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茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI
高萩ユーフィールド
南海絢史さん、古矢千幸さん
舞台は廃校。女性も子どもも楽しめるドローンとキャンプのレジャースポット
茨城県北地域は、県内でもとくに自然豊かで里山の風景も魅力的。都内から足を運ぶには少し距離があるが、きっかけさえあれば、道中のドライブを含めて楽しめる。そんな県北地域の高萩市に2018年にオープンしたのが「高萩ユーフィールド」。ここでは、山と自然と廃校を活かしたロケーションで、ドローン、キャンプ、イベントなどを体験できる。この中に少しでも気になるキーワードがあれば、足を伸ばしてみてはいかがだろうか。
ドローンとキャンプをキーワードに、高萩に出会うきっかけをつくる
茨城県北の緑豊かな山間部に位置する高萩ユーフィールド。ここは、高萩市立君田小・中学校の廃校と、約20,000平方メートルもの広大な校庭をまるごと活用した、ドローンスクールとキャンプ場を軸とした施設。
広い敷地を活かしたドローンスクールでは、専門講師の指導の元、操作技術・専門知識をしっかりと学べる。終了後は、ここで発行される修了証を添付してJUIDAに別途申請することで、JUIDA無人航空機操縦技能証明証、JUIDA無人航空機安全運航管理者証明証の交付を受けられる。
これらの証明証は、国土交通省へのドローン飛行申請の際に、知識と技能の証明として利用可能だ。業務レベルの知識と技術を学べるため、仕事でドローンを使う方はもちろん、趣味で楽しみたい方も受講しに訪れるそうだ。
※JUIDA:日本の無人航空機を含む次世代移動 システム産業の振興を目的として活動する団体。ドローンにまつわる人材育成、資格認定、試験飛行場運営のほか、市場の創造や安全規格策定などにも取り組んでいる。
校庭に設けられたキャンプ場では、悠々と使える広いオートキャンプサイト・テントサイトでキャンプを楽しめる。電源使用可能のスペースも設けられ、温水シャワーブースの設置やトイレの改装により、女性も安心して利用できる。さらに、キャンプシーンの空撮サービスや、ドローン操作体験もあるとのこと。年間を通して、県内外から多くの人たちがこの地にキャンプを楽しみに来るという。
高萩ユーフィールドという名前は、施設がある地域名「下君田」を英語に変えてつけられた(君=you、田=field)。施設が掲げるキャッチフレーズ「主役はキミだ!」にも、さり気なく「君田」が表現されている。
ドローンやキャンプといった近年話題に登るキーワードを軸に据えた施設だが、ネーミングから想像できるように、運営の背景には、この地域を盛り上げたいという想いが込められている。
そんな施設について話してくれたのは、スタッフの古矢千幸(ふるや・ちゆき)さん。普段はWebサイトやSNSを通じた情報発信やイベント企画、キャンプ場の対応を中心に仕事をしている。キャンプ場で利用者と顔を合わせる機会が多い古矢さんはこう語る。
古矢さん「茨城県内に数あるキャンプ場の中でも、廃校をまるごと活用して、本格的なドローン講習も受けられるのは高萩ユーフィールドだけかもしれませんね。山と自然のロケーションはもちろん、学校でキャンプができるのは、大人にとっては懐かしく、子どもたちにとっては新鮮な体験。普通のキャンプ以上の、非日常でワクワクする体験を味わっていただいております」
「ドローンを通じた地域貢献」からスタート
2018年にオープンした高萩ユーフィールドは、地域貢献も意識したドローンの飛行試験施設として始まった。その経緯を説明してくれたのは、施設長の南海絢史(なんかい・じゅんじ)さん。南海さんは、高萩ユーフィールドの施設を管理しながら、ドローン講習の講師を務める。
