茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI

STAND IBARAKI

THINGS

想いをカタチにする 学びと実践のプログラム

STAND IBARAKI

想いとアクションで茨城に飛び込む、ローカルプロジェクト実践プログラム

ローカルプロジェクトに参加したり、実践したりする動きは、少しずつ増えていっている。

その一方で、プレイヤーたちが、どんな想いでアクションを起こし、プロジェクトを進めていくのかは、なかなか知る機会が無いのではないだろうか。

そんななか茨城県では、2022年度もローカルプロジェクトの立ち上げと継続を応援する「STAND IBARAKI」を開催。プログラムを終えた今、今年度のMVP受賞者に自分のプロジェクトを立ち上げ、実践することへの想いを伺った。

21組のローカルプロジェクトが茨城に誕生

STAND IBARAKI公式サイト


2022年度も開催されたSTAND IBARAKI。茨城でチャレンジしたい!という方が、自ら設定したプロジェクトのオーナーとして、そのプロトタイプを実践する6ヶ月のプログラム。ローカルで実践する際に必要な、地域のキーパーソンとの繋がりを得たり、事業の作り方を学んだりしつつ、県内外の先輩プレイヤーのサポートを受けながら実践できるのが特徴だ。

今年度は、茨城県内外から21組がプロジェクトオーナーとして参加。
地域課題解決や自己実現を目指しながら、情報発信、場づくり、街づくり、音楽フェスなど様々な切り口のプロジェクトを作り、Day1から全8回のプログラムのなかで、学びと実践を繰り返していった。

Day1から6では、座学とフィールドワークを通して、メンターやローカルプレイヤーに学び、フィードバックを受けながら、プロジェクトの実践や発信を繰り返していく。

STAND IBARAKIは2020年度から開催されてきた(前回・前々回の名称は「STAND」)が、最終公開プレゼンピッチがリアル会場で開催されたのは今回が初めて。


Day7の最終プレゼンピッチでは、メンターや一般視聴者に向けて成果を発表。リアル会場とオンライン配信のハイブリッド形式で行われ、会場には58名、オンラインには26名の一般の方が参加。一般参加者からプロジェクトオーナーたちへの応援メッセージも多数寄せられた。

最後のDay8では、最終プレゼンピッチで選ばれた3つのプロジェクトを、一般参加者とともにブラッシュアップする公開作戦会議を開催。これからも続いていく茨城のプロジェクトに期待を高めながらSTAND IBARAKIは幕を閉じた。

また期間中には、プロジェクトオーナー同士も活発に交流し、視察や勉強会、プロジェクトの体験などが行われ、茨城県が多様で豊かな地域になっていく兆しが感じられた。

フィールドワークや中間報告会以外でも、プロジェクトオーナーたちは主体的に活動。視察やイベント体験、イベント出展への応援など、プログラムの枠を超えた交流が生まれた。


今年度、最終プレゼンピッチで選ばれたプロジェクトオーナーに贈られた賞は、以下の3つ。

NEW IBARAKI賞 メンター&オーディエンスの総合評価
STAND IBARAKI賞 プロセスとファン獲得が面白い賞
オーディエンス賞 オーディエンス投票得票数で決定

ここからは、受賞者3名の、プロジェクトへの想いを紹介したい。

左から、オーディエンス賞の大越瑞生(おおこし・みずき)さん、STAND IBARAKI賞の横地綾人(よこち・あやと)さん、NEW IBARAKI賞の和田真寛(わだ・まさのり)さん。


NEW IBARAKI賞:自然とまちと人がつながるかくれ宿 DAIGO SAUNA PROJECT

購入した古民家の敷地内にある石蔵がサウナ。大子の街を見渡せる丘の上にある。


プロジェクト概要
大子町のサウナプロジェクト。サウナ、一棟貸しの古民家宿、地域交流拠点が事業の柱。人が出会い新たな「コト」が生まれ、大子町での体験のハブになる場所を目指す。大子町や近隣のプレイヤーと連携しながら企画進行中。
こちらの動画から、和田さんがサウナづくりをきっかけに地域交流を深めていく様子をご覧いただけます。

プロジェクトオーナー:和田真寛さん
水戸市出身、東京在住。空き家再生コンサルティング業を営む。現在、家族で東京と大子町との二拠点生活を実践中。自分らしく生きたい、東京とは違う価値観が欲しい、という想いが本プロジェクトに繋がっている。

