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茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
柴田農園 三代目
柴田祥平さん
三代目の若手農家が育んでいく、関わる人みんながハッピーになれる農業
きちんと収益を上げていく経営に、働く人や取引先、地域の人たちなど、関わる人みんなとの良好な関係性構築が加わると、より人を惹きつける事業になるはず。
今回話を伺ったのは、みんなが笑顔になれる農園を目指している、柴田農園の三代目、柴田祥平(しばた・しょうへい)さん。2019年に祖父の代から続いてきた農園に就農し、これからの柴田農園を作っていく若手農家だ。そんな祥平さんに、仕事への想いをうかがった。
三代目が挑戦する、美味しさと楽しさのエディブルフラワー

エディブルフラワーの特徴は、何といっても色鮮やかさ。祥平さん自身も、ぱっと目の前に出てきたときに「きれい!」と驚き気持ちが高まる感覚に惹かれていった。
食べられる花「エディブルフラワー」をご存じだろうか。
エディブルフラワーは食用に適した花で、種類により様々な色や形を持っている。メインディッシュはもちろん、サラダ、デザート、お菓子など、多様な料理の中で用いられる。見た目の鮮やかさは料理の装飾にも役立ち、皿の上を一段と鮮やかに演出。味も特徴のひとつで、花ごとに異なる複雑な味わいを持つため、料理に繊細な風味を添えてくれる。
そんなエディブルフラワーに力を入れて栽培しているのが、高萩市の柴田農園。高萩市の西側に広がる阿武隈山地に向かう途中に、ゆるやかに広がる里山地域。その一画に農園を構えている。
柴田農園は、「生活に彩りと美味しさと楽しさをプラスする」をモットーに、「花壇苗」「野菜」「ハーブ・エディブルフラワー」の3部門を運営し、季節に合わせた少量多品種の作物を栽培。三世代にわたる家族とスタッフが力を合わせ、時代に合わせた様々なチャレンジを重ね、美味しい作物を提供し続けてきた。
現在代表を勤めるのは、柴田祥平さん。2019年に就農した柴田農園の三代目だ。
地元で生まれ育ち、一度は地元を離れ民間企業で働いていたが、2017年に家業を継ぐべくUターンし就農。
エディブルフラワーの栽培を始めたのも祥平さん。茨城県内でエディブルフラワーを栽培している農家はごくわずかなのだそう。
この作物を選んだ理由は、端的に言えば「どうせやるなら、みんながやっていない作物を作りたい」という想いから。そんな好奇心に従いながらも、祥平さんは「関わる人みんながハッピーになれたら」と想いを抱きながら事業を進めている。
手間暇とコミュニケーションで生み出す信頼関係

エディブルフラワーは、一般的な野菜に比べて小さい面積で多品種を栽培できる。「限られた土地で、品質の高いものを効率的に作るにはちょうどいい作物かもしれませんね」と祥平さんは語る。
農園のビニールハウス内や露地の、いたるところにエディブルフラワーが栽培されている。一見観賞用の花に見えても、食用として育てているものがあると祥平さんが教えてくれた。
祥平さんは、エディブルフラワーの魅力を次のように語る。
「味も、見た目の華やかさも、調理する人や食べる人に驚きと感動を与えてくれるのがエディブルフラワーの魅力。見て食べて喜んでもらえるのが嬉しいですね」
現在、年間で約80種類もの豊富な種類のエディブルフラワーを栽培中。種類が多いため、顧客の様々なニーズに答えたり、逆に提案したりできるそう。さらに、気になる花があるとすぐに取り寄せて植えてみるため、これからも品種は増えていくようだ。
柴田農園のエディブルフラワーは、花の美しさ、味、香りともに品質が高い。地植えで栽培することで、根がしっかりと張り、株が丈夫に育つ。そのため、花は大きく厚みがあり、より香りと味がしっかり感じられるようになるのだそう。

