- トップページ
- 茨城のヒト・コト・バ
- 茨城のヒト
- 茨城のバ
- 宮崎将幸さん
茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
AXIS skate & snow boardshop 店長
宮崎将幸さん
スケートボードカルチャーから広がる、世代を超えたコミュニティ
つくば市の牛久沼の近くにあるスケートボードとスノーボードの専門店「AXIS skate & snow boardshop(以下、AXIS)」。外構・エクステリアの設計や施工、そしてスケートボードパークの設計施工を行う有限会社マサケンが運営している店舗だ。
ここには、同社が運営するスケートボードパーク(以下、パーク)「AXIS skate board park」があり、敷地内にスケートボード初心者から上級者まで楽しめるたくさんのコンクリート製・木製のセクション(スケートボードの技を行うための構造物)が設置されている。
AXISのパークにやってくるのは、地元の若いスケーターはもちろん、東京や地方、さらには海外に住んでいるスケーターまでと幅広い。親子で楽しむ方たちもやってくる。技を磨きに来る人もいれば、このパークに集まる人との交流を楽しみに来る人もおり、世代や国籍、技術の熟練度を問わず様々な人たちが訪れ、スケートボードを中心にしたコミュニティがこの場所で生まれている。
そんな世代や環境を超えたコミュニティが生まれるパークの中心となっているのが、店長の宮崎将幸(みやざき・まさゆき)さん。「スケートボードのお店」というと、少し怖い印象を持つかもしれないが、お客さんや仲間から『まさにい』の愛称で呼ばれる宮崎さんは初心者でも朗らかに迎え入れてくれる。

有限会社マサケンの資材置き場だった場所にコンクリートパークが作られている
もちろん宮崎さんは、スケートボードやスノーボードを滑ることが好き。しかしAXISの中での役割は、パークの中で生まれる人と人との豊かなコミュニティを作っていくための「窓口」だそうだ。
「自分は、初めての人にもスケートボードに興味を持っていただく窓口だと思っています。ぜひ楽しい世界に足を踏み入れてみませんか、という案内人みたいな役目。その窓口から、常連さんや上手い人たちに繋げていって、自分はまた次の新しい人を待っている。なので、スケートボードの事がまだよくわからない入り口の方の気持ちも考えながら運営をしているつもりです」
スノーボード漬けの生活で気づいた、コミュニティの魅力

敷地内にはショップも併設。スケートボードに必要な道具やアパレル、関連グッズなどが取り揃えられている
宮崎さんの出身は大阪市の北区。大学は神戸の大学に通っていたが、全国展開する運送会社に就職したことで千葉県柏市にやってきた。もともとスノーボード好きということもあり、茨城県への縁は、当時龍ケ崎市にあった屋内スノーボード施設に通うようになったところから生まれていった。
柏市で就職してからしばらくは、趣味としてスノーボードを楽しんでいた。しかし、会社の中で経理を担当していた中で、ふと「このまま会社にいても、自分の将来は楽しいものではないのかもしれない」と思うようになったそうだ。さらに、宮崎さん自身の中でも、スノーボードをもっと滑りたいという気持ちが大きかった。
そこで、24歳のときに「スノーボードを好きなだけやってみたい」という想いから、会社を退職。それから約4年間、龍ケ崎を拠点に、アルバイトでお金を貯めてはシーズンが来ると仕事をいったん休業し、国内外様々な場所滑りに行く、というスノーボード中心の生活を送った。4月から7月までアルバイトをして、仕事を休んで、7月から9月ごろまでニュージーランドで滑り、帰国したらまた2ヶ月ほどアルバイトをして、12月になるとまた仕事を休んで、翌年の4月ごろまで滑る、というサイクルの繰り返し。