企画の背景:自分の「やりたい」を社会に繋げていく

サウナの点火式には友人やプロジェクトオーナーたちが参加。


DAIGO SAUNA PROJECTは、二拠点生活がしたい、古民家をリノベーションして住みたい、プライベートサウナが欲しい、大子町で東京の人と楽しみたい、といった和田さんの夢や理想から始まった。

親の介護と仕事に追われ、やりたいことができなかった20代。東京で空き家再生事業に就き、知識やスキル、自信がついてきた30代。そして、「茨城に戻り、何かやりたい」と思うようになったのだそう。

和田さん「茨城で何かやりたい、と考えていたとき、東京で開催されていた茨城のイベントに出会い、今回の参加に繋がっています。僕の場合、プロジェクトは儲けを考えて始めるよりも、『自分のやりたいこと』から始まり、そこに収益性や社会性を繋げていきたいタイプ。STAND IBARAKIのメンターさんたちも、僕と似た流れで事業を始めた人が多い印象でした。だから、地方や経済規模の小さいエリアで、どうやって事業をつくるかを聞けたのは大きな収穫でした。僕自身も実践してみて、プロジェクトを続けられる感触を得られましたね」

家庭との両立:先輩のアドバイスから、改めて家庭を見つめなおす

2023年にサウナ営業をスタートさせ、宿泊営業、法人向けプランも提供開始予定。その後は法人化を目指しつつ大子町内や東京都内でも新規プロジェクトなどを多角的に進めていく。


「やりたいこと」から始まったプロジェクトだが、和田さんにとっては事業づくりでもある。仕事と家庭がある中、さらにSTAND IBARAKIに参加し、大子町でのサウナづくりを進めるのは大変だったはずだ。

しかし和田さんは、「結果的に家族と関わる時間が増えた」のだそうだ。

和田さん「家族との時間が増えていきましたね。二人の子供がいて、プログラム期間中に妻が仕事に復帰しましたが、自分も『今は子育てをする時期だ』と自覚して仕事・家庭・プロジェクトの時間を設計しました。実は、メンターさんとの他愛のない会話から家族の話になり、それが時間の使い方を見つめなおす大きな気づきになったんです。家庭の役割も当たり前にこなして活躍されているメンターさんの話には説得力があったし、とても良い刺激になりましたね」

ローカルプロジェクトの意義:強い想いがあるからこそ、地域で活躍できる

サウナのウッドデッキ作りはイベント化し、交流しながら楽しく作業をする機会となった。近所の方も、作業をしている日はわざわざ床のタイルを貼りに手伝いに来てくれた。


東京を中心に二拠点で暮らし、自分の「やりたい」を実現していく和田さん。STAND IBARAKIを経て、「地域でのチャレンジ」をどのように捉えているのだろうか。

和田さん「東京で仕事やプロジェクトを経験した人が、課題はあるけど経済合理性を見出しにくい地域で力を発揮するのは、面白いですよね。そういう場所での活動こそ、ストーリーや強い想いが必要。それが無ければ応援してくれる人も現れないし、課題も解決に向かって行かないと思います。想いのある人たちが地域で活躍することこそ、本質的な地方創生かもしれませんね」

STAND IBARAKI賞:LOC SUP ITAKO

横地さんのプロジェクトLOC SUP ITAKOの公式サイト


プロジェクト概要
潮来市の地域資源「水辺」を舞台にしたプロジェクト。SUPで水辺を巡る企画を皮切りに、水辺から街へ、潮来から鹿行地域へ展開、様々なコンテンツを計画中。「水辺のある風景を日常に」というビジョンを掲げる。
※プロジェクト情報はこちらから

プロジェクトオーナー:横地綾人さん
東京都出身。経営コンサルタント。潮来市で暮らし、高速バスで都内の企業に通う。その距離往復200km。東京だけの人間で終わりたくない。プレイヤーとして潮来を盛り上げたい。そんな想いを抱きプログラムに参加。

仕事との両立:東京と潮来の自分が互いを高めあう

舞台となるのは、「水上」ではなくあくまで「水辺」。SUPになじみが無い人でも気軽に水辺の景色に親しめる街にすべく、活動を続けていく。


このプロジェクトは、横地さんが潮来市の仲間と「自分たちしかできないことをやりたい」という強い想いを1年かけて語り合うことから始まった。そこで着目したのが、潮来市の地域資源である水辺。潮来市は令和4年1月に「日本一の水路のまち基本計画」を立ち上げており、横地さんたちは「市民の視点も取り入れて活性化できるのでは」と考えたそうだ。

