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茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
鵜沢ガラス工房
塩谷直美さん
自分たちの空気とぴったり合う場所を探して、夫婦ふたりで旧里美村へ移住した「鵜沢ガラス工房」
今の暮らしを少し変えて、違った環境で生活してみたい。
けれど、どこに行けばいいのかわからない。
そんな風に考えたことのある人は多いのではないでしょうか。
「移住」という言葉に慣れ、さまざまな地方やまちの情報で溢れかえっている今、本当に自分が心地よいと感じられる場所にめぐり会うことは、難しいように感じる方も少なくないでしょう。
今回は、20年前に茨城県常陸太田市里美地区(旧里美村)へ夫婦で移住し、「鵜沢ガラス工房」で作品制作を行っている、ガラス作家の塩谷直美さんにお話を伺いました。
特に、都市部から離れた場所で暮らしたことのない人、田舎で長く過ごしたことのない人にとっては、新鮮に思えるようなエピソードが満載です。
住むのは、世界中のどこでもよかった
東京で育った塩谷さんは、多摩美術大学立体デザイン科に入学し、ガラスの制作を始めました。
18歳で大学に入った時に「ガラスやろうかな」って思って以来は、他のことをやったことがないくらい。一旦やり始めると、横道に逸れないんですよ。
ガラスに情熱を注ぎ続けていた塩谷さんは、大学院修了後に工房を設立し、滋賀に移り住んだ後、1993年から95年には、フランスにある国際ガラス造形センターCIRVAで、コールドキャスト技法によるオブジェの制作を始めました。
日本への帰国が迫っていたころ、塩谷さんは、旦那さんの鵜沢文明さん(ガラス作家)と一緒に、「工房を構えるなら、これからどこに住もうか?」ということを考え始めます。
私たちは、知らない土地で暮らすことにあんまり抵抗がなかったから、はっきり言って、世界中どこでもいいっていう気持ちでいたの。
そのままフランスに残るという選択肢も、仕事をさせていただいていたアメリカっていう選択肢もあったから。
夫婦で話し合ったり、思いを巡らせたりするうちに、だんだんと条件が絞られていき、二人は関東地方で土地探しを始めました。
車を走らせて、行ったことのない地域へ。
友人を訪ねたり、地元で長く続けていそうな飲食店で話を聞いたり。
限られた時間の中でも、気になった場所には自分たちで直接足を運ぶことを惜しみませんでした。
時には、夫婦で意見が一致せず、すれ違うことも……。
そんな中で、茨城への移住を考えるきっかけとなったのは、ふとした瞬間の優しさを感じることができたからでした。
茨城県内でガソリンを入れた時に道を尋ねたら、すっごく丁寧に若い子が道を教えてくれて、「あぁ、茨城の人良い人だわ~」って思って、そこから、茨城に絞って探し始めたの。
で、私の友達が、1991年に「クリストのアンブレラ・プロジェクト」を見に来ていて「里美村、見に行ったらすごくいいとこだったよ」って言ってたので、「じゃあ、そこに行ってみようか?」って。
早速、塩谷さんたちは、土地の事情を聞くために里美村役場を訪ねました。
なかなかいい土地が見つからなかったのですが、最終的には、親切な役場の方がお父さんの畑をつぶして土地を貸してくれることになり、1996年の春、お二人は里美村に移住しました。
ご近所さんとの「ほどよい距離感」
塩谷さんは、「自分たちがちゃんとものづくりができる場所にしたい」と思って里美での生活をスタートしましたが、田舎に突然よそ者が住み始めて、元から住んでいた人たちとの衝突はなかったのでしょうか?
まず最初に、役場の方が「関わりはどういう風に持ったらいいのかな?」って聞いてくれたので、「私達はほっといてくれるのがいい、静かに仕事をできるところが欲しいだけなんだ」って説明をしたの。
だから、みんなにも「あの人たちは別にここで観光やりたいわけじゃなくて、作品を作りたいだけだから、そういう風に受け入れてあげよう」って最初にちゃんと話してくださったんです。
これまでにいくつもの地域を訪れた経験のある塩谷さんですが、その中でも特に里美は、よそから来た人に対してオープンで、明るく迎え入れてくれるアットホームな雰囲気がある、とのこと。
まさにそのことを体現したかのような、里美での暮らしのエピソードを教えてくださりました。
私達が引っ越してきたばかりの時、近くを歩いてたら、知らないおじさんに突然「あんた誰っ!?」って聞かれたの。「あそこの家に引っ越してきたんですけど……」って言ったら、「あぁ~そうかぁ~!よく来たねぇ~、大根をやろう~!」って、散歩に行っただけなのに、全然知らないおじさんから大根をもらっちゃった(笑)。もちろん、後からすぐ知り合いになったんだけどね。
それから、ある日は、近所のおばあさんに、「タケノコとか、あんたのとこは食べんのー?」って聞かれて、「いや、好きだけどうち竹生えてないし……」って答えたら、何時間か後に、突然「ドンドンドン!!」ってドアを叩いて「タケノコ食うんかぁ!!!!」って、抱えきれないくらいに掘ったタケノコを持ってきてくれた知らないおじいさんが現れたりとか(笑)。