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佐川雄太さん

PEOPLE

NPO法人雇用人材協会 コーディネーター

佐川雄太さん

コロナ禍での県内就活のリアル 求職者に寄り添い、地域就職の「一歩進む後押し」を

新型コロナウイルス感染症による影響で、4月から6月までのGDPはマイナス27.8パーセントと戦後最大の落ち込みになるなど、依然、今後の見通しが立ちにくい状況が続く昨今。
厚生労働省の発表によると、コロナ関連での休廃業・解散などをきっかけとした解雇は2万人を超え(6月5日発表)、その影響は各業種にじわじわと広がりをみせている。
1月の国内での新型コロナウイルス感染者発生以降、全国各地で企業説明会の中止が相次いだ。さらに、企業説明会や面談がオンラインでの実施となるほか、テレワークの推進により、「働き方」が再び見つめ直されている。
今回は、大学卒業後、自身も進路に悩んだという経験を生かし、茨城県内で20〜30代の若年層を中心に就職支援を行う雇用人材協会の佐川雄太さんに、茨城県の就職事情について話を伺った。

ー 佐川さんのお仕事の内容について教えてください。

「雇用人材協会」で、20〜30代の若年層に特化して高校生や学生のキャリア支援、企業の採用・定着支援、就職支援を行っています。
高校生・大学生、企業、フリーターや無職の求職者の相談や就職活動のサポートが主な業務内容で、年間100〜130人くらいの方と関わっています。

ー100人以上とは多いですね。みなさん、相談の頻度などはどのような感じなのでしょうか?

多い人は1週間に1回ほどの頻度で相談にいらっしゃいますね。少ない人だと1年に数回程度。基本的に、本人のタイミングに合わせてじっくり相談に乗るスタイルなんです。対面での相談だけでなく、メールなどによる定期的な情報発信でゆるい関わりを大事にしています。

ーなるほど。その関係性は就職後も続いていくものなんでしょうか?

そうですね。もちろん、担当した方全員というわけではありませんが、仕事の帰りに施設に立ち寄ってくれる方、仕事の休憩中に電話をしてくれる方、メールのやりとりをする方などは少なからずいらっしゃいますね。そんな時に職場の話を聞いたり、情報交換をしたりする感じです。長い方は10年ほどやりとりが続いていますね。

ーまさに「ゆるい関わり」ですね。佐川さんは、この仕事を通して「こうしていきたい」という思いなどはあるんでしょうか?

「人をこうしたい」というより、「一歩進むための後押し」がしたい、という思いです。
みんな、何が正しいのかはわからないもの。悩んでいる人、一人ひとりに合わせてどう寄り添うのか、どんなスタンスで関わるか、ということを意識しています。

「一歩進むための後押しがしたい」と笑顔を見せる佐川さん

ー佐川さん自身の経歴と何かつながる部分はありますか?

今の仕事って、僕のキャリアとつながっているんです。
僕は、生まれも育ちも、仕事も生活も水戸。なぜずっと地元なのかというと、僕が中学3年生の頃、父の勤める会社が倒産したんですね。そのタイミングも、ちょうど家を新築したばかりだったので、僕は長男ということもあり、経済状況も気にして、高校は地元の県立に入学したんです。
高校進学までは親や先生のアドバイスがほとんどで、自分で「ここに行きたい」とか「こういうことを学びたい」という選択をしないで来ました。

高校に入ってからは部活に励んでいたのですが、顧問が「辛い練習でも、いかに楽しくやっていくか」というような練習・指導方法を取り入れていたので、次第にトレーナーに興味を持つようになりました。
スポーツする側から指導する側もいいなと思うようになって、スポーツを学べる国公立の大学を調べて見つけたのが、筑波大と鹿児島の大学の2校しかないという状況。九州だと、お金が掛かることもあり、選択から外れました。推薦で受けた筑波大学は落ちて、滑り止めと思って受験した大学も落ち、最後の選択肢でなんとか地元国立の茨城大学に進学できました。大学では教育学部生の1年次からの附属学校訪問や、体育教育学の履修を通して多くの学びがあり今では茨城大学に進んだことは良かったと思っています。

この経験もあって、自分で選択して、納得して、道を歩んでいくってすごく大事なんだ、と今の仕事を通して感じますし、この仕事も自分の人生と密接に関わっているんだと改めて感じているところです。

ーそうだったんですね。ちなみに今のお仕事との出合いはどのような形だったのですか?

実は、この仕事との出合いは偶然で・・・。
大学卒業後は学習塾に就職したんですが、半年で辞めてしまって、1カ月フリーターでした。その後、知り合いの選挙事務所の手伝いをしていた時に「仕事を探している」という話をしたら、たまたま「こんな仕事あるよ」と紹介されました。自分の進路に悩んだこととか、フリーターだった時期もあるので、「もしかしたら、この経験は生かせるかもしれないな」と思って2005年からこの仕事に就いて、気付いたらもう15年になりますね。

ー新型コロナウイルス感染症拡大以降、茨城県内の就職説明会の実施状況や求人状況はいかがでしょうか?

