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茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
ゲストハウス
ラグナロック
リノベーションのゲストハウスから発信する、DIY型賃貸借の可能性
JR水戸駅の賑やかなエリアから少し離れたところにある大塚池公園。この公園の大塚池のほとりにある、築45年の建物を利用したゲストハウスが、2019年5月にオープンした。ゲストハウスの名前は、「ラグナロック」。
この建物は、かつて建築士が住んでいた家だが、約7年の間、空き家になっていた。そこに、「株式会社みらい不動産」代表の関達彦(せき・たつひこ)さんと、「加藤雅史設計事務所」の加藤雅史(かとう・まさし)さんが、リノベーションを行いゲストハウスとしてオープンさせた。
建築士が住んでいた家ということもあり、建物自体も特徴的。外側から見ると二階建てにも見えるが、一階部分は吹き抜けの空間になっているピロティ形式の建物。上空から見ると「く」の字のような構造になっている。玄関から入ると、まずは階段で二階に上がっていくので、目線の高さも相まって、どの部屋からも大塚池を望むことができる。
宿泊の収容人数は8人で、一人あたり税込み3,800円〜で宿泊できる(2019年7月現在、時期により変動あり)。二段ベッドや共用リビング、食材を持ち込んで利用できるシェアキッチンがあるほか、大画面のテレビやボードゲーム、テレビゲームなどの交流アイテムも供えられている。
水戸出身の不動産×建築士コンビ
ラグナロックを管理運営しているのは、水戸出身の二人。
一人目の関さんは、不動産会社「株式会社みらい不動産」の代表。
建築を学ぶために都内の大学に進学。卒業後は、建築現場の監督や住宅メーカーの営業を経験。「住宅のエンドユーザーとも話をしたい」という思いから、二級建築士の資格や、宅建の資格も取得した。2015年にUターンし、父親が経営する建築会社の中に不動産部門を立ち上げる。経験が無いながらも、独学で知識やノウハウを積み重ねながら、少しずつ契約を増やしていった。その後、2018年2月に「株式会社みらい不動産」を創業。土地や建物などの一般的な不動産取引だけでなく、空き家所有者の「建物のリフォーム費用を負担することは難しいが、現況のまま貸家にできるのなら、自由に改修してもらっても構わない」というニーズに応える「DIY型賃貸借」を行っている。
DIY型賃貸借とは、借主(入居者)の意向を反映して住宅の改修を行うことができる、賃貸借契約や賃貸物件のことを指す。借主が自ら改修をすることはもちろん、専門業者に発注して改修していくこともできる。個人所有の住宅を、賃貸住宅としての流通を促進することを目的として、国土交通省でもガイドラインがまとめられている。
そして二人目の加藤さんは、「加藤雅史設計事務所」を営む二級建築士。
建築の専門学校を卒業した後、木材の会社や工務店などで、営業や設計、現場管理などの仕事を学んでいった。37歳の時に、現在の設計事務所として独立。水戸で開催されたリノベーションスクール※に参加したことをきっかけに、地域のコミュニティを再生させながら空き家問題に関わっていく方向性を意識し始めたそうだ。現在、設計の仕事だけでなく、創業スクール運営や、水戸の中心市街地の多世代が集まる場所づくり「マチノイズミプロジェクト」にも関わっている。
※全国的に行われている実在の物件を用いてリノベーション事業を構想し、オーナーに提案を行うスクール形式の取組み
セオリー通りにするのが嫌
関さんがカフェで一級建築士の勉強をしていた時、隣の席で同じく一級建築士の勉強をしていた加藤さんに声をかけたのが、二人が出会ったきっかけ。それから連絡を取り合うことは無かったが、関さんの一級建築士の免許授与式のときに再会した。
このとき関さんは、「外の世界を知らず、簡単な不動産売買しかしたこと無かった。このままで良いのだろうか」と思い悩んでいた時期でもあった。その話をしたいと思った相手は、自分とは違う雰囲気を持っている加藤さんだったという。一方で加藤さんも「DIY型賃貸借をやりたいと思っていて、それが誰かに話したい一番の話題」であった。
再会した二人は餃子屋さんで語り合い、意気投合。