普段は「東京でも一流になりたい」と強い向上心で働く横地さん。その一方で潮来市で活動する横地さんは、大変かと思いきや「心身ともにバランスが取れていた」と事も無げに話す。

横地さん「常に気を張っている東京と、リラックスした素の自分でいられる潮来。それぞれで頑張るほど、双方にいい影響を与え合っていました。潮来で挑戦するときは、会社のブランドも通用しないし、家族からも間近で見られます。だからこそ自分の純粋な人間性で勝負できる。それがモチベーションに繋がりましたし、自己肯定感にも繋がりました」

想いの共感:ビジョンがあるから、仲間や街と一体感が生まれる

LOC SUP ITAKOのコアメンバーたち。4人とも、潮来市外からやってきた移住者。それぞれが自らのモチベーションを抱いて参加。


東京でも潮来でも挑戦を続ける横地さんが、仲間や地域の人々と想いを共有するために大切にしてきたのは「水辺のある風景を日常に」というビジョンを語ることなのだそう。

横地さん「プロジェクトメンバーにはもちろん、潮来市の関係者や水辺の事業者の皆様に、常にビジョンを語るようにしています。SUPの話ではなく『魅力的な水辺の景色を作りたい』という話ですね。そうすることで、それぞれが同志として協力しあえます。メンバーたちとは、このプロジェクトを通してそれぞれが何を実現したいかもよく話していました。メンバーはみんな仕事も背景も違うので、モチベーションを共有しないと、チームが瓦解してしまいますからね」

長く継続するために:小さな積み重ねが、街の景色を作る

まずは「潮来の水辺の景色」を作るところから始まった横地さん。今後、潮来から活動エリアを広げつつ、水辺を舞台にしたイベントやコンテンツを少しずつ増やしていくという。


「景色を作る」という大きなビジョンを掲げながら進んでいく横地さん。これから長く続けていくために、何を大切にしながら進んでいくのだろうか。

横地さん「LOC SUP ITAKOは、水辺から潮来を盛り上げていく企画。ですが、取り組みの一つ一つはとても小さく、今はまだ水辺をSUPで楽しんでいただいているに過ぎないです。ビジョンと実践のギャップが大きいので、なかなか成果が見えづらいですね。それでも、地道に何度も開催を繰り返し、街の景色になれるよう続けていきたいです。その積み重ねの上に、自分たちが思い描くビジョンの実現があると思います」

オーディエンス賞:まちをつくるアパート Co-mito

Co-mitoの舞台となる不動産。手前側がアパート、奥が家業の「おおこし化粧品店」へと繋がる母屋。


プロジェクト概要
茨城大学近隣にある、実家とその店舗、そこに隣接する大越さん所有の遊休不動産を活用し、自分の課題と地域課題解決を目指す。単なるアパート入居者ではなく、大越さんと理想の暮らしを語れる仲間を増やしてゆく。
※プロジェクト情報はこちらから

プロジェクトオーナー:大越瑞生さん
水戸市出身。理学療法士、出張料理人、アパートの大家。イベント企画や地域活動も実践。暮らしの中で自分の幸せに気づき、そして築き上げることを大切にしている。家業の化粧品店とアパートの課題に直面したことからプロジェクトを考案。

目標設定:自分の「根本の想い」に立ち返る

Co-mitoの発端となったアパートの一室は、DIYによって和モダンのような雰囲気に作り替えられた。大越さんはこの部屋を、テストマーケティングの場としても活用しているという。


家業のアパート入居者が少ないこと、大越さんの母が営む化粧品店のお客様が減ったことを、当事者として意識したことが、このプロジェクトの始まりだ。

そんな背景もあり、STAND IBARAKI参加当初は、「アパートの部屋をすべて埋めること」を目標にしていたそう。もちろん、数値目標は企画を進めるうえでのベンチマークにもなる。

しかし、大越さんは途中から「自分がこの場所で幸せな暮らしを体現する」という決して数値化できないものに定め直したそうだ。

大越さん「アパート運営では、満室を保つのは重要です。でも、それ自体を目標にすると、僕の根本的な想いからずれてしまうと思ったんです。収益だけを意識したら、物件の建て替えや、有料駐車場にすることも考えられます。でも僕は、人の繋がりや地域への想いを大切にしながら、僕自身が居心地よく暮らせる場所にしたい。それに、そんなアパートだったら僕がやる意味があると思いました。だからまず、自分自身が幸せな暮らしを実験し、体現し、周りの人に『僕の幸せに付き合ってもらう』ことを目指しました」

