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石井杏奈さん・花奈さん

SPOTS

上小川レジャーペンション

石井杏奈さん・花奈さん

みんなが「ただいま」と言いたくなる場所を目指して、変化し続けるキャンプ場

奥久慈・大子町の川沿いの絶景のロケーションを求めてアウトドア好きが集う場所、上小川レジャーペンション。静かな自然に囲まれたキャンプサイトでは、小鳥の声や水音を聞きながらゆったりと過ごせる。そして夜には「満点の星空」も楽しめる、贅沢な場所だ。

運営を担当するのは石井杏奈(いしい・あんな)さん、花奈(はるな)さんの姉妹。先代の祖母から引き継いだ歴史あるレジャー施設は、カントリー調で温かみのある、おしゃれな空間に生まれ変わった。今回は、リピート客も多く訪れる上小川レジャーペンションの運営について、お話を伺った。

姉妹のチームワークで運営、女性もソロキャンパーも思い思いに過ごせるキャンプ場

姉の杏奈さん(右側)と妹の花奈さん(左側)が運営の中心。利用者受付、1日数回の見回り清掃、お客様とのコミュニケーション、場内の装飾、SNSでの発信など、毎日様々な仕事をこなしている。


上小川レジャーペンション(以下、レジャーペンション)は、オートキャンプ場やテントサイト、グランピングサイト、コテージなどを提供している宿泊施設。

広々とした敷地の中は10箇所以上のエリアや施設に分かれ、それぞれが思い思いの過ごし方でアウトドアを楽しめる設計になっている。家族連れや女性客、愛犬同伴でも使いやすい設備が特徴の人気のスポットだ。もちろん、ソロキャンプでも楽しめる。

そんなレジャーペンションを中心になって運営しているのが、杏奈さん・花奈さん姉妹だ。2人はお互いを唯一無二の存在だと語るほどの仲で、これまで二人三脚で運営を続けてきた。

「小さい頃から姉を尊敬していますし、ずっと憧れの存在。仕事中大変なときでも冷静に対応してくれる頼れる存在です」と語る花奈さん。

姉の杏奈さんも、「妹には誰とでも仲良くなれるチャーミングさがあります。私たち姉妹の性格は反対の部分が多いからこそ、補い合ってお互いの良いところを引き出せていると感じています。それぞれが持っていない部分を尊敬し合っていて、それが一緒に仕事を続けられている秘訣かもしれません」と応える。

現在は約60張ものテントサイトを有する。杏奈さん・花奈さん姉妹が運営を引き継ぐ前は、テニスコートやパターゴルフ場、ゴーカート、バーベキュー施設などがあり、キャンプ場というよりレジャー施設の雰囲気があったのだそう。


一度滞在すれば、抜群のロケーションや屋外設備のきれいさなど、利用客が使用するときの気持ちを丁寧に考えて生まれた工夫やアイデアをたくさん見つけられる。

利用者が思い思いのペースで過ごしながらも、設備から細かなおもてなしが感じられるのもレジャーペンションの魅力。何度もリピート利用する利用者も多い。最近では特に、インスタグラムなどで見た写真がきっかけで訪れる人も増えているそう。

杏奈さん「キャンプやバーベキューなど、この場所で過ごすお客様の多くが、滞在中の様子を、ご自身のSNSに写真付きで投稿してくれます。そうして増えた口コミのおかげで、色々な層のお客様にレジャーペンションの情報が届き、来場者は以前より増加中。写真撮影を楽しみに来てくれる人も多いと思うので、そういった方々に向けて意識的にフォトジェニックな場所も作るようにしています」

この場所を愛してくれる人たちとともに、常に変化していく場所

レジャーペンションの管理棟。ハロウィンやクリスマスが近づくと、その時々に応じた装飾が施される。ブライダル業界で働いていた杏奈さんの経験も生かされるのだそう。


レジャーペンションのスタッフは、快適な滞在のために日々、様々な工夫を凝らしている。施設の管理は、利用者への安全性はもちろん、この場所を訪れた人たちの思い出作りや満足度につなげたいという思いで、これまで様々な改善を続けてきた。