見た目が大切な要素であるエディブルフラワー。出荷前は、収穫した花を、塗料の入っていないエアブラシを使い、空気を吹き付けて丁寧に掃除する。花一つ一つに対して、手間を惜しまず行うのだそう。
栽培を始めた当初から飲食店からのニーズがほとんどで、主な販売先は、コース料理を提供している高級レストラン。出荷用の梱包時は、ごみの除去や鮮度維持の工夫など、より一層細かな気遣いが必要となる。
一瞬でも管理の気を抜くと、一気に信用が失われてしまうプレッシャーがある中、祥平さんは季節ごとにベストな花を提供し続けてきた。その甲斐あってか、顧客からは、祥平さんが作るエディブルフラワーは高く評価されている。シェフ同士のコミュニティでも、話題に上がるそうだ。
「シェフの皆さんは、料理への活かし方を真剣に考えてくださったり、花の良かったところや悪かったところをフィードバックしてくださったりと、エディブルフラワーを大切に扱ってくださるのが嬉しいですね。私たちも実際にシェフのお店に食べに行って、互いにどんな想いで作っているか意見交換もします。メールやSNSが当たり前になっていますが、やはり対面でのコミュニケーションは気持ちが入ります」
農園から生まれる地域との暖かな繋がり

柴田農園のモットーである「生活に彩りと美味しさと楽しさをプラスする」を考案したのは祥平さん。就農し自社のWebサイトを立ち上げる際に、自分の仕事の軸があればと作成した。「育てた作物を見て食べて、嬉しくなったり、楽しくなったりする気持ちは自分だけではないはず」という想いから生まれたそう。
エディブルフラワーは地域の外への提供が多い一方、高萩市に根を張る農園として、地域との繋がりも大切にしている。幼稚園や小学校、地域プロジェクトに参加する子どもたちが、柴田農園に農業体験にやってくることも少なくない。
祥平さんは、野菜の収穫や土いじりではしゃぐ子どもたちの様子を眺めているのが好きなのだそう。
「花をプレゼントした小学校に別の用事で訪ねていくと、子どもたちから『柴田農園の人だ!』『お花、ちゃんと育ててますよ』と声をかけてもらいました。事業に繋がるかどうかに関係なく、子どもたちが少しでも豊かな体験を積むお手伝いをできたらいいですね」
また、農園の一画には、大きなテーブルと、たくさんの人たちが腰かけられる椅子を設置したスペースがある。
実は、この空間を活用して、人が集う場づくりを計画しているのだそう。地域内外からたくさんの人を呼び、様々なコミュニケーションや展開を生み出していくきっかけの場所だ。
「人を呼んで、みんなで楽しむのが好きなんです。いまやってみたいのが、農園にシェフを呼んで行う料理イベント。摘みたてのエディブルフラワーをみんなで味わえるはずです。農園を会場にしたブライダルイベントも、花と相性がよさそうですね」
1冊の本から出会った「食べられる花」のビジネス

農地や設備など、先代が取り入れていた資産を活用し、少ない設備投資でエディブルフラワー事業をスタートさせた。「少ない投資で始めれば、失敗しても撤退しやすいし、またすぐ次のチャレンジに進めますしね」と祥平さんは語る。
自分自身が打ち込んでみたいと思ったエディブルフラワーの栽培に取り組みながら、地域との関わりを大切にしながら事業を進める祥平さん。
祥平さんは、元々は食品メーカーで勤務していた。就農を決意したときは、確固たる意志を持っていたわけではなく、自分が長男であることや、農園の経営を立て直す必要があったことが背景にあったそうだ。
家業を継ぐ決意をしたとき、心配する声も多かったと振り返る。しかし、「根本的にポジティブシンキング」と自らを評する祥平さん。
「『本当にやっていけるの?』と反対もされましたが、自分は『これからどんな農業ができるんだろう?』とワクワクしていました。柴田農園は、自分のアイデンティティのある場所。ここでの仕事は、他の人には代わりの利かない役割が果たせるはずですしね」
エディブルフラワーと出会ったのは、「柴田農園で自分は何をやっていこうか」と考えていたときに紹介された、1冊の本がきっかけだった。
会社を辞め、期待に胸を膨らませながら挑んだ農業研修の研修先が紹介してくれた1冊。そこには、エディブルフラワー農園が、レストランに花を卸し、ビジネスとして大成させている事例が紹介されていた。
祥平さんの「みんながやっていない事業をやりたい」という意気込みに対して、エディブルフラワーの持つ、花を贈るような気持ちで食材を届けられる魅力は、祥平さんの琴線に触れた。さらに、柴田農園では先代から引き継いできた設備を活用できるため、少ない投資でビジネスを始められる見込みもあった。
早速、本で紹介されていた農園に問い合わせて、広島県の現場へと1カ月間の住み込み研修に出向いた。
人との繋がりで育む、みんなが笑顔で働ける職場

