関東の最北端。茨城県の北部地域6市町を舞台にした連載『クリエイティブのフィールドワーク』。フィールドワークとは、文字通りフィールドつまりは現地に入り、各々が “ある視点” に基づいて、物事の仔細を見聞き体験し、机上だけでは決して分からない、“視点”と“対象”を結ぶ地脈を全体的に理解しようとする行為。今回の連載では、映像作家である筆者が、いちクリエイターとしての視点から、何に興味が湧き、何に可能性を感じ、何に学びを得たのかを書き残し、茨城県北地域にクリエイティブの火種を見つけていく。
以前から、その噂だけはちらほらと聞いていた。常陸太田市の山あいの小さな集落に、素敵なカフェがあると。そしてどうやらそのカフェは、普通のカフェではなく、障害をもった方々と共に働く、就労継続支援事業所でもあると。いったいどんな人がどのような想いでやっていて、どんな情景があるのだろうか。晴天の冬のある日、車を走らせて『山のcafe sasahara』へ向かった。
山間部へ向かって車を走らせると、風景が広がり、のどかさが増していく。こうした懐の広さとも言える(実際に県内で一番広い面積をもつ)常陸太田市の雰囲気が好きだ。道路脇にポツリと『山のcafe sasahara』の看板が出てくる。カフェなんて、この先にありそうにない雰囲気がそうさせるのか、看板の程よく力が抜けたデザインがそうさせるのか、期待感とともに、妙な落ち着きが膨らんでくる。こんな景色を見ながら、美味しいコーヒーが飲めたら最高だろうな、そう思った。
“ただの”カフェ
日本家屋を改装した、木の温かみに溢れた空間で迎えてくださったのは、菊池登茂子(ともこ)さん、真澄(ますみ)さん親子。母である登茂子さんは、一般社団法人山里舎の代表理事として、障害者の方の地域就労の相談を受けながら、『山のcafe sasahara』の厨房を担当。そして、娘の真澄さんは、『山のcafe sasahara』の責任者として、広い範囲で仕事をする。2019年の4月にオープンしたばかりの『山のcafe sasahara』は、お二人に加えてご家族、そしてここに就労して働く方々で、小さく運営されている。