花奈さん「写真撮影の機会も増える旅行では、アウトドアを楽しみにきたとはいえ、せっかくの機会にメイクや身だしなみを整えたいという人も多いはずです。そのため、パウダールームやシャワールームの設備強化に力を入れました。そして、『私自身は気持ち良く過ごせるかな?』と問いかけながら、隅々まで手入れをしています。パウダールームは女性のお客様に好評で、設置して良かったと感じています」

また、昨今のキャンプブームで増加したソロキャンパー向けに、「木里かぶサイト」を新設。森の中に入り込んだような雰囲気が特徴で、秘密基地にいる感覚でテントキャンプを楽しめる。

レジャーペンションは長い歴史のある施設だが、今のキャンパーのニーズに合わせたリニューアルにも常に挑戦中だ。

写真のパウダールームはもちろん、場内すべて気持ちよく使ってもらえるよう、清潔を心がける。コロナ禍をきっかけに、通常の掃除に加えてアルコール消毒も行うようになった。


杏奈さん「キャンプのニーズは、アウトドアならではの不便さを楽しむことから、快適な環境で自然を感じることへと、変化してきていると感じています。そうした時代の変化にも合わせて、レジャーペンションは、常に変化させていきたいと思っています。これまでもお客様からの感想は真摯に受け止め、改善の材料としてきました。特に、リピーターさんとは、これまでコミュニケーションを積み重ねてきたからこそ、素直な意見を聞かせてもらったり、私たちの方から改善点を相談したりと、一緒にアイデアを出し合って、施設を改善してきました。これからもレジャーペンションを愛してくれる皆さんとともに、より良い場所にしていきたいですね」

利用者にレジャーペンションを利用した感想を直接尋ねることもあるそうだ。利用者の声を反映した一例として、大子町の満天の星をより楽しんでもらうために、照明の一部を減らしたこともある。

そしてもちろん、自分たちの感性も大切にしている。女性や初心者でも使いやすい施設づくりは、杏奈さん・花奈さん姉妹が運営をしていきたからこそ。苦しい時期があっても、2人が歩みを止めることなくレジャーペンションの運営を続けてきた背景には、先代の祖母への思いがあった。

先代の祖母からおもてなしを引き継いだ、心地よいみんなの居場所

受付業務は、お客様との「ちょうどいい距離感」を測る大切な機会。ここでのやり取りで、場内で声をかけてもOKかどうか意識するのだそう。


もともと、アウトドア初心者だった杏奈さん・花奈さん姉妹がレジャーペンションの運営を引き継いだのは、2018年。長らく運営の中心だった、祖母が倒れたときだった。

花奈さん「私たち姉妹にとってレジャーペンションは、幼い頃からあるのが当たり前の場所。祖母も、自分自身が切り盛りしていたこの場所が大好きだったから、ペンション自体を無くしてしまうなんて考えられませんでした」

2024年4月に、45周年を迎えるレジャーペンション。この場所への深い愛着を感じているのは、長年利用してきた人たちも同じだった。

杏奈さん「世話焼きの祖母はお客様から慕われる『みんなのおばあちゃん』であり、レジャーペンションは『みんなのふるさと』でした。おばあちゃんが作ったアットホームな雰囲気を目当てに来てくれていた常連さんたちのためにも、一緒に楽しめる場所を残していきたいという一心でした」

川沿いのテントサイトは、久慈川と大子の山々をいっぺんに楽しめる。四季を通した山の景色は必見。冬場は、運が良ければ、シャーベット状の氷が川を流れる「氷花(シガ)」を見られるかもしれない。


そして2人を中心に運営を始めた一年後、2019年の令和元年東日本台風による水害に見舞われた。水害の影響は甚大で、川沿いのキャンプサイト一帯が流されてしまった。水害を乗り越えて、今の賑わいを取り戻すまでの道のりを、とにかく必死だったと2人は振り返る。

杏奈さん「苦しい時期が続きましたが、一度も諦めようとは思いませんでした。お客様がまた帰ってこられる場所を作りたい、という強い思いがあったからこそ、運営を続けてこられたと思います」