ショップではボードのメンテナンスも対応している
「スノーボードをやることだけじゃなくて、滑る環境が好きだったんですね。山にはいろんな人が来て、いろんな人に出会える。年代も違えば環境も違う人たちが、スノーボードというひとつのカルチャーを通じて全国から集まってくる。その人たちと生活を共にするという感覚だったので、シーズンが来るたび『また今年もあの人に会えるかな』という楽しみもありました。一つのシーズンが終わっていくごとに、全国の色々なところに友達ができていくので、横に広がっていく人間関係にも魅力を感じていました」
しかしある時、お金を貯めてスノーボードをしに行く自分に対し疑問を抱くようになったそうだ。
自分はスノーボードでプロになるほどの実力は無い。スポンサー契約がついたこともあったが、その活動をずっと続けられるわけでもない。4年経ったある日、何か自分の経験をもとに社会復帰しなくてはいけない、という気持ちを抱きながら、アルバイトでもお世話になっていた龍ケ崎市のアミューズメントパークに正社員として就職。
「茨城にたくさんの仲間がいるので、まずはその人たちの近くで仕事を初めて、そこから自分のやりたいことが見つけていければいいかな、と思っていました」
コミュニティが広がっていく場所を作りたい

スケートボードに必要な道具について、初心者にも親身になって対応してくれる
そして、龍ケ崎で正社員として働き始めてしばらくしたころ、東日本大震災を経験。学生時代に経験した阪神淡路大震災に続いて、二回目の大きな震災の経験で、このとき宮崎さんは35歳。被災経験のなかで「人生、色々なことが起こるしいつ死ぬかわからない。自分の人生の中で、やりたいことをもっと明確にしていきたい」という思いが芽生えたそうだ。
そんな想いの中、自分のやりたいことを見つめ直しながら、自身のルーツであるスノーボードやスケートボードの店舗を訪ねていった。しかし、以前出入りしていた屋内スノーボード施設や、AXISが当時龍ケ崎で運営していたパークも閉店。施設も無人になり朽ち果てつつあった。
「それを見たとき、今までの仲間たちは今何をしているんだろう?お店やパークが無くなってつまらない思いをしてるんじゃないか?と思えて、『みんなが集まってコミュニティが広がっていくような場所を作りたい』という気持ちが湧き上がってきました。以前、私はお客さんとして龍ケ崎のAXISに通っていたんですね。なので、元店長や有限会社マサケンの木村社長に『この場所を私に貸してもらえませんか』と相談しに行きました」
そのときに、「施設を貸すのは難しいが、店長として協力してくれるなら会社として迎え入れるから、一緒にやってみよう」と、木村社長からのお誘いを受けたのだそうだ。そして2013年、宮崎さんはアミューズメントパークの仕事を辞め、当時はまだ龍ケ崎にあったAXIS skate & snow boardshopに店長として就職した。
宮崎さんが店長として引き継いだ時、AXISのパークは関東鉄道竜ヶ崎線の近くにあったが、3年ほど運営した後パークの地主からの要請で土地を返還することになった。しかしその後、宮崎さんと木村社長、そして社員の皆さん、仲間のスケーターたちで相談しながら、現在の場所(住所としてはつくば市)にスケートボードパークと店舗を作ることに決定。この場所は元々、有限会社マサケンの資材置き場だったそうだ。
つくば市に移転したパークづくりの過程で、宮崎さんがこれまで培ってきた繋がりからの協力者も現れた。
「パークやショップをどんな風にしていくかは、会社のみんなで考えていきました。パークを実際に作るときはアメリカからパークビルダーさんを呼んで一緒に作りました。その方はいつも滑りに来てくれるスケーター仲間の友達、という繋がり。観光で日本に来ているタイミングに『パークの作り方教えてやるよ』ということになり教えていただきました」
ここで作っていったパークには、龍ケ崎のAXISにあったセクションや、かつてつくば市の白畑公園にあった日本でも数少ないヴィンテージなスケートパークなど、パークづくりに関わる人にとって縁や思い入れがあった場所がモチーフとして使われているそうだ。
店長という枠に収まらない宮崎さんの仕事

