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茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
メイズムランド
村田源柱さん
茨城県北を地方創生のモデルに」 北茨城で続ける挑戦
車の窓を開ければ、心地よい海風が頬をなで、風と波の音が心を癒やす。
山側に、かつて炭鉱で栄えたという往時の面影はなく、高速道路から伸びる道路と青々とした緑が繁っている。
北茨城市。国道6号沿いの海岸に並ぶドームテントとトレーラーハウス、飲食店に温泉施設。この地で生まれ育った村田源柱さんが営む複合施設グランピングヴィレッジIBARAKIだ。
例外なく人口減少が進むこの地で村田さんが続ける挑戦。「なぜ北茨城なのか」「これから先に、思い描くことは」・・・村田さんの思いを聞いた。
―村田さんは茨城県北でさまざまな事業を手掛けていると伺っています。どのような事業を展開されているのでしょうか?
現在、北茨城市で、飲食店と洋菓子店の2店舗、温浴施設、グランピング施設を運営しています。
12年前に北茨城市で飲食店として開業し、その後、県北と福島県内で飲食店、洋菓子店、温浴施設、グランピング施設と事業を拡大してきました。
新型コロナの影響で、拡大した店舗を縮小して北茨城のグランピング施設の敷地内で全ての店舗の運営をしています。
―北茨城市を中心とした展開なのですね。なぜ北茨城市で起業されたのですか?また、それはどういった経緯だったのでしょうか?
風光明媚なこの景色の前に人々が集まるコミュニティースペースを作りたかったというのが一番の理由です。
自分はこの北茨城で、高齢の祖母と古物商を営む両親、3人兄弟の末っ子として生まれました。
祖母を近所の人が毎日気にかけ会いに来てくれて、ついでに私も可愛がってくれる。お節介と助け合いが日常の中で繰り広げられる環境で育ちました。
大学卒業後は、教員として県外で就職したのですが、ある日、父が急逝しました。
子どもの頃から近所の人たちとの関わりの中で育ってきたので、やはり、生まれ育った地へのこだわりがどこかにあったんですよね。
教員は、やりがいも金銭的な安定もありましたが、北茨城への思いが日に日に強くなり、思いきって地元へUターンしました。
北茨城って、大津と磯原、南中郷からなるんですけど、一番中心といったら(事業を行っている)磯原なんですよね。
戻ってきた時、この辺りの商店街なんかも寂れてきていて廃墟のようになっているところもあって。
Uターン後、ひとまず母と叔父が父から引き継いだ古物商の会社に入社して、働きながら自分にできることは何か模索する日々が続きました。
古物商の仕事と並行してトラック運転手、ラーメン屋、さまざまな業種で働いているとこの通り(国道6号)沿いは、長距離トラックの方が多く利用するのに、ガッツリ食事が取れる飲食店や休憩できる場所がないなと気づきました。
海も近くてこれだけロケーションも良いのに、人が来ない。人が来ないから、どんどん人は外に出てしまって過疎化していく。これって負のスパイラルなんじゃないかと・・・。
だったら自分でそういったスペースを作ったらいんじゃないかと思ったというところです。
―そうだったんですね。初めから現在のような形態だったんでしょうか?
初めは飲食店と自動販売機と無料のキッズスペースを合わせた「なんちゃって道の駅」のような形で始めたんです。
でも、これが事業性がなくて失敗だったんですよ。自動販売機なんて電気代の方がかかるし、キッズスペースは無料だし。人は集まるけど、お金が減っていくという状況でしたね・・・。
良かったことといえば、料理の評判で、「あそこの料理はおいしいね」と言われていたことですね。赤字の部分は全部削除して強みを活かした施設にしたら結果的に飲食店で拡大していった、という感じです。
収支がプラスになったら、お風呂に入れてちょっと休憩できる場所、サッと洗濯できる コインランドリーの設備など「あったらいいな」と思ったものを集約した施設の構想を進めました。
2018年にバイオ機能水を活用した「海から一番近い露天風呂 ゆかっぺ」、本場アメリカのトレーラーホテルを用いたグランピング施設トレーラーホテル「ザ・ラブソング」を開設しました。
そして、2020年に新たにグランピング施設「グランピングヴィレッジIBARAKI」をオープンしました。
今、志でいえば6割くらいまでは来たという感覚です。
少子高齢化をすぐに変えることはできないけれど、人が集まる場所を作るという意味では、だいぶ進めることができているかなと思っています。
―村田さんにとって、北茨城には、どのような魅力がありますか?