どんな時も2人の原動力の中心にあるのは、レジャーペンションで過ごした思い出であり、スタッフやリピーターの利用者も含めた、「ファミリー」だった。

花奈さん「リピーターのお客様が『ただいま!』と、また来てくれた時はとても嬉しいですね。祖母が運営していた時代からの、あたたかい雰囲気やホスピタリティを大切にできていると実感する瞬間です」

この場所に訪れる人たちと家族のような一体感は、杏奈さん・花奈さん姉妹が運営を引き継いでからも確実に育まれている。

杏奈さん「あるアルバイトの高校生が、仕事の時間が終わっても、ずっとおしゃべりしてよく残ってくれていたことがありました。その高校生にとっても、居心地の良い場所になっていると思うと、とても嬉しかったのを覚えています。そうやってスタッフやお客様にとって心地良い居場所であるレジャーペンションを守っていきたいですね」

キャンプ場内にある「晴れの日CAFE」は、キャンプ利用でない方も、コーヒーやオリジナルドリンクを気軽に楽しめる。


子ども世代の声にも耳を傾けながら、遠い未来まで続く「ただいま」と言いたくなる場所に

片方が欠けると不安だが「2人そろっていればいつも安心」と声を揃える。花奈さんが産休をとっていたときは、「自分がキャンプ場にいないことが不安」という想いから、産後1か月後ごろにはすでに現場復帰し、杏奈さん・花奈さん姉妹のチームプレーを再開していたのだそう。


杏奈さん・花奈さん姉妹にとってはもちろん、協力してくれるスタッフにとっても、お客様にとっても大切な場所だからこそ、末永く続けていきたい。そんな想いを胸に、時代の流れに合わせて、少しずつ変化しながら形作られていくレジャーペンション。

先代から続くアットホームな雰囲気を、変わらない「軸」として据え、ニーズに合わせて設備を変化させながら多くのファンを増やしてきた。

レジャーペンションの今を作りながらも、2人はこの場所の未来も見据えている。

いま達成したい目標としては、「茨城県のキャンプ場と言えば上小川レジャーペンション」と言われるぐらい、たくさんの人に喜んでもらえる場所にすることなのだそう。

そして、次の世代の感性を取り入れた、これからのレジャーペンションの景色も見据えているところだ。

杏奈さん「自分たちの子供の世代でも、その次の世代でも、レジャーペンションが長く続いていくといいなと感じています。そして、子供が大きくなった時には、私たちが私たちなりの感性でレジャーペンションをバージョンアップさせてきたように、若い世代の意見をすすんで取り入れていきたいですね。また、最近の達成したい目標としては、茨城県のキャンプ場と言えば上小川レジャーペンションの名前が挙がるように、色々な人に訪れてもらえる場所にしていきたいです」

 

PROFILE

SPOTS

上小川レジャーペンション
https://www.kamiogawa.net/
https://www.instagram.com/kamiogawa.lp/

大子の山中を流れる久慈川を目の前にアウトドアを楽しめるキャンプ場。澄んだ空気の中見上げられる満天の星も大きな魅力。
パウダールームやシャワーブースが完備され、アウトドアでも楽しく撮影し思い出を共有できる。
場内はテントサイト、グランピング、コテージなど10箇所以上のエリアに分かれ、初心者、家族連れ、女性、ソロキャンパーなどが幅広く楽しめる。
キャンプをしない方も利用できる「晴れの日CAFE」も営業中。

2018年に祖母から運営を引き継ぎ、石井杏奈さん・花奈さん姉妹が上小川レジャーペンション運営の中心となる。
2019年の令和元年台風第19号では大きな被害を受けるが、このキャンプ場のファンやクラウドファンディング支援者の支えの元、無事に復興。
丁寧な管理とお客様との程よい距離感のコミュニケーションを続けながら、2024年4月に45周年を迎える。

INTERVIEWER

清田睦月

インクデザイン株式会社所属、ライター。同社が日立市にサテライトオフィスを持つ縁から、茨城県内での取材に関わる。各地を取材するうちに、茨城県でのびのびと暮らしてみたいと思うようになり、愛猫と共に移住を計画中。特にお気に入りの地域は大子町。

Photo:佐野匠(つくば市)(一部提供写真を除く)