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iBARAKICK!

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副業プロジェクト

iBARAKICK!

想いのある経営者との仕事を通じて、人生を豊かにする副業プロジェクト

副業プロジェクトiBARAKICK!とは?

テレワークなど働き方が多様になり、地方での副業もその選択肢として選ばれつつある昨今。しかし、実践するには「高度なスキルが必要なのでは」「社外の人とうまく意思疎通ができるか」といった不安もあるはずだ。

そんな中、茨城県では、仕事や地域に対する「想い」のマッチングに重きを置いた副業プロジェクトiBARAKICK!(イバラキック)を実施。初回となった2022年度は、丁寧なマッチングと伴走支援により、関係人口創出を実現した。

イバラキックとは、どんな取り組みなのだろうか?まずは、茨城県政策企画部 計画推進課(移住推進担当)植田賢(うえた・さとる)主任に話を伺った。

経営者と二人三脚で、継続的な繋がりを育む

iBARAKICK!公式サイト


茨城県初の試みとして開催された副業プロジェクト、iBARAKICK!。

茨城県が取り組む「令和4年度つながる茨城チャレンジフィールドプロジェクト業務」の一環として開催された、都市部の人材と県内企業との協働により地域課題解決に挑む副業プロジェクトだ。

iBARAKICK!公式サイトには、県内企業それぞれの想いや課題、そして未来像が掲載されている。このプロジェクトは、それを読んで共感した副業人材が、エントリーシートの提出と面談を経て企業とパートナーシップを組むところから始まる。

そして、2022年8月から約半年間、経営者と副業人材が二人三脚で、課題解決のために協業。その成果は、2023年2月の成果報告会で発表された。

2022年8月から始まったiBARAKICK!は、2022年2月4日に成果報告会を開催。会場には、茨城県内外から多くの参加者が集まった。


今年度は、茨城県内の企業15社と、茨城県外で暮らす副業人材21名がこのプロジェクトに挑戦。

県内企業は、サービス、製造、土木建築、飲食、介護福祉、農業など幅広い業種から参加。副業人材は、県外に住むクリエイター、エンジニア、プランナー、コンサルタントをはじめ様々な分野で働く人材が参加し、その年齢層も20代から50代までと幅広い。

本プロジェクトでは、継続的な関係性を創出できたのも大きな成果の一つ。

プロジェクト終了後も、参加企業のうち12社が副業人材との契約継続の意向を見せ、その中の7社がすでに契約継続を決定。来年度以降も、引き続きパートナーシップを組んだ事業が進められてゆく。

仕事への「想い」で生まれるパートナーシップ

プロジェクトを担当した植田主任。2022年度のイバラキックを終えたばかりだが、「県内企業と想いを共有して仕事をすることで、人生における新たな可能性が広がっていくと思います。来年度は、その考えをさらに体現していきたいと思います」と次回への意気込みを語る。


初年度のプロジェクトを終え「仕事を通じて想いを表現できる場所だと思いました。『副業』とは別の言葉を作りたいぐらいです」と語る植田主任。

iBARAKICK!では、スキルと報酬のマッチング以上に、「想いのマッチング」による副業づくりを目指して企画してきたという。

植田主任「参加した企業や人材の『企業活動を通じて豊かな地域の未来を描きたい』『自分のスキルや地域貢献の意欲を体現してみたい』という想いを出会わせたい。副業人材たちに、仕事を超えて茨城県を好きになってもらいたい。そして、iBARAKICK!が終わっても長く関係性が続いてほしい。そんな展開を目指して、このプロジェクトを作りました」

iBARAKICK!の方向性のひとつとして「経営者の右腕として新規事業に挑む副業」と謳っている。それは、「仕事の一部分を受発注する」のではなく、「経営者と副業人材が一緒に未来を考える」企画だからだ。

植田主任「県内企業と副業人材の継続的な繋がりづくりは、大きなゴールの1つとして定めていました。さらに、副業人材と地域との繋がりの誕生も波及効果として狙っていました。今年度は、副業契約を延長した企業がいるほか、参加企業や人材間の横繋がりも生まれたと聞いています。これからの展開も、非常に楽しみですね」

成果発表後は、他社の取組に対しても参加企業、副業人材から積極的な質問が挙がった。会場内には、県内で活躍する地域プレーヤーたちの姿も見られた。


2023年度も、まずは気軽に参加してほしい

茨城県では、2023年度も開催に向けて準備を進めている。初回の開催を通して得た知見を元に、より充実した副業人材プロジェクトを開催できる見通しだ。

次年度開催にあたり、県内企業に向けて「まずは気軽に申し込んでもらいたい」と植田主任は話す。

植田主任「業界や規模、創業年数、課題内容に関わらず、気軽に申し込んでいただきたいです。副業人材活用に興味はあるけど具体的にどうしたらいいか分からない、という方には、これまでの知見をもとにサポートさせていただきます。想いの伝え方が分からなくても、茨城県内の地域コーディネーターたちが伴走し、その想いを言葉にして、そこに共感できる副業人材のマッチングに繋げていきます」