木製のセクションを作る場合は、宮崎さんが直接大工仕事を行うこともある
宮崎さんのAXISでの主な仕事は、パークやショップの店長としてのお客様対応だけでなく、パーク作りに携わる人たちへの対応もある。AXISを運営する有限会社マサケンには、パークを設計施工する「MBM PARK BUILDERS(以下、MBM)」という部門がある。宮崎さんは、MBMに対して「パークを作りたい」と相談に来た人へのヒアリングや調書作成、そして、MBMに入社して自らパーク作りを学びたいという人たちへの受け入れ窓口も担当している。さらには、木製のスケートボードセクション(競技や技に使う木製の構造物)を作るための段取りを行うこともあれば、宮崎さんが自ら手を動かして作ることもあるそうだ。
「自分が本当に忙しそうにしているときは、お客様が手伝ってくださるときもあるんですよ。そういうやり取りが起こることは本当にありがたいし、自分にとって大切なことだと思っています。やっぱり、スケートボードが好きな人たちが集う環境があると、『あそこに行けば誰かと話せるかも』という期待を持って遊びに来てくれる人もいる。その人たちの中で、自分という存在がちょっと大きければ、『まさにいと喋ろうと思って来たんですよ』『何やってるんですか?作業手伝いますよ?』って声をかけてくれる方もいる。自分はすぐご厚意に乗っかっちゃってるんですが、そうやってお客様と一緒に作業するはとても楽しいですね。もちろん、真剣に滑りに来ているタイミングの人や、一般のお客様に忙しそうと思わせてしまうのは良くないな、というのもありますけど」
親子連れでAXISに来るお客様は、お子さんが滑っている間、親御さんが作業を手伝ってくださることもあるそうだ。そんなとき、親御さんと会話をしながら、お子さんが今後どのようにスケートボードに取り組んでいきたいかを聞き出していくこともある。その時の会話を基に、今後レベルアップのためのサポートの提案や、スケートボードの楽しみ方の提案、一緒に滑れそうな友達の紹介などを考え、運営に活かしていくそう。。
もはや店長という枠にとどまらず、パークにまつわる様々な仕事をこなす宮崎さん。それぞれの仕事ごとに重要性はあるが、宮崎さんは常に人と人とのコミュニケーションを大切にしている。
「初めてのお客様には、当然しっかりと接客をさせていただくし、いろいろなお話もします。徐々に打ち解けていく中で『一緒に滑りませんか』みたいな感じで誘うこともあって、一緒に滑るというコミュニケーションも大事だと思っています。実は、自分は何をやりたいのかと聞かれると、『こんなことやりたいです』っていうのはあんまり無いんです。人をサポートしたり、何かをやりたがっている人を手伝うのが好きなんですよね。『それをやりたいなら、こんな感じでやればいいかも』と提案したり、スクールで子どもたちにスケートボードを教えて、上達していく様子を見ているのも好きです。皆さんの『こんなことやりたい』という気持ちを、知らず知らずのうちに後押しできていればと思いますね」
世代を超えてスケートボードの楽しさを伝えていきたい

