨城に戻り、水戸市のオイスターバーに転職。一度は横浜市の系列店に転勤したが、結婚を機に水戸市の店舗に戻り、さらにその後、地元高萩市の近くで働こうと日立市のレストランに就職。そこで3か月ほど働いたころ、五十嵐さんに大きな転機が訪れた。
それは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた失業だった。
さらにこのとき、五十嵐さんの妻のお腹には新しい命が宿っており、精神的にも金銭的にも家族を支えなくてはならない時期。そのためにも、自分の力を活かせる飲食業界での再就職を希望していたが厳しかった。
背に腹は代えられず、他の業界で仕事をしようと仕事を探していった五十嵐さん。しかし、これから家族を支えていく自分自身を考えながら、違和感を覚えていった。
「これから生まれてくる子どもに、いきいきと頑張っている姿を見せたいと思ったし、妻を不安にさせたくないという気持ちもありました。だから、どうしても自信を持って全力で打ち込んでいる姿を見せられる仕事がしたかったんです」
そんな想いの中、水戸の経営者の紹介で出会ったのがキッチンカー。飲食店への就職を考えていた五十嵐さんだが、調べながら、食とワインとコミュニケーションを掛け合わせたサービス提供の可能性を見出していった。
また、高萩市のフードイベント「高萩テイクアウトランチ」の存在を知ったことや、キッチンカー出店をする人たちと出会い実際に話を聴けたのも大きな後押しになったそう。
そしてキッチンカーでの独立を決意した五十嵐さん。
キッチンカーの車両づくりには、長年移動販売を営んできた経営者が協力してくれた。五十嵐さんが水戸の人力車イベントで生まれた縁からの紹介だったそう。その経営者は、五十嵐さんの想いに共感し、自分が使おうとしていた車両を譲ってくれただけでなく、車体の改造も引き受けてくれたのだった。
「僕のキッチンカーには、その経営者が移動販売で培ってきたノウハウも活かされています。作業場は水戸市でしたが、僕もお手伝いさせていただきたくて、高萩市から下道を走って10回以上は足を運びました」
車両の購入と改造費用は、クラウドファンディングで調達。茨城県内のプレーヤーたちがクラウドファンディングを成功させているのを見て、チャレンジに踏み切った。プロジェクトページの文章も、地域で知り合ったプレーヤーや経営者たちのアドバイスを受けながらしたためていったそう。
五十嵐さんのプロジェクトは、なんと公開後3日で第一目標金額を達成。最終的には、168人から170万円を超える支援を獲得した。
そしてキッチンカー「ピアッタフォルマ」がオープンしたのは、2021年1月16日。以来、県内の様々な店舗や施設、イベントに出店を続けている。さらにSNSや紹介を通じて、茨城県内の情熱ある生産者に出会い、ピザづくりに留まらない交流も育んでいる。
一生懸命になるからこそ、お客様から選ばれる
2021年の開業以来、約2年半に渡ってキッチンカーを続けてきた五十嵐さん。事業を始めたときから大切にしてきたこと、そしてこれからも大切にし続けていくことを、五十嵐さんはこう語る。
「初めていらっしゃる方にも、何度も買いに来てくださる方にも、一生懸命、思いやりを持って向き合ってきました。たとえば、挨拶をする、きちんと目を見てお礼を言う、お客様からの話にしっかりと受け答えをするなどですね。オープン当初はピザを作るだけで精一杯でした。それでも、コミュニケーションは料理から独立したものではなく、セットになっているものだと思って、手を抜くことなく大切に続けています」
目の前のお客様一人ひとりに丁寧に向き合い続けるからこそ、「選ばれる店になっていく」と五十嵐さんは信じている。
その可能性を実感したのは、浅草で車夫をしていた時のことだった。
「東日本大震災直後で、浅草にも観光客がほとんどいない時期でした。それでも、浅草を楽しんでいただきたくて、人力車に乗って下さるお客様一人ひとりに、ガイドやお話をさせていただいたり、風景を見計らって車のスピードを調整したり、お客様のお話にしっかり耳を傾けていたりということを続けていました。その積み重ねで、僕の人力車にどんどんお客様がついて、最終的には日本で300人いる車夫の中でトップの成績になることができました。もちろん、市場調査を駆使することも大切です。でも、信念をもって続けることで、お客様に認められていくのだと思います」
車夫時代に培った、「お客様のために、その場でできることを一生懸命やる」という心構え。その信念をキッチンカーにその気持ちを注ぎ込んで、おいしいピザと、真心のこもったサービスを届けている。
その姿勢は、ピアッタマルシェのイベントづくりにも生かされている。五十嵐さんが思い描くのは、「出店者もお客様も、みんな笑顔で楽しんでいるイベント」。会場にいる人みんなで、気持ちを共有しながらその場の雰囲気を醸し出してゆく。
そんなイベントを目指しながら、イベントの設計や出展者とのコミュニケーションを積極的に行っているとのこと。
「ピザづくりもイベント企画も、のめり込んだ方が楽しいし、好きなことを一生懸命やって、それがお客様の喜びに繋がったら、本当に嬉しいですね」
目標はピザとワインの店づくり
地域の人たちに支えられ、お客様一人ひとりと向き合いながらキッチンカーを続けてきた五十嵐さん。「おいしいピザを気持ちよく食べてもらいたい」という気持ちから、コミュニケーションを大切にしながら打ち込む五十嵐さんの仕事ぶりは、ピザをよりおいしくさせ、家族や、五十嵐さんを応援した人たちにとっても大きな誇りになるかもしれない。
五十嵐さんには目標がある。それは、高萩に自身の店舗を構えること。ピザとワインを楽しめる店を目指し、計画を進めているところだ。
「ピザとワインをたっぷり楽しめて、ワインセラーでおいしいワインを買って帰れるようなお店にしたいです。高萩を好きになってもらうきっかけの場所になってほしいですね。ゆくゆくは、想いを共にできるスタッフたちと店を盛り上げながら、新しくイベントを企画したり、人力車を引いたり、色々なことにチャレンジしていきたいです」
キッチンカーから、次の挑戦に向かう五十嵐さん。新たな道に踏み出してゆくが、大切な想いは変わらない。
「キッチンカーでも、お店でも、楽しく働きながらおいしいピザをつくること、お客様に喜んでもらうことは、これからも同じ。そのときできることに、一生懸命打ち込んでいきたいです」