南海さん「高萩市立君田小・中学校の廃校をうけて、高萩市と茨城大学と協同で廃校を活用した地域活性化プロジェクトが立ち上がりました。その背景には、近年需要が高まるドローン活用人材の育成が求められたことや、廃校を活用して地域振興のきっかけを作りたいという想いもありました」
「山間部の廃校」は、ドローン講習・飛行に適しているそう。教室は座学会場に、体育館は屋内飛行場に、グラウンドは屋外飛行場として活用可能。さらにフィールド自体が広いので、近隣への迷惑がかかりづらい。
また、地域にとってドローンが身近なツールになれば、住民の暮らしがより安定することにもつながるという。その背景にあるのは、高萩ユーフィールドの運営母体である、日立市の企業「イガラシ綜業株式会社(以下、イガラシ綜業)」の地域への想いだ。
南海さん「イガラシ綜業では、高萩市や県北エリアを中心に、電線の敷設や太陽光パネルの設置など、暮らしに欠かせないインフラを手掛けています。現地調査や設備点検は事業の中で絶対に必要で、それらを確実に行うからこそ、地域の皆様の安心安全な生活が成り立つ。当たり前の生活を守るため、イガラシ綜業でもドローンを導入し、業務の効率化を図っています」
そして、地域企業としてドローンを使う以上、「地域の皆様にドローンに対する不安を抱かせない」という責務もある。
南海さん「得体の知れないものは誰だって怖いですよね。でも、『高萩でドローンの試験や訓練を行っている』と分かれば、身近な道具として感じられるはず。今では施設内外で子どもたちに向けてドローンの体験会も実施していて、気軽に楽しめる機会を増やしています。操縦者の技術向上はもちろん必要ですが、地域の皆様には、高萩ユーフィールドをきっかけにぜひドローンに親しんでいただきたいです」
よりドローンに親しむ機会を提供するため、2019年には「ドローンサッカーオープントーナメント大会2019」を開催。日本初開催となるドローンサッカーのオープントーナメント大会で、高校生や大学生、家族、職場の仲間で参加した全16チームによる熱い戦いが行われた。
そして2020年には、高萩ユーフィールドが運営するドローンサッカーチーム「YOUFIELD SKY FC」を創設。絶賛メンバー募集中で、ドローンに触れたことがない方でも興味があれば参加可能だそうだ。
スタッフと地域でつくる、高萩に人が集まるきっかけ
キャンプ場運営は2019年からスタート。キャンプはもちろん、施設を活用したマルシェやワークショップなどをきっかけに、県内外から多くの来場者が足を運ぶ。
通年オープンしているキャンプ場の利用者は、ソロキャンプ、家族、カップルなど幅広い。ベテランからライト層までキャンプ歴を問わず楽しめるとのこと。ロケーションの魅力はもちろん、自然が溢れすぎず、設備が贅沢すぎない「ちょうど良さ」も好評なのだそう。
古矢さん「年中を通して楽しめますが、とくにキャンプ初心者の方にオススメなのが、紅葉の季節。涼しく虫も少ないので、快適にお過ごしいただけます。ベテランキャンパーの方は、星空をお目当てに冬期にご利用されるかたもいらっしゃいます。高萩の山間部は夜とても暗くなるので、空気の澄んだ冬場は星空が本当にきれいなんです。ぜひ、指先を温める焚き火といっしょに楽しんでいただきたいですね」
廃校の設備を活用したイベントやワークショップも催される。校舎を探検する「きもだめし」、科学体験教室「ソーラーライトづくり」、夜間の昆虫観察「カブトムシナイトツアー」、ハンドメイド体験「てづくりスノードーム」などさまざま。バリエーション豊富なイベントからは、何度来ても楽しんでいただきたい、というスタッフの熱意が伺える。
持ち込み企画のイベント会場としての活用もあるのだそう。過去に開催された、クラフト作家のマルシェイベントでは、校舎をまるごと会場にした。作家や飲食店が数多く出店し、来場者は高萩市内外から1日で約1,000名が訪れたそうだ。