休日や夏休みは、子どもたちも大人に混ざってスケートボードを楽しむ
AXISの運営やスケートボードを通じたこれからの宮崎さん自身の展開についても、「大切にしていきたいのはやっぱり人ですね」と語る。現在、パークの店長としての仕事をするだけでなく、MBMのパーク施工関係や就職の窓口、大工仕事まで引き受けている多忙な宮崎さん。しかし、工事事業部がひと段落させたら「もう一度初心に立ち返り、お店のカウンターに立って、接客して、スケートボードの楽しさを伝えていきたい」という思いがある。
「自分が大学の時、ちょっと哲学的な考え方をする友達がいて、その友達が『人間は結局は一人だと思うし、最後は誰にも頼れないから、自分で地に足をつけて責任を取って歩けるようにならなきゃいけない』ということを言ってくれた。それを聞いた当時、甘えの塊だった自分はその考えを受け入れられなかった一方で、先が見えてきた思いもありました。『俺は自分じゃ何もできないけど、自分が苦じゃないことで他人にしてあげられることがあれば、どんどん手伝っていこう』という気持ちが芽生えたんですよね。スノーボードやスケートボードも、いい環境や面白いパークで自分が滑るのももちろん楽しんですけど、昔の自分のように夢中になって滑っている、スケーターやスノーボーダーの初級者に自分のやってきた楽しみ方や技術のコツをどんどん教えていって、その子たちが楽しみながら上手くなっていくところに喜びを感じていました」
現在、パークに滑りに来る人たちの楽しみを支えるだけでなく、AXIS skate & snow boardshop発の、世界に通用するスケーター育成にも取り組んでいる。スケートボードで世界を目指したいという若手や子どもたちにじっくりと付き合い、練習への取り組み方の指導をしたり、くじけそうになった時の支えになったりと、何年も時間をかけて若いスケーターたちを彼らが目指す目標まで押し上げていくというものだ。

多くの子供たちが、このスケートボードパークへ訪れ、そして育っている
現在、「世界一のスケーターになりたい」という夢を抱く小学四年生の女の子に対し、宮崎さんをはじめAXISのメンバーたちがその夢を叶えるためのサポートを行っているそうだ。
毎日のように滑りにくる彼女に対して宮崎さんも指導をしていくが、その中で人と人としての距離感も近くなっていく。世界一を目指すスケーターとはいえ、教える相手は小学生。家庭や学校で教育に対するいろんな考え方もあるため、当初宮崎さんは、彼女との間にもめ事を起こさない距離感を保っていた。しかし、スケートボードの技術だけでなく彼女にとっての人間的な成長も大切と考えた結果、親御さんとのコミュニケーションを密にしながら、その子に対してもっと踏み込んだ距離感になっていったそうだ。
「練習を応援していくと、その子との距離も近くなりますし、このお店を大事な場所として捉えてくれるようになるんですね。その子のお母さんも、お店をサポートしてくださるようになりました。そうなっていったときに、『お母さんは、どういう風にこの子を人間的に成長させたいのか』ということも、コミュニケーションをとりながら聞くようになりました。こういうところ言うこと聞かないとか、こういうところ直してほしいとか。それに対して、自分がその子にドーンと踏み込んで、『そういう言い方するんじゃないよ』みたいにきちんと叱る。仮に、そこで反発されたとしても、その子のためになるのであれば、きちんと踏み込んでいこうかなと、最近は思っています」
AXISが子どもたちにとって大切な場所になってくれれば。そんな思いを持ちながら、宮崎さんは親御さんたちとのコミュニケーションをしっかりと行い、近い距離感で接していく子どもや、高みを目指していく若手に対しては、「昔で言う近所の怖いおじさんとスケートボードの店長の、ハイブリッドな感じ」で子供たちに接している。
スケートボードから始まる、人と人との繋がり

「業務というより、人間関係を築く場所ですね」
AXISで店長を務め、スケートボードを中心に人と人との接点を作ってきた宮崎さんはそう語る。
「スケートボードの魅力は、コミュニケーションの生まれやすさ。子どもとおじさんが仲良くなって、他人同士だけど『この技、こうやるとできるよ』って子どもが大人に教えたり、技ができるようになったらハイタッチしたり、世代を超えたコミュニケーションもあります。それに、技をできるようになるには、反復練習をして一つ一つ課題をクリアしていかなくちゃならない。小さな成功を重ねて一歩一歩上っていくところで、スケートボードには人生の縮図があるような気がしています」
スケートボードやそのカルチャーが好きな人が集まり世代や環境を問わず楽しめる場所、AXIS skate & snow boardshop。スケートボードが好きな方、昔やっていたけど久しぶりに再開してみようかなという方、この世界に足を踏み入れてみたい方。まずはAXISの宮崎さんを訪ねてみてほしい。この場所から、新たな人と人とのつながりが広がっていくはずだ。