やっぱり、自然、人、コミュニティーですね。
まず自然でいえば、海や山がこんなに近くて、海の幸、山の幸も堪能できる。
こんな環境、実はそうそうなくて、茨城の人たちは今の環境に慣れすぎなんですよ。
グランピング施設を始めて、都内から利用に来る方もいるわけです。
多くは1泊2日なんですけど、1週間くらい滞在する方もいて。ある人は季節ごとに来てくれるんです。1週間いて、もちろんリモートワークのようなことはしているみたいなんですけど、それ以外の時間何をしてるんだろうって不思議で聞いたら「何もしないのは最高の贅沢なんだ」というんです。都心から離れて、自然に囲まれる中で、ただ海を見たり、空を見たり、緑を見たり。「同じ波は一つもないんだ」とも言っていました。その人と話をしていて、改めて、ああ、これは北茨城の最大の良さなんだなと感じました。
―確かに、喧騒から離れて落ち着ける環境がこうして身近にあるって贅沢ですよね。
そう。そういう意味では、今後、自然を満喫しながらテレワークで働けるような環境を整えていこうと思っています。
あとは、温かい人たちが築き上げる茨城県北の魅力を最大限に活かしたコミュニティーですね。自分がこれまでに関わった気にかけてくれる人たちもそうですけど、自分がグランピング施設開業という形で地域を盛り上げようとしていることを知った74歳の北茨城在住のおばあちゃんから会社に手紙が届いたんです。
「地方を盛り上げてくれてありがとう。頑張ってね」と感謝の言葉とともに、「県北の魅力を伝えて」と願いも添えられていて・・・感動ですよね。
こうして直接知らない人でも応援して、支えてくれる地域なんです。
―村田さんにとっての豊かさとはなんでしょうか?
自分に関わるすべての人々、家族、スタッフ、友人、地域の笑顔に包まれて生きることですかね。
人口であるとか、店の数とかというより、自分のこれまで関わったあたたかいお節介や気にかけてくれた人たち、手紙をくれたおばあちゃんのような人たちがいるこの地域の内側に豊かさがあるんじゃないかなと。
―今年度、2030年に何をしていたいか、どうなっていたいか、統一テーマとしてお聞きしています。2030年に向けて、村田さんが目指すことはありますか?
まずは手掛けているグランピング施設を、より魅力的で全国から人々が集まる県北のランドマーク施設にしたいですね。
昔は、土日になると商店街の方に行くとかっていう感じだったのが今はそうではない。でも、かつて肉屋、電気屋という風に商店街の中でもそれぞれが確立してコミュニティーや特色として立っていたように、これからだって個々を光らせることはできると思うんです。
だから、人がいっぱいここに来れば、その周りにいる人たちもその光を浴びられる、みたいなのがいいですね。自分だけ儲かったり、輝いたりじゃ結局地域はダメになってしまう。
例えば友人だけ集まるようにしたいなら、極端な話、大型アミューズメントパークでも作れば良いけど、土台無理な話だし、じゃあやっぱり北茨城の良さを最大限に生かすって何かっていったら自然を満喫できるという風になるんでしょうね。
そこで大切なのは、北茨城だけじゃなくて、ちゃんと近隣地域にも点と点をつくること。
そうして、特色を集めて掛け合わせて、例えば各地域がつながるような企画を作って周遊してもらうとちゃんとみんながWINになると思うんですよ。
事業に関してもいえることで、みんな仕事に対してプライドを持ってるじゃないですか。
この業種とは一緒にやらない、とかじゃなくて、バラバラのベクトルを向くんじゃなくて、一つ同じ方向に向いてやっていったら県北全体がうまくいくと思うんです。
自分じゃなくてもいいので、リーダーシップを取って旗を振って、いろんな地域の良さを合わせたいですよね。
―村田さんの目指すものを達成するために、今、こんな人と一緒に何かをしたい、などはありますか?
どうしても「県北には何もない」という人が多いので、まず意識を変えてくれるような人ですかね。
講演会でも良いので、まずは「何もない」とか「どうせ」とか後ろ向きになってしまっている地域の人たちの意識をほんの少しずつ変える。ちょっとずつでもマインドが変わっていったらどんどんその輪は大きくなりますよね。
―そのほかに目指していることなどはありますか?
それ以外だと、茨城県北に国際大学を作るなんてのも面白いなと妄想しますね。
どうせなら、人のためになることがしたいです。自分がこうしているのも、出会った教育者や周りの人たちのお陰。自分は何か得意なものがあったわけじゃないし、そういう人たちに出会わなかったら、どうしようもない人間になったと思うんです。
やっぱり人って人に支えられて生きているんだと思うんですけど、相対的に世の中には自分のようなタイプの人が多い。
だから、自分みたいな人間がマインドひとつ上に上がれば底上げになって、最終的には日本全体がよくなると思うんです。
だから、やっぱり教育とか、育むという方向に行くわけですよね。
廃校を活用して、色んな国から国際色豊かな人達が集まって、市民や子ども達が異文化交流もできて、雇用創出もできる。いっそ最先端な技術を学ぶとか、アート系・クリエイティブの学校でも良いです。
学校とまではいかなくても、茨城県北をフィールドとしていろんな所を巻き込んで、全国のロールモデルになるような各地の地域創生モデルを作りたいですね。
言うのはタダだし、そもそも夢は語らなきゃ誰にも伝わらない。
確かに、北茨城をはじめ、茨城県北は人口減少に少子高齢化で過疎化しています。
でも、自分にとって県北は人よし、食よし、自然よしの地域。
難局を超えていく、壁を打ち破っていくというところに燃えるタイプなので、これからも挑戦しつづけていきます。
文・写真=高木真矢子
●グランピングヴィレッジIBARAKI
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