通常、就職活動は3月から本格的に始まりますが、今年の3月から6月の県内の国立大学やハローワークが主催する合同企業説明会といった対面イベントは全て中止となりました。9月からは対面型イベントも徐々に再開されてきていますが、対面型のイベントがないと、ナビサイトなどを利用していない中小企業にとっては、学生と直接接点が持てる機会がありません。

人材確保が難しくなるとの予想から、そんな状況を打破しなければと3月13日、オンラインでの「茨城WEB合説」を立ち上げました。サイトでは、企業説明会のウェブ配信、説明会やスタッフインタビュー、バーチャル職場見学などの映像コンテンツをアーカイブ配信している企業情報の集約・発信を行いました。
県内の傾向としては、公務員の応募数は増加。卸小売業は採用が強化され、飲食・サービス業は採用の見送りもありました。その様な状況から、8月末には水戸市とオンライン合同企業説明会を企画し、200名以上の学生から申込みをいただきました。今後、地元企業の採用活動のオンライン化を加速していけたらと思っています。

就活イベントの中止が相次ぐ中、立ち上げた「茨城WEB合説」

ー県内の内定取り消しや雇い止めといった状況はいかがでしょうか?

県内で見聞きした状況ではそれほど多い印象はありませんでした。ただ、まだ知らないところで、職を失った方はいるとは思います。次の仕事は安心して働ける会社であったり、正社員を希望する方が多いと思うので、企業情報の提供は重要になってきますね。

また、学生のインターンシップも中止や延期にした企業も少なくない印象です。中止にはしなくても、インターン受入日数を短縮したり、オンライン化するなどの対応をしている企業も多いですね。目立った内定取り消しは聞かないものの、学生の就職活動が長引いている状況ですね。

ーこの状況を受けて、学生から上がってくる声などはありますか?

まず前提として、学生側のオンラインでの活動への移行は早かった印象です。
4年生からは「茨城県内でエントリーできる企業はどこか?」、3年生からは「早めに対応したいが、いつから、何をやったらいいのか?」という相談がありました。
相談の中では、早くから入構制限のあった都内の学生は、キャリアセンターで相談ができないということもあり、就職活動がやりにくそうという印象ですね。

ーこのコロナ禍で見えたものはなんでしょうか?

ずばり、「企業の体質」ですね。奇しくも、世の中の変化スピードに各企業がどの程度準備・対応できているかが、コロナにより浮き彫りになりました。

ウェブサイト上の理念だけでなく、経営者の動きや舵取りが可視化されたと思います。これは、今後の就職活動の上で、キーポイントとなるはずです。

ーウェブサイトではココをチェックすべし!というような所はありますか?

もし、あるのであれば企業や経営者のSNSを見ること。そして、プレスリリースやウェブサイトの新着情報を確認することです。リリースを見れば、その企業の動きがわかります。もし、リリースを出していなくても、気になる企業があれば問い合わせをするのも良いですね。企業研究として、企業のサイトを見るようにしていくと比較もできて良いと思います。

「企業における世の中の変化スピードへの準備と対応が浮き彫りになった」と話す佐川さん

ーこれからの企業ではどんな人材が求められるのでしょうか?また、就職活動する際に企業を選ぶポイントはありますか?

変化対応できる人が企業では求められますね。厳しいようですが、時代の流れもあり、安定して一つの企業で長く働きたい、という人は選択肢が少なくなっていくでしょう。変化が激しくスピード感ある会社に付いていけないと苦しいかもしれませんね。誰かが答えを教えてくれるのを待っているのではなく、自分で問いを立てて答えをつくる、そういう姿勢を持っておきたいですね。

先ほど話した通り、企業の体質、経営者の舵取りや社員の動きは、変化の大きい時代を生き抜く企業選びをする上では大事になってきます。
また、現在、コロナに関わらず、欠勤数に応じて給与が減額される日給月給制の給与体系の企業が増えているので、注意が必要です。
企業を選ぶポイントとしては、企業説明に記載されている年間休日だけでは、繁忙期・閑散期、残業時間は確認できないので、繁忙期を確認したり、出勤時間・退勤時間にその会社を見に行ったりするのもおすすめです。また、給与の面で言えば、その会社の社員駐車場を見れば大体の年収のイメージがつくと思います。

面談や企業見学の際に、待合室やトイレのチェックも良いと思います。掃除が行き届いているかはもちろん大事ですが、例えば、トイレ掃除を業者に委託しているのか、社員がやっているのか、はたまた取締役もやっているのかもチェックのポイントですね。取締役もトイレ掃除をやっている企業は、社内の隔たりがない傾向があります。面白いことに、トイレの質が上がると客の質が上がる、なんて言われているんですよ。

ーそれは貴重な情報ですね。逆に、県内企業から上がってくる声などはいかがでしょうか?

