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茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
COFEE STAND GENKAN店長
神定祐亮さん
本格的なコーヒーと、地域とのつながりを届ける
日立駅からけやき通りに向かって5分ほど歩くと、「COFEE STAND GENKAN」のコーヒー色の扉が見えてくる。豆の焙煎販売所「ただいまコーヒー」を手掛ける、株式会社ただいまの新店舗だ。
企画、資金調達、内外装の設計のすべてを、株式会社ただいまの社員で、バリスタの神定祐亮(かんじょう・ゆうすけ)さんが担った。開店から丸3年経った今では、近所の頼れるお兄さんのような存在に。店先で下校途中の学生や散歩中の地域の人たちと楽しげに挨拶を交わす姿が印象的だ。
日立市内外の人々にとって、街のランドマークになるようなコーヒーショップを目指して運営を続ける神定さん。店舗を立ち上げるために大切なこと、そして行動の原動力について伺った。
街のランドマークを目指して始動したGENKAN

地域の人々が次々に来店し、通勤前や帰宅までのひと時を、本格的なコーヒーと共に思い思いに過ごしている。
「COFEE STAND GENKAN」(以下、GENKAN)は、「『ただいまコーヒー』のコーヒーをゆっくり座って楽しめる場がほしい」というお客様の要望に答える形で、2020年に日立市の「HUB Square HITACHI」の一階でオープン。店長として開店準備を担ったのが神定さんだった。
「完全にゼロから開業を任せてもらったので、私にとっても、会社としても、大きなチャレンジだったと思います。支援してくれた方々の期待を励みに、絶対に成果を出してやろうという強い気持ちを持ち続けました」と、神定さんは当時の気持ちを振り返る。
GENKANはクラウドファンディングで開業資金を調達。
プロジェクトページで打ち出したコンセプトは「日立市のランドマークになるコーヒースタンドを!」だった。
ランドマークという言葉には、神定さんの二つの想いが込められている。
その一つは、街の目印となるような名所に育ってほしいという願い。地元の日立市に人の賑わいを増やしたいという思いから、日立市を訪れるきっかけとなるような店舗を作りたいと考えていた。
もう一つの想いとは、GENKANを日立市での思い出が詰まった場所にすること。
「GENKANでの体験が、お客様の記憶の片隅に残せたら良いと思っています。そして、みなさんが疲れたとき、逃げたいような気持ちのときに、一息つくための場所として思い出してもらえる場にしたかったんです。それが、私が思い描くランドマークとしてのGENKANのイメージですね」
神定さんが目指す街のランドマーク像はすでに少しずつ実現しはじめている。
観光や出張で日立に訪れた人が、休みの日にわざわざもう一度GENKANに来店したり、地元を離れた学生が帰省時に遊びに来てくれたりと、繰り返し来店してくれるお客様が多いという。
「私たちGENKANのメンバーは、コーヒーの専門知識を持つプロのバリスタです。一方で、カウンターに立つときには、地域の人たちを取り次ぐ玄関番でもありたい。そしてお店に来てくれた皆さまに、素敵な体験を持ち帰ってほしいと思っています」
玄関先での温かいやりとりが「GENKAN」になるまで

「周りの人の喜ぶ顔が見たいから何かしてみるというクリエイティブ精神が、お店作りの土台になっている」と語る神定さん。
GENKANが地域に親しまれる店舗になるまでに、どのような道程があったのだろうか。
出発点は、県外で就職していた神定さんが、転職を機に地元・日立市にUターンしたところにある。人生の岐路に立ち、自分自身の経験を振り返るなかで、生まれ育った地域の人たちとのつながりが、とても大切な思い出になっていることに気がついた。
「小さいころは、家族や近所のおじちゃん、おばちゃんによく可愛がってもらっていました。それで自分も身の回りの人たちを喜ばせるのが好きでしたね。身近な人の喜ぶ顔が見たいから何かしてみるというクリエイティブ精神は、そのころの体験が根幹になっているのだと思います」
神定さんにとって実家の玄関先は、地域の人たちに愚痴を聞いてもらったり甘えたりできる、居場所のひとつだった。家族でも他人でもないからこそ、素直に話ができて「心がほっと温まる感じ」がしたという。
そうした居心地の良い玄関先の原風景を作り出したいというところから、店舗のコンセプトを発想しはじめた。そこから今の日立市で暮らす子供たちとも、心の支えになるような、ふるさとの思い出を一緒に作りたいという思いがふくらんできたという。
「おいしいコーヒーが飲めるカフェは既にたくさんあります。だからこそ、GENKANでは、自分が日立でやりたいことを思い切り表現することにしました。そうして考えついた目標が、子どもたちがいきいきと暮らす地域づくりでした」
196名から「お守り」をもらったクラウドファンディング

