茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI

古渡勇気さん

PEOPLESPOTS

LOOPTOWN 店主

古渡勇気さん

みんなが集まり混ざり合う、都会と田舎の交差点

常総市にあるLOOP TOWNには、いわゆる「古民家を活用した店」にとどまらない魅力がある。まるでこの土地からは切り離されたようなスタイリッシュさ、それでいて地続きのような懐かしさ、ついつい長居してしまいたくなる、なんとも不思議な場所なのだ。

東京の若者から地元の高齢者まで、老若男女が訪れるこの場所の魅力は、一体どこから生まれているのか。店主の古渡勇気(ふるわたり・ゆうき)さんにお話を伺った。

時間の経過が作る質感を求めて

茨城県常総市沖新田町。一面にひろがる田園風景の中に「LOOPTOWN」はある。古道具・骨董・古着などを扱うこの店は、都内からのアクセスは1時間ほどの場所にあり、都会と自然あふれる田舎の中間地点のような立地にある。周囲には高い建物が一切なく、店の駐車場から見える筑波山の姿は、その裾野から頂上まではっきりと見える。

LOOPTOWN店内の様子。商品の仕入れは競りや、持ち込み、近所で蔵や納屋を解体する際に片付けながら買い集めた。古渡さんが旅の最中で出会って仕入れたものもあり、経緯はさまざま。


元機織り工場を改装した店内に足を踏み入れると、年季の入った机や椅子、食器棚、ガラスの瓶、古いおはじき、昔の包装紙、リネンのクロス、鉄製のフレーム、和菓子に使う型や焼き印まで、大小さまざまなアンティーク家具や雑貨、古道具などが並ぶ。店舗奥の一角には古着のコーナーもある。

そのラインナップや配置はお店に足を運ぶたび変化するが、不思議と統一感があって、調和のとれた空間が保たれている。この世界観を生み出しているのは、LOOPTOWN店主の古渡さん。

「長年使われたことによって質感が深みを増しているものを選んでいます。例えば、何度も人の手に触れて、手の油などで木の表面がつるっとしていたり、角が立っていた部分が使われる中で丸みを帯びて行ったり。時間の経過でしか作れない姿に魅力を感じます。愛情とストーリー感じるものが好きですね」

大正時代に桜の木で作られたとされる机。出会いは、古民家の片付け。片付けきってもう何も無いと思っていたところ、埃をかぶったダンボールに埋もれているところを発見。「こういう机を1度は仕入れたかった」と感慨深げに話す。


生活の中で役立ってきたからこそ生まれたシミや傷跡。長年にわたり、雨風に晒されたからこそ生まれる錆の色や、木材の変化。これまで大切に使われてきたからこそ現在まで残っているその姿。LOOPTOWNに集まってきた家具や道具に共通して温かみを感じるのは、今日まで物が使われてきた歴史や、捨てられずに残されてきた愛情を感じられるからなのだろう。

木の艶だし作業の様子。木材は人の手が繰り返し触れることによって艶が生まれる。仕入れた商品を別の用途で使えるように加工して並べることもあるそうだ。


渋谷から常総へ。古民家との出会い、LOOPTOWNのはじまり

今は常総市でお店を営む古渡さんだが、LOOPTOWNを始める前は都内在住で、今とは少し違った生活を送っていたそうだ。

出身はつくばみらい市で、高校卒業後にデザインを学ぶために上京。そのまま都内でグラフィックデザイナーとして活動し、イベントのフライヤーやチラシ、企業のロゴデザインやWEBバナーなどさまざまなデザインを手がけていた。その傍らで、スケートボードやヒップホップなど、渋谷カルチャーに傾倒する日々を過ごしていたそうだ。

「スケートボードにずっと夢中だったし、街の中のカルチャーに触れてみたかったんです」

古着コーナー。さまざまな洋服が並ぶ中に、珍しい一点もののスケートボードも。駐車場にはお父様が手がけたスケートボード用のランプ(坂)が設置されている。


朝までクラブで過ごしたり、ビートメーカーとして音楽を作ったり、さまざまな場所でライブを行ったりするなど「渋谷の中で、一番遊んだ自信がある」と振り返る。

しかし上京から7年経ったころ、転機が訪れた。父から、常総市で古民家を買ったのでその片づけを手伝ってほしい、と連絡がきたのだ。

「手伝うつもりはなかったのですが、電話越しに父が力説するので、しぶしぶ行くことにしました。当時はこれほど広い場所だとも思っていなかったですし、なぜ急に古民家を買ったのだろう、と思っていました」