やはり「応募が来ない」という声ですね。コロナによって求職者の質が下がっているという現状もあり、採用活動の段階でミスマッチが起きているのも事実です。

「やめない人の見分け方を教えてほしい」という声もありますね。困っている企業は、どうしても応募した人の中から選ぶしかない。そうなると、互いにミスマッチとなり離職、また採用活動・・・と負のスパイラルが続いてしまいます。

ー難しい問題ですね。一方で、学生はどのように情報収集をしていけばいいのでしょうか?

シンプルに「行動力」です。
小手先のテクニックより、どれだけその企業に興味を持てるかではないでしょうか。
コロナの感染状況などもありますが、情報収集もネットだけでなく積極的に会社に問合せをするというような姿勢は大事です。

大切なのは「自分自身に問い続け、納得する答えを見つけること」だという

ー茨城へUターンを考えている学生にアドバイスをいただけますか?

Uターン就活は、どうしても手元に情報が少なく、地元との往復だけでも費用の負担が大きいと思います。企業に足を運べないのであれば「オンラインでも対応してもらえないか」といった問い合わせをしてみると良いでしょう。これまでもこれからも変わらないのは、自ら「アプローチ」をするかどうか。判断するには情報が必要です。素直に「分からないから知りたい」と一次情報を積極的に取っていきましょう。

大手企業と中小企業で差はありますが、最近のウェブサイトでは、担当者のインタビューが掲載されていることも多いので、インタビューをチェックしてみると良いですね。

また、地域の中でUターンで活躍している人を調べて、挑戦していこう、成長していこうというマインドのコミュニティを見つけることも大切です。家族と会社以外に、自分の根っこになる部分を持つと、不安は少なくなります。
仕事以外でどんな時間を過ごしたいのか、どんな人と関わっていきたいのか、どんなフィールドを求めるのかを自分に問い続けることです。

ー茨城県内でのUターン就職の理由はどんなものが多いでしょうか?

家族と一緒にいたい、という地縁によるものが多いですね。
ですが、外部の影響を受けすぎないことが大切です。自分自身に問い続け、自分が納得する答えを見つけることです。
事例や質問・相談は、雇用人材協会のウェブサイト内の「しごとCH★365(しごとチャンネル)」や就職支援センター、都内のいばらき移住・就職相談センターといばらき暮らしサポートセンター、求人情報サイトで確認することができます。

「しごとCH★365(しごとチャンネル)」TOPページ

ーUターンを考えた時や困った時にどんな人に相談すれば良いでしょうか?

キャリアカウンセラーや大学のキャリアセンターがあります。
県内の大学のキャリアセンターでも、県外在住者でも対応していただける場合があります。居住エリアに近い大学に問い合わせてみてください。
もちろん僕のいる雇用人材協会でも相談を受け付けています。SNSのメッセージも開放していますし、質問箱などでもOKです。使いやすいツールで相談してほしいです。

 

さまざまな変化の中、「一歩進むための後押し」のために、相談者一人ひとりに寄り添う佐川さん。とにかく「行動」と話す佐川さんの言葉には、自分自身の経験という説得力があった。
新型コロナウイルス感染症の影響で、あらゆる世界が一変。
戦後の終身雇用から、転職が当たり前の時代に移り変わり、複数の拠点を持ち複数の仕事をすることは珍しくなくなっている今。
新たな働き方、生き方を茨城で探すチャンスではないだろうか。

PROFILE

THINGS

1982年生まれ。茨城県水戸市出身。茨城大学教育学部卒。
大学卒業後、半年間の塾講師を経て、NPO法人雇用人材協会でコーディネーターとして、就職イベントの企画・運営を通して1,300名を超える学生・若者の就職に関わる。
「自己決定と納得感のキャリア選択」をモットーに、本人が一歩踏み出すための伴走支援を大切にしている。

INTERVIEWER

高木真矢子

合同会社JOYNS代表/合同会社HakkoLab共同代表/水戸経済新聞編集長 常陸太田市出身、水戸市在住。ライター兼編集者として、新聞やウェブ媒体をはじめ、自治体、企業の広報誌、各種広告まで各種コンテンツ制作を手掛ける。「あのね」と言いたくなる地域情報やSNSを活用したリサーチを得意とする。俳優・モデルのキャスティングやマネジメント、ウェブメディア運営、SNS運用なども行う。中1と小4の二児の母。

Photo:鈴木潤(日立市出身)(一部提供写真を除く)