古矢さん「校舎が会場なので、まるで本物の文化祭のような雰囲気でした。コロナ禍で学校の文化祭が中止になっていた状況もあり、子どもたちにも喜んでもらえたと思います」
地域との輪は、顔を合わせたコミュニケーションから始まる
たくさんの利用者が気持ちよく使える施設を語る上で、施設の維持管理を支える地域住民たちの存在も欠かせない。
広大な敷地の草取りや木の剪定、清掃作業は、パートタイムで作業をする60、70代の地域住民たちが大きく貢献。それぞれが職人意識を持ち、丁寧な仕事をしているのだそうだ。
地域との協業は、一緒に下君田を盛り上げたいという想いに基づいている。「あまり会話が上手いほうじゃないんですよね」と言いながらも、南海さんは地域とのコミュニケーションに積極的だ。
南海さん「地域貢献の気持ちがあるとはいえ、私たちは下君田にお邪魔している立場。だからこそ、街の皆様と顔を合わせた関係性を大切にしています。声をかけてもらえるのを待つのではなく、こちらから積極的に顔をだして、互いに声を掛け合える間柄になっていく。少しずつ人の輪を広げていきたいですね」
利用者との距離感を大切にしながら、新たな展開へ
廃校になった後も、ドローン、キャンプ、イベントなどさまざまなきっかけが、高萩の山に人の流れを生み出している。はるばる足を運んでくれる人がいるからこそ、利用者への声掛けや距離感づくりが大切と古矢さんは語る。
古矢さん「『ありがとうございました』の一言や、『虫に刺されたら事務所に相談に来てくださいね』の声掛けだけでも、お客様の『来てよかったな』の気持ちに大きく影響すると思います。施設がきれいでサービスがきちんとしているのは当たり前。そのうえで、お客様とコミュニケーションを取りながら、みなさまの楽しい時間をつくるお手伝いをしていきたいですね」
施設内の巡回中にバーベキューのおすそ分けをいただいたり、利用者からキャンプ写真のシェアをいただいたりすることもあるのだそう。そんなエピソードからも、ほどよい距離感から生まれる雰囲気を大切にしている様子が伺える。
そして古矢さんは、もっと高萩ユーフィールドを知ってもらいたいと意気込む。
古矢さん「やはり情報発信には力を入れたいですね。高萩ユーフィールドを気に入ってくれた方が家族や友達におすすめして、そこで勧められた方が初めて情報に出会うのはWebサイトやSNS。施設の整備やイベント企画をしっかり行ってきたからこそ、Webサイトを観た方が『行ってみたいな』と思い、実際に足を運んでくださるような体制を整えていきたいです」
ドローンを飛ばせる広大なフィールドを活かし、スクールに留まらないさらなる展開も進めているのだそう。
南海さん「『広さ』そのものが、安心安全な飛行試験場としての強み。ドローンの試験飛行場としての活用も、もっと進めていきたいです。その展開を加速させる取り組みの一つとして、高萩ユーフィールドを物流ドローンの拠点にする計画が立ち上がりました。現在、バッテリーメーカー、通信会社、ドローン関連機器会社とともに進行中です」
下君田は、幹線道路から離れた山間の地域。だからこそ物流ドローンの活用は、地域の利便性向上に大きく貢献するはずだ。南海さん自身も、「ドローンを通じた社会貢献の一端を担っている気概でがんばりたい」と高い志を抱いている。
廃校から生まれた高萩ユーフィールドは、地域の交流拠点としても役割を果たしているはずだ。スタッフの熱意と地域住民の協力のもと、これからもっと新たな展開が生まれていくに違いない。ドローン、キャンプ、イベントなど、スタッフたちは高萩に足を運ぶきっかけを用意してくれている。そこに気になるキーワードがあったら、高萩ユーフィールドを目指して足を運んでみてほしい。