加藤さん「DIY型賃貸借の話をしたら、関君はじっくりと聞いてくれた上に実践までしてくれた。自分にとっても願ったりかなったり。自分は宅建の資格は持っていても、仕事としてやっていたわけじゃないんですよね。DIY型不動産をやりたいとは思っていましたが、全然実行には移せていなかったので。でも関君がサッと実行に移してくれました」
関さん「加藤さんからDIY型賃貸借の聞いてから、それについて色々調べました。元々空き家というキーワードを当時は全然気にしていなかったのですが、いろいろ調べて、完璧に理解する前にチラシを作って告知していました。初めての問い合わせが来た時に、必死に書類の書き方を調べたりしていましたけどね」
加藤さんと関さんが言うには、セオリー通りの不動産業を行うと、業務としての利益が出づらいそうだ。古い家や空き家を物件として扱う場合、賃料は低くなり、不動産会社が得られる手数料も安くなってしまう。しかし、リノベーションなどを通して物件に投資することで、空き家の価値を高めることができる。
そして二人の共通点は、「セオリー通りに生きていくのが嫌」ということ。普通とは違うことをやりたい、人に負けたくない、何者かになりたい。そんな思いを持った二人は、少しずつ一緒に活動するようになっていった。関さんに届いた空き家活用の相談に対し、加藤さんがリノベーションのための設計や工事の発注を行う。仕事を進めていく中で、「自分たちで空き家を借り上げて、何か始めてみたい」という気持ちも出てきたそうだ。
そんな中、ラグナロックとなる物件に出会ったのは、2018年12月ごろ。
関さん「うちの広告を見た物件の持ち主から相談が来たのですが、あまりにも素敵な物件だったので自分たちで借りたいと思いました。物件の写真撮って、加藤さんに『すごい物件出ました』って送ったら『いいね!』みたいな話になって。そこで、翌年の1月に賃貸契約結ばせてもらって、そこからいろいろ計画を進めていきました」
この物件は、空き家だったころに喫茶店のような形式で貸し出されていたということもあり、物件のオーナーさんは加藤さんと関さんの考えにも理解があるそうだ。「報告だけしてもらえれば、自由にやっていい」というオーナーさんの意向の下、二人はこの建物をゲストハウス「ラグナロック」として完成させた。
ゲストハウスの名前である「ラグナロック」とは、TVゲームに登場するアイテムから採用したもの。
加藤さん「名前を考えるのに、『例えば、カップラーメンとかでもいいから好きなもの言いあおうぜ』ってなって。関君は『単語二つを並べたい』、俺は『シンプルに一文字にしたい』みたいなことを言い合っていました。色々話し合った結果、自分と関君とがお互いにプレイしたことのあるテレビゲーム『ファイナルファンタジー6』から連想される名前にしよう、ということになりました」
色々な人と話をできるのが楽しい
加藤さんと関さんは、建築や不動産の世界の中で様々な物件に関わってきたが、自らゲストハウスを作り運営していくのは、今回が初めて。ラグナロックを作る際は、自分の目で見て、体験してきたところからも学んでいった。
加藤さん「ラグナロックを始めるための比較や調査の中では、どんなゲストハウスを見てこよう、という調べる基準みたいなものはとくに無かったです。ただ、実際にゲストハウスをやることになって他の施設を見てみると『こういう設備でもいいんだな』って思うものが多いんですよね。たとえば、畳の部屋に二段ベッド置いても全然アリだったりとか。極端な例では、『物置を個室として扱う』みたいな宿もありましたからね」
ラグナロックは、取材時点ではオープンしてまだ二か月。二人にとっては初めてのゲストハウス運営だが、日々やってくるお客様とのやり取りの中で、少しずつ経験を積んでいる。
加藤さん「インバウンドの人にもいっぱい来てほしいんですけどね。関君は英語ペラペラなわけじゃないんですけど、積極的にコミュニケーション取りに行けるんですよね。自分もそうしたいんですけど、若干ビビっているところはありますね。先日もタイと台湾からお客さんが来てくれたけど、当日まで会話できるか不安で。実際に来てみてもらったら日本語を話せる人で良かったんですけど。そういうところは俺がもうちょっと慣れないといけないなと思ってます。運営の経験値が高くなってきたら、お客さんに『今日一緒に飲んじゃいますか』って誘えるかもしれないけど、現状、どれぐらいの距離感で接したらいいかわからないというのもある」