父が購入した古民家、それは大正時代に機織り工場や事務所として使われていた、広くて大きな物件。購入当初は、敷地内に2015年に起きた関東・東北豪雨の水害によって流れ着いたゴミが溢れ、ヘドロや土砂は建物の中まで30センチほど積みあがっていたという。

「父が仕事のための機材を置く倉庫を探しているとき、偶然この場所を見つけたそうです。『絶対に直したい』と思ったみたいですね」

敷地内の母屋。きれいにリノベーションされており、古渡さんの母がカフェを営む。コーヒーや紅茶に加え、季節に応じたメニューも提供している。


仕方なく片付けを手伝い始めた古渡さん。しかし、作業を進めるにつれ古渡さん自身にも変化があった。

久しぶりに嗅いだ土の匂いで、幼少期に自然の中で飽きることなく遊んできた日々を思い出したのだ。

「片付けのとき、久しぶりに雑草を抜いて、根っこについた土の匂いを嗅いだときに、子どものときの記憶がワーッと蘇ってきました。実家のある伊奈町(現在のつくばみらい市)は、大自然があるわけではないんですが、森も、林も、川もあって。小学生のときは川沿いの森の中で、大きい木を見つけては登って、木の上に勝手に板を並べてツリーハウスを作ったりして遊んでいました。秘密基地作りが大好きで、中学生になってもずっと、やりたかったんですよね」

この出来事をきっかけに、かつて夢中だったことを思い出した古渡さんは、東京から茨城へ帰る決心をしたそうだ。

幼いころの秘密基地づくりのように、空間を作るわくわくした気持ち、幼なじみと場所を作っていたときに感じていた楽しみ、自然の中で走り回っていた記憶。それは、現在のLOOPTOWNの姿にも影響を与えている。

レジの横は古渡さんの作業スペース。さまざまな古道具に囲まれた、秘密基地のような空間。ここで仕入れた商品のメンテナンスをしたり、オリジナルの商品を製作したりしている。


茨城に戻ってきて古民家を片づけていると、近所の住人が気にかけ、遊びに来てくれることもあった。工場が稼働していた時代に働いていた人たちは、今も近所で暮らしており、廃屋となってしまった工場の行く末を心配していたのだそう。

古渡さんが聞いた話によると、大正時代から昭和時代のはじめごろ、この工場では石下結城紬の反物を作っていたとのこと。女性が家庭の外で働くことが一般的には認められていなかったその時代に、この機織り工場は珍しく、多くの女性を雇用していたそうだ。この工場なら女性も働けると、近所へ引っ越してきたり、住み込みで働いていた女性もいたという。ここは彼女たちにとって特別な、思い出の場所だったのだ。

古渡さんの父は仕事の傍ら、独学で古民家の修繕を施し、時間をかけて家屋を蘇らせた。LOOP TOWNがオープンしたのが2018年春。オープンしてから間もないころは、もともと工場で働いていたご近所の方が遊びに来ることも多かった。

「きれいになったこの場所を見て、工場で働いていたころの思い出を話してくださる方や、昔を思い出して涙する方もいらっしゃいました。その様子を見ながら、昔からここには人が引き寄せられ、集まってきたのだと実感しました。地元の方々にとっても思い出深いこの場所を、もう一度人が集えるように作らなければという思いが、私たちの家族でどんどん強くなっていきました。これは人生において非常に意味あることだと、地元の方々から感じていったんです」

工場として稼働していた時代に撮影された写真が、この場所の歴史を伝えている。


翌年には「この場所に来てくださる方をおもてなしできる場所を」と古渡さんの母が母屋でカフェ「FURU」をオープン。2021年には同敷地内の蔵で、弟が鉄を使った家具・照明・雑貨などを扱う鉄工ブランド「十てつ(とてつ)」をスタートした。年に数回開催するイベント時には、父が庭で酒屋をオープンするなど、家族それぞれが敷地内で場をもち、互いに影響を受けながらこの場所を作り上げている。