想いの共有:場所と時間を共にすることで、より自分の意図が伝わる

水戸市内外から数多くの人が楽しみながらCo-mitoに関わった。さらに、STAND IBARAKIプロジェクトオーナーたちもおおこし化粧品店に集まり、食事を囲みながらプロジェクトへの想いを語り合った。この関係性を、大越さんは「自分の幸せに付き合ってもらう」と表現している。


プロジェクトの中で、大越さんは「理想の暮らしに気づいて、実践して、シェアする」をコンセプトとして掲げていた。その概念を表す言葉としてCo-mitoという名前を付けたのだそう。

プログラム期間中は、多くの人が理想の暮らしの探求に参加。遊休不動産活用の枠を越えた、生き方の表現とも言えるこのプロジェクトを、大越さんはどのように伝えていったのだろうか。

大越さん「言葉で伝えること以上に、出会った人や、家に遊びに来てくれた人と、時間や体験を共にすることを大切にしてきました。例えば、一緒にご飯を食べたり、地域活動をしたり、アパートのDIYに参加してもらったり、思い出話をシェアしたり、といったことです。Co-mitoは、企画というより、暮らしそのものですからね」

どのように継続するか:人や街の想いとともに、自分も変化してゆく

Co-mitoのコアメンバーとともに、遊休不動産の活用を語る大越さん。建物だけでなく、敷地から広がる庭や林も理想の暮らしに気づいてシェアする場所として構想を練っている。


遊休不動産の活用から始まり、大越さんとその仲間たちによる、理想の暮らしに気づき、実践し、シェアするプロジェクトになっていったCo-mito。自分自身と切り離せない企画を進める大越さんは、これからどのように歩んでゆくのだろうか。

大越さん「実家のお店や遊休不動産をきっかけに生まれたプロジェクトですが、主題となっているのは、僕や関わってくれる人たちの『幸せな暮らし』。幸せな暮らしは1人では作れず、周りの人がいて初めて成り立ちます。人や街や想いは変わって行くもの。だからこそ僕自身も変化し続け、関りしろを大きくしながら、たくさんの人たちに関わっていきたいですね」

想いを大切にプロジェクトを続ける

最終プレゼンピッチ会場の来場者たちからプロジェクトオーナーたちに、たくさんの応援メッセージが寄せられた。茨城を舞台にしたプロジェクトへの期待が感じられる。


3人の受賞者たちの話を振り返ると、自分のプロジェクトを立ち上げ、実践するために、

「自分の『やりたい!』を大切にすること」
「想いやビジョンを、言葉だけではなく行動でも伝えていくこと」
「人や想いを大切にしながら、小さな積み重ねを続けていくこと」

といった姿勢を大切にしてきたことが伺える。そしてその意気込みは、今回紹介した3名だけでなく、STAND IBARAKIに参加した全てのプロジェクトオーナーたちからも感じられた。

茨城をフィールドに挑戦したい人は、プロジェクトオーナーたちにぜひ会いに行ってみてほしい。ローカルで一歩踏み出すヒントが、きっと見つかるはずだ。

PROFILE

THINGS

STAND IBARAKI https://standibaraki.jp/

茨城でチャレンジしたい!という方が、「自らが設定したプロジェクト」のプロトタイプを実践する約半年間のプログラム。「ローカル」で実践する際に必要な「地域のキーパーソン」とのつながりを得たり、「事業の作り方」を学んだりしつつ、県内外の先輩プレイヤーからのサポートを受けながら実践することができるのが特徴。

INTERVIEWER

佐野匠

1985年茨城県下妻市生まれ。20代半ばに東京から地元に戻るも、キャリアもスキルも学歴も無かったため、悩んだ末にボランティア活動に参加し、その中で写真、文章、デザイン、企画、イベント運営などのノウハウや経験値を蓄積。最近やっとライターやフォトグラファーの仕事を頂けるようになりました。カッコいいと思うものは、マグナム・フォトとナショナルジオグラフィック。

Photo:石川大地(常陸太田市)、佐野匠(つくば市)、蓮田美純(水戸市)(一部提供写真を除く)