農園の一画に設けられたテーブルのスペースを活用し、人が集うきっかけを作りたいと話す祥平さん。そこには、広島での研修時代の体験が少なからず影響している。
研修に参加したのは、クリスマスシーズンの繁忙期。忙しかったが、学びは多かった。
現場での体験を通し、エディブルフラワーの種まきから栽培、収穫、出荷作業など様々なノウハウを習得。柴田農園の、高級レストラン向けに販売し収益を安定させるスタイルもここで学んだことだ。
なかでも強く印象に残ったのは、職場の雰囲気づくり。祥平さんは、スタッフ、取引先、近隣の人たちみんなの仲の良さを体感していた。その体験を「みんな含めてハッピーになる雰囲気づくり」だったと、祥平さんは振り返る。
「農園で働く人たちは、仕事に誇りをもって働いているし、取引先とも、互いにリスペクトし合いながら対等な関係性で仕事をしていました。住み込みで働きながら、社長の手料理を頂き、お酒を飲みながらたくさんの話をしましたね。農園ではよくパーティーが開催されて、近所の人も巻き込んでみんなで楽しんでいました。顔を合わせたたくさんのコミュニケーションを重ねながら、みんなで仲良く、いい雰囲気で仕事ができるような場所を作っていたんだと思います」
研修先の社長を、「人生の先輩」と尊敬し、今でも交流があるのだそう。
ここで学んだ経営ノウハウと、作る人や取引先、地域の人たちとともにハッピーになっていくものづくりの姿勢は、少しずつ柴田農園にも取り入れられている。
たとえば、エディブルフラワーの納入先にスタッフと一緒に足を運び、そこで出てきた食事を見て味わう機会も作っているのだそう。農園での仕事がもたらしている感動を体感してもらうことで、より仕事への想いも深まっていくのかもしれない。
きちんと農園を運営すること。そして関わるみんながハッピーであること

今露地で花が栽培されているスペースは、かつては牛舎が建てられていた場所。時代の流れに応じたチャレンジに対し、祥平さんは「あるロックバンドのボーカルが『悩んでいるやつはスピード上げろ』と言っていました。悩んでいても、結局やるしかないので、どんどんやってみて、早いうちに失敗した方がよいかも、と思います」と語る。
2019年に三代目として就農した祥平さん。これから、祥平さんの想い描く「柴田農園」を育んでいくだろう。
祥平さんは、この農園に関わる人たちと「ハッピーになれる関係性」を育みながら仕事を続けていきたいと話す。
スタッフに指示を出す立場にある以上、相手にとって負担がないよう伝えたり、意見を寄せてもらうことも大切にしている。仕事は1日の中で長い時間を費やすもの。試行錯誤しながらも、楽しく働ける環境を実現しようとしているそうだ。
「毎日の仕事に不満を持ちながら続けるのは嫌だと思うし、不満があってもなかなか口にできないと思います。だから普段からのコミュニケーションを心がけて、お互いにリラックスして話せるような、居心地の良い状態にしていきたいです。仕事でストレスが溜まると、仕事にも家庭にも影響が出ますからね。そうならないためにも、自分やスタッフそれぞれが楽しく仕事ができるスタイルを見出していきたいです」
これから事業を続けていくために大切にしているのは、まずはきちんと利益を出しながら農園を続けていくこと。それを第一とし、そうあり続けるためにも、柴田農園に関わるみんながハッピーでいられるようにしたい、という前提がある。
「この仕事は一人でできるものではないし、自分の生活も、一緒に働いている人の生活も関わってきます。エディブルフラワーは自分の『やってみたい』という気持ちから始まりましたが、利益が上がらないのに作り続けてみんなが辛くなってしまっては、意味が無いです。社会状況によっては、違う作物に力を入れるかもしれません。状況に応じて柔軟に作物を切り替える心づもりで事業を進めながら、関わるみんながハッピーになれる仕事を続けていきたいです」