ここに在る、仕事 / プロローグ
人の営みのなかでも、特に仕事というものは、その時代や社会と直接的、具体的に関係している。つまりは、ある仕事について知ることは、その仕事を取り巻くさまざまを知ることと言えるだろう。しかし、ここで注意しなくてはならないのは、なるべくそれを具体的に知ろうとすることだ。一本の木に例えてみれば、ただなんとなく見るだけでは、どれもこれも同じ木のように見えてしまう。しかし、葉や枝や幹の特徴を具体的に見れば、どれ一つとして同じ木はない。そうすることで初めて、その場の環境や木が担っているものが分かってくる。そうした事を念頭に置きながら、茨城県北の各地域に在る仕事、仕事の担い手の方に話を聞き、書き記すことをしてみたいと思う。また、一本の木の葉や枝や幹を具体的に見ようとするからこそ、土の下に隠れている根を想像することができる。それが、木の全体なのだ。全体を感得するセンスこそが、今、地域に関わるクリエイターに問われていることではないだろうか。
町面積の約八割が森林という大子町にある木材会社、吉成木材。その仕事について、吉成社長にお話を聞いている。前編では、会社のこれまで、いま、これからを。後編では、山の現場についてと、それにまつわるお話を聞く。
山の現場
軽トラの助手席に乗せてもらい、山道を行く。大子町には取材等で度々訪れてはいるが、こうして山の中、森の中に入っていくのは初めてのことだった。木の香りがだんだんと、寒い空気の中に強く香ってくる。ちなみに大子町から採れる杉の木のほとんどが、八溝杉(やみぞすぎ)という。木が素直で加工しやすいのが特徴だそうだ。よくよく考えてみれば、吉成木材の木材は全て国産材で、しかも地元大子産の良質な八溝杉ばかり。輸入材ばかりが並ぶホームセンターなどでは、決して見ることのできない木材だ。
「だいたい現場の九割が民有林、たまに県有林。ちょうど町有林の入札が今度あるんだよね。でも、町有林や県有林は高いんだよ。例えば大きい製材所なんかは、木材市場から買っただけでは追いつかない。市場からも買いながら、入札して落とした山からも搬出する。だから、大丈夫かな?という単価でも入札をしてるね。そうするしかないんだろうね。場所が良くて、木が良くて、良いものが出るならある程度高く買えるけど、県の方で調査して、どのくらい木がでますよって算出されるんだけど、そのだいたい七掛けくらいが実際のところなんだよね。それを計算して買わないとだから、なかなかね」
「山の仕事してる人は、請負でやってもらっていて、作業賃も現場によって違うんだよね。だいたい平均して、一人あたまで月々四十万円から五十万円くらいにはなってると思うよ、経費を抜いてね。現場は、その人たちが通える範囲ってのも大事だから、基本的には大子町内。三人でチームをつくっているんだけど、一人は切る人、それを引っ張る人、それと搬出する人。切る人は、確か、七十七歳になるんじゃないかな。人間プロセッサーって呼んでるんだよ(笑)。半端じゃないんだから。機械と同じくらい木を切るから」