副業人材に向けても、仕事への想いを大切に、まずは申し込んでほしいと話す。植田主任自身、「想いが一致したからこそ、成果を残せた」と振り返る。

植田主任「副業人材の参加も、年齢やスキル、学歴、職歴に悩まず応募していただきたいです。2022年度は、経営者と副業人材の、想いややりたいことが一致したからこそ、最後まで二人三脚で走りながら成果を残せたと思います。副業人材として参加する皆様も、茨城県でやりたいこと、仕事を通して表現したいことなど、熱い想いを伝えてほしいですね」

参加した企業・副業人材へのインタビュー

仕事への想いのマッチングで、継続的なパートナーシップを生み出したiBARAKICK!。

では、実際に参加した県内企業や副業人材は、どのようにコミュニケーションをとり、副業の成果を出してきたのだろうか。

参加者の実例として、株式会社八千代商事(以下、八千代商事)の福地美喜(ふくち・みき)さん、八千代商事に副業人材の1人として関わった石川大輔(いしかわ・だいすけ)さんに話を伺った。

今回ご紹介する副業チームと取り組みの概要は、以下の通り。

参加企業

株式会社八千代商事 代表取締役 福地秀太郎さん・取締役 福地美喜さん

日立市の企業。1957年に製材業・木材販売業として創業。原点である茨城県産の木材を使ったものづくりへ挑戦し、エンドユーザーの顔の見える販売事業を実現したいと熱い想いを抱く。

副業人材

※本記事でご紹介する石川さん含め全2名

石川大輔さん
東京都在住。 Artist, Thinker, Creative Advisor。「デザインの寿命を長くする」を哲学に活動を継続する「蝉 semi」を主催。

プレゼン中の石川さんと美喜さん。会場では、取組と成果のほか、これからの展開についても語られた。


取組の概要

八千代商事は、石川さん含む二人の副業人材とともに、「茨城県産木材の地産地消への挑戦!県産木材を使ったオリジナル商品開発プロジェクト」を実施。

「取引先の工務店廃業が進み、卸売業としての未来が危ぶまれている」という現状打破と「創業の原点である木材で、顔の見えるものづくりをしたい」「子育てを通じて触れてきた茨城の自然を事業に活かしたい」という想いの実現を掲げている。

課題解決と思いの実現をすべく、「コスト構造の最適化」「新社屋の検討」「新商品企画」の三つを軸に進めていった。

「コスト構造の最適化」では、秀太郎さんが副業人材と共に担当。適正在庫量を決めるなどして、コスト構造を見直す。結果、営業コストが2022年9月から約3か月で、約1000万円削減に成功。2023年3月までには、さらに削減できる見込みだ。

「社屋の建て替え」は、かねてから課題であった建て替えが、コスト構造の最適化により実現可能になった。現在、茨城県産材をふんだんに使用した新社屋を設計中。地域の人たちと関わりを作れる場所として、機能させていく見通し。

「新商品企画」は、美喜さんと石川さんが担当。地域資源の木材と、石川さんの企画力やデザインへの哲学を掛け合わせ、木を布や糸のように用いた鞄や、茨城県産木材を使ったお土産を開発中。2023年7月までに製品を完成させ、ウッドデザイン賞へのエントリーを目指す。

iBARAKICK!は終了したが、今後も八千代商事は二人の副業人材とパートナーシップを続けていく。

「想い」をどう伝え、どう受け取ったか

BARAKICK!に参加する前から、事業への想いを積極的に発信していたという美喜さん。iBARAKICK!への出会いは、美喜さんの想いを知っていた地域コーディネーターからの紹介だった。


仕事への「想い」のマッチングから始まるiBARAKICK!。

副業人材とのマッチングに使われる募集要項には、八千代商事も他社と同様に、事業への想い、現在抱えている課題、地域に対する可能性、事業を通して実現させたいビジョンを掲載した。

美喜さん「求める人物像として、『ゼロから考えて、作りあげていく過程を一緒に悩んだり、喜んだり、楽しんだり、愛と情熱を注いで下さる方』とも書きましたね。事業では数値目標も重要ですが、募集を出した段階では、私自身も気持ちが先に走り、具体的な内容はまだ未確定。だからこそ、『私たちの想いを汲みとってくれて、一緒に伴走してくれる人と出会いたい』という譲れない要素を伝えていきました」

都内から日立市に電車で通っていた石川さん。副業人材としての心構えに、「移動を楽しむこと」を挙げた石川さん。「その地域の好きな場所や好きな景色を見つけてみると良いと思います。日立市では、日立駅から見た海も、良い景色でしたね」


美喜さんの想いをくみ取ったのが、石川さんたちだ。企業の「想い」を、石川さんはどのように受け止めたのだろうか。

石川さん「募集要項を読んで、美喜さんと面談したとき、事業や地域への想いを強く感じられました。美喜さんの『想い』は活動や言動に表れていて、書かれていたことは本当の気持ちなんだなと思いました。それが八千代商事さんを選んだ決め手でもあります。また、木材にも興味がありましたし、共に学びながらプロとして仕事ができることへの期待感もありましたね」

