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茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
クリエイティブ公民館/インクデザイン合同会社
KAZAMIDORI/鈴木潤さん
ゆるいネットワークづくりが生み出す、攻めのクリエイティブ
上野駅から常磐線の特急に乗り、約1時間半。日立駅のひとつ手前の常陸多賀駅で下車し、そこから歩いて約1分ほどのビルの4階に、「クリエイティブ公民館 KAZAMIDORI」はある。 2017年にオープンしたこの場を運営するのは、「クリエイティブ公民館 KAZAMIDORI」のある日立市出身で、東京都在住の鈴木潤さん。東京都墨田区でデザイン会社を経営する40代のクリエイターだ。現在は、都内と自身の地元である日立市の2拠点生活を送る鈴木さんが、どのような経緯でこの「クリエイティブ公民館 KAZAMIDORI(以下KAZAMIDORI)」を運営することを決意したのか、そもそも「KAZAMIDORI」とはどんなことを目指す場なのかなど、さっそく訪ねて伺った。
会社をデザインする、ピンクでパンクな会社
「僕の実家はこの近くで、子どものころにこのあたりでよく遊んでたんです。このビルの裏に『カザミ』というおもちゃ屋があって、そこは本当に楽しい場所、わくわくする場所だったので、その店へのオマージュとして“KAZAMIDORI”という名前を付けました。あとは、この場所って、ほら、風が通り抜けるんですよ。時代の風をとらえて、ここから風を巻き起こすみたいな意味も込めて」
「KAZAMIDORI」の話をする前に、まずは、鈴木さんの東京都内での活動について少し紹介しよう。鈴木さんが都内で営む会社の名前は「インクデザイン」。インクとはInc(incorporated)のことで、会社や組織を表す言葉。つまり英語で表記するとInc Design Inc.となる。
「名刺にも入れているのですが、社名のインクデザインは、“会社をデザインする会社”という意味です。僕の会社では、おもにIR(投資家情報)などを中心に、その企業が発信する情報や、企業の見え方、働き方まで、会社全体をデザインするというコンセプトで会社全体のデザインに関わっています」
IRという非常に守秘義務の厳しい分野に携わっているインクデザイン。さぞかし堅い企業理念を持っているのかと思いきや、そのコーポレートスピリッツとして選ばれたフレーズは、意外にポップで、少し好戦的でもあり驚かさる。その言葉とは、“pink punk inc. ”。
「これは、“幸せな世の中のために中指たてよう”という意味で定めたんです。幸せに甘んじるのではなく、それを武器に、世の中のおもしろくないことにとことん抗っていこう、という想いを込めています」
“pink”と“punk”の精神の組み合わせ。少し意訳すれば、“柔軟さ”と“頑なさ”、今風にいえば“ゆるさ”と“ガチ”といったところか。この2つの精神でおもしろいことを追求していく姿勢、2つを同居させる絶妙なバランス感覚こそが、クリエイターとしての鈴木さんの真骨頂だ。
社内起業を経て、自らの会社を創業へ
鈴木さんの、とくに“punk”な一面が伺えるのが、20代のサラリーマン時代の話だ。「インクデザイン」を立ちあげる前、都内の印刷会社にデザイナーとして勤務していた鈴木さんは、より充実したデザインの仕事を求めて会社に直談判をし、社内起業のような形でデザイン部門を立ち上げる。そして、一から飛び込みで営業を始め、前述したIRの分野に可能性があることを見いだして顧客を徐々に獲得し、数年で軌道に乗るように成長させたという。なかなかに“punk”なアティチュードだ。しかも、その後の東日本大震災や子供の誕生などをきっかけに、その部署からも離れることに。ほどなく、自らの会社「インクデザイン」を創業した。39歳のときだ。
「創立後3年目からは、墨田区にあるシェアオフィスに入っています。入居する企業をファシリエーターの方が選別してくれるので、中ですごくいいネットワークがつくれる魅力的なところです。そもそもクリエイティブって、要はアウトプットの質がすべて。どこで作業しようが、どう時間をどう使おうが、結果がよければ関係ないなと思って。であれば、なるべく旧態依然とした制約から離れた組織をつくろうと思ったんです。そのことに今のシェアオフィスはとても向いています」
社員の働き方を管理するという意識もまったくない。 「管理しません。完全に信頼していますし、僕、性善説の人間なんですよ。たとえば、うちの会社にはちょっとおもしろい仕組みがあって、自分の名刺をたくさん配った人に、その配った枚数に応じて名刺手当を支給しているんです。たくさんネットワークづくりをしたという意味で。仮に名刺を捨てたとしても、僕は全然OKなんです。でも、そういう人は、少なくとも僕がつきあっている人のなかにはいないと信じてる」
これが、鈴木さんの中に息づく“pink”な精神。皆がハッピーに働く状態を目指して、相手を信頼し、既存の壁をひょいっとまたいで越えていく。その驚くほど身軽でしなやかな思考力が、鈴木さんの持ち味であり、強みだ。
場所や距離を越えた、ゆるくて大きな集合体の可能性
「ある日、たまたまネットを見ていたら、 “県北クリエイティブプロジェクト”というホームページが目に止まって。見れば、茨城県が、自分の地元でクリエイティブな企業を誘致しているとあって。『あ、これ、俺のことだ!』と思い、すぐに問い合わせをしました。それこそ直感的なものでした」
契約までには少し逡巡したというが、決断の大きな決め手となったのが、迷っている間に出会った茨城のさまざまな人たちだ。
「出会う人たちにすごく手ごたえを感じたんです。クリエイティブな人たちにもけっこう出会えて。なので、一時はこの場を収益化することも考えましたが、もう思いきって皆さんに有効活用してもらえる場にしようと、『クリエイティブ公民館』という定義を考えたんです。まだ始まったばかりですけど、これまでに、『県北写真講座』とか『ライター講座』、「県北ビジネス講座」など、できるだけクリエイティブに触れられるような講座をここで開催しています」
助走を始めた「KAZAMIDORI」。始めてすぐに、思いがけない変化が鈴木さんにもたらされたという。
「変化はすごくありました。とくに思いがけなかったのが、地方で何かアクションを起こすと、じつは都内でも大きな反響があるということ。これは予想外のうれしい驚きでしたね。なので、ここの維持費も“広告宣伝費”と考えれば費用もペイするのかなと、そう自分の中で納得できるようになりました」
現在鈴木さんは、「KAZAMIDORI」を基点に、茨城県内に点在するクリエイターたちと、距離の壁を越えた大きなクリエイティブ集合体としてつながることを模索しています。
「僕の会社がある東京の墨田区には、『すみだクリエイターズクラブ』という組織があって、クリエイターたちが、競合というよりむしろ、補い合うという意識でつながり、その組織で仕事を受注するという、ひとつの理想の形ができているんです。それと同じように、つくれたらいいですよね、『いばらきクリエイターズクラブ』を。県内だけじゃなくて、県外のクリエイターたちともどんどんつながるような、ゆるい集合体ができたら刺激的ですね。あくまでもゆるくつながる。それが大切です(笑)」
仕事はもちろんとことん真剣に。ただ、つながりはゆるめに。鈴木さんの話を聞いていると、県内に存在するクリエイティブな点と点が、互いにゆるゆると触手を伸ばしながらアメーバのようにつながっていく様子が目に浮かぶ。場所や距離を越えた集合体のひとつの基点として、「クリエイティブ公民館 KAZAMIDORI」は、これからも鈴木さんの“pink” で“punk”なスピリッツの向かう方角を、軽やかに指し示し、機能していく。
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