お店のキーワードは「玄関 to GENKAN to 玄関」。地域の人々にとってのサードプレイスである一方、遠方から訪れた人にとっては日立と、その人の街をつなぐ玄関口でもある。
開業準備を始めたときには、コンセプトの決定、資金繰り、内装工事、商品開発をゼロから半年足らずで完了させなければいけない状況。開業資金の調達のため、神定さんは早速クラウドファンディングに着手した。
「クラウドファンディングが成功した理由は、自分の考えや、感じていることを素直に伝えるようにしたことだと思います」と、神定さんは思い返す。
神定さんは、プロジェクトページでこれまでの経験や新規店舗に対する想いを率直に綴ることを意識した。
前職の大手コーヒーチェーンでは、洗練された自己ブランディングのなかで、弱音を見せたり、自分の気持ちを素直に表現できず、それがプレッシャーになっていたという。
そうした経験から、GENKANの開業に際しては、心を開いて人と接するという姿勢で臨み、素直な思いを書き起こしていった。
その結果、クラウドファンディングは当初の希望金額の200%を超える大成功を収めた。仕事の都合で離れた地元をより良くしてもらいたいという期待や、高齢な自分に代わって若者の活躍を応援したいという声など、日立で開業しようという神定さんのもとには、たくさんの温かいメッセージが届いたそうだ。
「クラウドファンディングの成功は、私たちのありのままの考え、価値観に共感してもらえたということの表れだと受け取っています。地域の方々の気持ちを知れたので、クラウドファンディングをやってよかったと思います。今でも196名からの支援をお守りのように大切に思っています」
お店で生まれた「だんらん」を、積極的に育んでいきたい

満足度の高いホスピタリティを提供するため、GENKANでは、メンバーとの価値観の共有に力を入れている。
GENKANには、二度、三度と訪れたくなるような仕掛けがふんだんに盛り込まれている。神定さんのアイデアの核には、GENKANを一家だんらんのような雰囲気が生まれる場にしたいという意図があった。
そうした思いのもと、GENKANのメンバーは人々を取り次ぐ玄関番として、挨拶をとても大事にしているそう。
「いらっしゃいませ、という言葉だとスタッフからの一方通行で終わってしまいますが、こんにちは、という挨拶はお客様とのキャッチボールになるし、そこから、だんらんが生まれます。挨拶はすごくパワーを秘めていると思っています」
挨拶からはじまる気軽で肩肘張らない雰囲気が、GENKANで一家だんらんのような雰囲気が生まれる基礎になっている。
神定さんがGENKANで提供する体験は、店頭での出会いだけに留まらない。来店した人のSNSのフォロワーが増え、新たなつながりが生み出されることも、狙いの一つだという。
そのため、お店を利用してくれたお客様の投稿は、GENKAN公式アカウントで積極的に拾い上げて拡散。オンライン、オフライン問わず、GENKANの雰囲気をより多くの人に知ってもらい、さらに価値観に共感した人を玄関番として取り次ぐことで、お客様同士のだんらんが自然と生まれるような環境を目指している。

「ただいまコーヒー」で製造したコーヒーを提供。お子様向けのメニューや季節ごとの特別メニューも大好評。
またGENKANでは、見ず知らずのお客様同士の会話が弾み、新たな交流が生まれることも多い。そして名刺交換が始まったり、趣味仲間ができたり、共同起業につながったりしたケースもあるのだそう。GENKANでは日々嬉しい反応が生まれている。
「これからはGENKANで生まれた取り組みや既存のコミュニティを、積極的に支援していきたいですね。たとえば、キャンプ好きの人たちのコミュニティを後押しするため、キャンプに特化したおいしいコーヒーの淹れ方を教えるイベントをしたいと思っています」
神定さんは、さらにコミュニティを育んでいくための新しいアイデアを楽しそうに語った。
自分にとっての「わくわく」が原動力になる

GENKANで流れるだんらんの時間を楽しむ方の世代は幅広い。小学生のお客様から、お手紙をいただいたこともあった。
最後に開業前のコンセプトづくりから店舗運営まで、すべてをまとめ上げてきた神定さんの情熱の源はどこから来るのか聞いてみた。
「誰かを喜ばせたいという気持ちが原動力だし、仕事のエネルギーなんです。昔から人を喜ばせることが好きで、それで相手が喜んでくれれば、さらに嬉しくなる。その好循環を形にしたのが『GENKAN』なので、ずっとわくわくしていますね」と神定さんは笑顔で語った。
また自身の体験を振り返りながら「自分にとって何が本質的にわくわくすることなのか、しっかり内省すると、より行動しやすくなると思いますね」と、これから起業を目指す人にエールを送った。
「開業したり、クラウドファンディングをしたりするときには、それ自体を目的にしないことが重要。そのプロジェクトを使って何に貢献できるのか考えることからスタートしてみてほしいですね。使命感だけでも、自己満足だけでも、良い事業は生まれないと思います。開業したときに喜んでくれる人の顔を想像して、そこに自分自身もわくわくすれば、開業はきっと成功すると思いますよ」