人も、物も、集まって混ざりあう場所

「この場所には、さまざまなバックグラウンドを持つ人々を交差させる力」があると、古渡さんは考える。

都内から電車でLOOPTOWNへやってくる若者や、古渡さんに会いに来る友達がいる。ここを思い出の場所として訪れる地元の方々もいる。まさに老若男女、さまざまな人がこの場所を訪れている。

自然と人が集まる場所を作る、秘策があるのだろうか。

「自分とは違う世代や、価値観をもった人に対して『あの人はわかっていない』と心を閉ざして、相手と関わらないように線引きする人もいると思います。でも、僕はそうしないようにしています。自分が相手を理解しようとする心を持てば、例えば、骨董屋のおじいさんおばあさんとラッパーの会話が生まれて、交わってくる。お互いがお互いのことを面白いなって思える機会をつくっています」

地元の人にも、気軽に足を運んでほしいと語る古渡さん。「店で商品を買わなくてもいいし、覗きにくるだけ、外でタバコでも吸うだけでも大歓迎です」


ただ、コロナ禍があり、なかなか以前のように人が集まることができないもどかしさがあるそうだ。以前は、イベントの際には地域の人も入ってきて、さりげなく東京の人と交わる瞬間もあった。「イベントは大変だけど、続けていくことに意味がある」と語る古渡さん。コロナ禍が落ち着いてきたタイミングで、イベントはまた定期的に開催していきたいそうだ。また、日常の中で生まれる交流も大切にしたいという。

「例えばこの場所で、静かな平日、1人もお客さんがいないようなときに、偶然、誰かと出会って、ゆっくり何時間も、夜暗くなるまで話す。これはSNSにはアップされない個人的な出来事ですが、『誰かに言うわけではないけど、今日、ここに来てよかったな』と心のなかで思ってもらえる。そういう瞬間が増えたらいいなと思いますね」

SNSを中心とした画面上の繋がりや振る舞いばかりが重視される時代だからこそ、この場所では偶然生まれる、異なるバックグラウンドを持つ人々との出会いや、「こんな生き方があるのか」と思えるような考えに触れるなど、心の震えるようなリアルな体験や瞬間が増えてほしいと古渡さんは願っている。

「この場所は、都会で暮らす人と、そこから離れた自然の中で暮らしている人と両方の人が来るんですよ。たまたま、東京で疲れた人たちが来た時に、筑波山の麓で自給自足しているような人が出会って、お互いの生き方を知る。自然の中で生きる人たちと、そこから遠のいた人たちを繋げる役割がある。そういう機会をどんどん増やしていけたらいいなと思ってます」

人間は人と人の関わり合いで生きていくしかないと思っているんです、と話す古渡さん。さまざまな属性の人が集まり、顔を合わせたコミュニケーションを経て、価値観を共有したり、多様な生き方に触れ、人とつながる。そのつながりはまた新たな出会いを生むこともあるだろう。

一方で、古くから受け継がれた道具が持ち込まれ、メンテナンスされ、新たな持ち主の下へ旅立つ。それはまた、さらに別の人のもとへ届けられる未来があるかもしれない。人も、物も、「万物が巡る」場所、LOOPTOWN。さまざまな人を惹きつけるこの場所の魅力は、土地の歩んだ歴史、古渡さんの思考、訪れる人々、全てが混ざりあって生み出されている。

PROFILE

PEOPLE

LOOPTOWN 店主 古渡勇気(TORA)さん
https://looptown-official.com/

1990年生まれ、茨城県つくばみらい市出身。大学卒業後、都内でデザイン業に携わる傍ら、ビートメーカーとしても活動。父親の古民家購入をきっかけに帰郷し、2018年に「LOOPTOWN」をスタート。古着・古道具・骨董品・アンティーク雑貨などの買い取りや販売を行っている。その審美眼や独自の空間表現から、第7回国際つくば現代美術『周縁の美学展』にアーティストとして招待され作品を発表するなど、活動の幅を広げている。

INTERVIEWER

平塚実里

つくば市在住。都内コンサルティング会社勤務を経て、自身の結婚式がきっかけとなりカメラマンへの転身を決意。ブライダル写真事務所でのアシスタントから本格的に写真を学ぶ。インタビュー撮影の現場から、写真だけではなく文章での発信にも興味を持ち、ライター業の修行中。パンと猫と旅が好き。

Photo:川原涼太郎(つくば市在住)