美喜さん「面談でのやりとりから、二人ともしっかり募集要項を読み込んでくださったことを感じました。それに、初期段階でご自身の強みと弱みをオープンに話してくださったことも、その後のコミュニケーションに繋がっていると思います。自分のことを分かっているからこそ、相手のことも考えられるのではないでしょうか。自分も相手も尊重できる人間性は、パートナーシップの中でとても大切だと思いました」

「感性の共有」を意識したコミュニケーション

iBARAKICK!のなかで、日立市にある八千代商事の事務所のほか、伐採や製材の現場にも足を運び、現場の空気をチーム内で共有。県外の現場に足を運び、原木を切り出す作業に立ち会うこともあった。


企業と副業人材がパートナーシップを組むうえで大切なのが、コミュニケーション。八千代商事と二人の副業人材は、副業の契約締結後、早い段階で日立市で顔を合わせたそうだ。

「実際に対面で会い、時間を共有すること」を大切にしたと語るのは、石川さん。

石川さん「想いに共感しているとはいえ、プロジェクトでは相当な強度で付き合っていく必要があります。だからこそ、『できる限り会いに行く』という前提で取り組みました。『会って何をするか』も重要ですが、時間を共にすること自体も重要。オンラインツールの効率性だけに頼らず、対面で会い、話し、決めることを大切にしました」

オンラインでのやりとりでも、深いコミュニケーションを心がけた。事務連絡だけでなく、読んだ本や映画の話や、図や写真を用いたコミュニケーションも積極的に行い、感性の共有も行ったそう。

オンラインでもオフラインでも、「二人ともコミュニケーションが上手いから困らなかった」と美喜さんは振り返る。

美喜さん「八千代商事の副業人材チームは、みんな歩んできた人生が全く違います。だからこそ気づけた新たな視点がおもしろかったですね。そして、互いに尊敬しあう姿勢を持っているので、考えが行き詰まる状況でも、持ち味をいかしながら前に進めたと思います」

石川さん「今回の副業チームの中では、視点が増えやりとりが複雑になる場面もありましたが、一方で課題を解きやすくもなったとも思います。常に仕事の前提や今すべきことをまとめていたので、着実にプロジェクトを進めていけましたし、勉強にもなりました」

人を大切にする仕事への関わり方

イバラキックを終えた今、今回の副業での関わり方は、単なる仕事の関係性ではなかったと石川さんは振り返る。

石川さん「仕事以前に、『人を大事にする』という大切な前提のある関係性だったと思います。だからこそ、仕事自体も、自分のお金儲けではなく、関わる人たちが協力しあい、事業としてお金を稼ぐプロセスを育んでいくようなイメージを持てました」

美喜さんは、石川さんたちの仕事への姿勢を間近で見ながら、「副業という手段を通じて、自分の人生をより豊かにしているようだった」と感じたそう。

美喜さん「お二人とも、自分も周りも幸せになるにはどうしたらいいんだろう?と常に考えている方々なんだなと思いました。そんな二人とチームを組めたからこそ、仕事だけでなく、食事や何気ない会話の中でも、実りある時間を過ごすことができました。これからも引き続きパートナーシップを結んで、より豊かな仕事を進めていきたいと思います」

仕事への想いでつながる茨城県の副業企画、iBARAKICK!。入口は仕事でも、それを超えたところに生まれる新たな繋がりは、人生をより豊かにしていくはずだ。

茨城県をフィールドに、想いがこもった仕事を実現したい方は、ぜひiBARAKICK!に参加してほしい。

 

PROFILE

THINGS

iBARAKICK! https://ibarakick.etic.or.jp/

茨城県内の企業やリーダーたちと「副業」「ミッション」を通して新たな自分をKICKしよう!

経営者と二人三脚で取り組む「副業」と、地域を知り、地域と繋がる「ミッション」に取り組み、茨城に深く入り込むことで、地域と継続的な関係を築くきっかけをつくるプロジェクト。

2022年度に初開催し、県内企業15社と、茨城県外で暮らす副業人材21名が参加。エントリーシートと面談でマッチングした経営者と副業人材が、二人三脚で課題解決を実践し、多様な成果を生み出した。

プロジェクト終了後も、参加した12社が副業人材との契約続行の意向を見せ、うち7社が再度契約を締結。来年度以降も、引き続きパートナーシップを組んで事業を進めていく。

INTERVIEWER

佐野匠

1985年茨城県下妻市生まれ。20代半ばに東京から地元に戻るも、キャリアもスキルも学歴も無かったため、悩んだ末にボランティア活動に参加し、その中で写真、文章、デザイン、企画、イベント運営などのノウハウや経験値を蓄積。最近やっとライターやフォトグラファーの仕事を頂けるようになりました。カッコいいと思うものは、マグナム・フォトとナショナルジオグラフィック。

Photo:小関華穂、清田睦月、佐野匠(一部提供写真を除く)