関さん「たとえば男子会とか女子会とか、宅飲みするような気軽さで使ってもらいたいというのもすごいあります。それに、茨城県外や海外からも来てもらって話をできるのは楽しいですしね。でも、来てくれたお客さんに対してどこまで踏み込んだらいいのかな、という部分もこれから分かるようになりたいですね」
まだまだ経験を積みながら試行錯誤していく必要もある。それでもゆくゆくは、ラグナロックに泊まりに来てくれた人と写真を撮ってSNSに上げる、一緒に動画を撮って掲載する、インタビューをする、といった交流の機会を作れるようにしていきたいそうだ。
ラグナロックから「DIY型賃貸借」を発信
ゲストハウスの運営者というだけでなく、「不動産会社」「建築士」としての知識や能力、ノウハウを使ったDIY型賃貸借を提案していく二人。
関さんには、実際にラグナロックを運営していくことで、空き家活用の事例を自ら発信していきたいとう思いがある。
関さん「ラグナロックを事例に、『空き家があるんだけど、うちでも民泊ビジネスできるかな?』と思ってくれる人も現れるかもしれません。そういう方のために自分がサポートしていく役割になったり、そのために事例を作ったり、ノウハウを蓄積していきたいですね」
ただ、ここで加藤さんと関さんだけが活動していても、年間で取り扱える件数には限界がある。だからこそ、「空き家を活用する人」が増えていってほしいと考えているそうだ。
関さん「空き家活用の活動をやっているからには、『日本中の空き家をゼロにしたい』といったところに行き着くんだと思います。本当にゼロにするのは無理ですが、一般の人が空き家を賃貸などで流通させたり、不動産業者が空き家活用に対しビジネスとして積極的に目を向けるようになれば、市場も活発になっていくかもしれません」
関さんは、不動産屋としての視点から空き家活用の展開を考えているが、加藤さんは、建築士としての視点で考えている。
加藤さん「たとえば、空き家をカフェにしたい場合、今は200平米までは用途変更の届け出を出さなくても良いのですが、建物自体が法律に則ったものかどうかを、建築士がしっかり見てあげないといけない。リノベーションで空き家を活用するためには、活用方法をどんどん提案していかなくちゃいけないんですけど、建築士が関わっている以上、その場所が安全に使えるようにしっかり整備していかなくちゃならないんですよね」
不動産を扱う中では、「空き家を貸す人」「空き家を借りる人」というそれぞれの顧客に対して、貸す側の整備を不動産会社の関さんが、借りる側のサポートを建築士の加藤さんが担っていく。
加藤さん「空き家を借りる人側の整備やサポートをしていきたいですね。法律面でのサポートだけでなく、色々な活用方法を提案していったり、資金が足りなかったらクラウドファンディングを使ったり、多様な方向性を打ち出していくことで、建築士の新しい使命が生まれてくると思います」
ここに来てくれた人と、まずは一緒に話したい
ゲストハウス「ラグナロック」を運営しながら空き家活用を実践している彼らが、これから仲間を増やすとしたら、「1を10にしてくれる」「営業やコミュニティ形成が上手い」といった能力のある人と連携していきたいそうだ。
加藤さん「俺ら、0から1を作るのが好きなんですよ。1から10にしていく前に、次のことをやりたくなっちゃうんですよね。だから、1を10にしてくれる人が欲しいです」
関さん「具体的にこういう人、というのはなかなか言えないのですが、たとえば営業ができたり、コミュニティを作れたり、人と人をつなげたり、PRができたり、といったスキルがある人ですかね」
まだまだ始まったばかりのラグナロック。加藤さんと関さんは、まずはこの場所に来てもらいたい、一緒に話をしたい、と語っていた。
関さん「ラグナロックに来て、飲んでくれる人募集ですね。未経験から不動産業を始めて、未経験でゲストハウスを始めて、DIY型賃貸借を始めて。それでもなんとか上手くいってたりするという話を、来てくれた人に聞いてもらいたいです。別に『自分すごいだろ』というわけではなくて、やってみると意外と何でもできるよ、ということを知ってもらいたいですね」