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咲くカフェ

SPOTS

茨城県北・大子町のリノベーションカフェ&ゲストハウス

咲くカフェ

Uターンクリエイターが生み出した、日常と非日常が重なる場所

茨城県の北部に位置する大子町は、八溝山や袋田の滝、リンゴ農園など、豊かな自然を生かした観光地が特徴。年間約110万人もの観光客が訪れているという。

一方で、JR常陸大子駅前の商店街では、空き家問題や後継者不足問題などもあり、以前と比べると少し寂しい雰囲気が漂うことも。観光客も袋田の滝周辺には訪れるが、商店街まで足を延ばさないケースも少なくないそうだ。

そのような中、商店街に面した小高い丘の中腹に、県外からも訪れるほど魅力的なカフェ&ゲストハウスがある。

その名は、「咲くカフェ」。

自家栽培の野菜や地元の食材を使った食事やスイーツを楽しんだり、宿泊することもできる。

この「咲くカフェ」のオーナーは、LEMS(レムズ)という名で活動する、櫻山啓三郎(さくらやま・けいざぶろう)さん。

大子町出身だが、小学生からは都内で過ごし、大人になってからもそのまま都内で働いていたが、2011年にUターン。地域の活動に関わりながら期間限定の古民家カフェを運営。その後、築40年の実家を改装し「咲くカフェ」をオープンさせた。

「咲くカフェ」スタッフの皆さん。中央が櫻山さん。


「咲くカフェ」の設計や内装、家具作りなどは、可能な限り櫻山さんが手掛けている。また、料理も、櫻山さんが作っている。さらにカフェの運営以外にも、地元の地域活性プロジェクトの企画や、Webサイト運営、フライヤーなどのデザイン、音楽活動やローカルラジオ局「FMだいご」のパーソナリティも務める。

地元の様々な仕事や活動を通して大子町に関わっている、櫻山さんに、「咲くカフェ」をオープンされた経緯、この場所にかける思い、そして、ここから始まる次の展開についてお話を伺った。

大子町出身、東京育ち

「咲くカフェ」の建物は、元は櫻山さんが生まれ育った家。小学生から、医学部受験に備えるため都内に引っ越したが、中学、高校と過ごしていくうちに、医学部への道は自分の肌に合わないことに気づいたという。高校時代にはDJ活動をしていたこともあり、卒業後は音楽の専門学校に進学。その後は都内でDJやクリエイター活動をしながら過ごしていった。

大子町に戻ってきたのは2011年。東京での生活に変化が起きたタイミングでもあり、今後の子どもの生活や暮らし、そして自分の仕事や活動を考えた結果のUターンだった。

地元に戻ったら、東京にいたころよりもやることが増えた

「咲くカフェ」のカフェスペース。それぞれの机の高さを変えることで、お客様が自分の時間を過ごせるようにしている。


大子町に戻ったばかりの頃は、まだ「大子町でカフェをやろう」という構想は無く、しばらくは東京での活動も継続していたそうだ。その一方で、地域の人たちとの交流を積極的に図っていった。

例えば、商工会青年部や、町内のお祭りを企画する「若連」、常陸大子駅前のシェアスペース「daigo front」を運営するNPO法人まちの研究室などへの参画。

「地元に帰ってきたとはいえ、何もしないでいるとヨソモノですからね」と語る櫻山さん

は、クラブイベントなどを主催していた時代に培ったスキルや経験、独学で覚えたデザインツールを用いて、チラシやロゴ作りなどの仕事を引き受け、大子町の中に実績を残しながら信頼を築いていった。

部屋に配置された囲炉裏は、掘りごたつを改造したもの。


デザインの仕事を請け負った際には、櫻山さんがクリエイター時代に培ったセンスとノウハウを活かしてクオリティが高いものを作るように心掛けた。

「大子町に戻ってきてやりがいを感じたのが、僕のセンスがすごく求められたこと。商店街の皆さんが僕の作ったものを評価してくださって、どんどん声をかけてもらえるようになりました」

メニューは、自家栽培の野菜やハーブも含め、常時20~30品目の地元産の食材を使用している。


さらに、「咲くカフェ」の構想以前から、カフェ情報サイト「大子カフェネット」を開設し、大子町内にある各カフェのメニューや、店内の雰囲気、営業に関する情報などを発信することで「カフェ同士の横つながり」を作った。

精力的に街づくりに関わる櫻山さんだが、Uターンすることに不安は無かったのだろうか?

「不安は無かったですね。東京で暮らしていた時は、仕事に行って、帰ってきたら子どもの世話をして、そんな毎日を繰り返していました。だけど、Uターンをしてからは『街中をもっとこうしたほうがいいんじゃないか?』とか、『こういう風にしたらいいんじゃないか?』ということを考えたり実際に取り組んだみたり。東京にいた時よりもやることが増えて忙しくなりましたが、やりたいことがどんどん出てきて楽しいですよ。」

大子町に、付加価値のある場所や空間を作りたい

築150年の古民家「宮田邸」の外観


地元に戻り暮らしていく中で、大子町の中にある場所や空間への「付加価値」についても思うところがあったそうだ。

「Uターンをして、しばらく暮らしてみて思ったのが、大子町の中ではカフェ的な文化が足りないということ。例えば、カフェというのは、商品そのものを売るということだけではなく、空間や、そこで過ごす時間に価値を付加することだと思います。そういった感覚が街の中には少ないように思えていました。商店街の中では、商品を置いておけば客さんが来て買っていく、みたいな昔のやりかたが続いているように見えて。それが絶対悪いというわけではないですが、見せ方、売り方、伝え方、場所や商品に付加価値をつけて高めていく、という文化を広めたいなと思いました」

そんな中、2012年に築150年の古民家「宮田邸」を利用して、期間限定のカフェ「宮田邸  咲くカフェ」の企画運営を開始。宮田邸は、大子町の頃藤という地域にある、櫻山さんの 父親の生家だ。

古民家の特長を活かした空間と、表参道の「DA FIORE」から招いた眞中秀幸シェフの料理を楽しめる、2週間限定イタリアンレストランを開催。それをきっかけに翌年から年に3回、約2か月間の期間限定で営業を行った。

付加価値のある時間や空間、料理を楽しめる「宮田邸 咲くカフェ」には、営業期間の中で約2,000名のファンがついた


「最初の宮田邸 咲くカフェを実際にやってみて、料理や空間づくり、そして情報の発信など、きちんとやることをやれば、この町でも地元や遠方からお客さんが来てくれると確信しました。宮田邸には、地元や遠方からお客さんが来てくれたし、普段は大子町で見かけないようなおしゃれな女性や若い人、SNSで発信してくれる若い女の子も、たくさん足を運んでくれましたね」

新たに生まれた、大子への旅の目的地

咲くカフェの窓からは、季節ごとの大子町の自然を楽しめる


デザイン、空間づくり、料理、場所の付加価値などを意識しながら、約4年の間、期間限定 で企画運営されていった「宮田邸 咲くカフェ」。櫻山さんは、宮田邸でのカフェ運営や、大子町での活動を通し、「一時的なイベントではなく、地域の人や文化を見直して、それをいかに表現するかが大切」と感じていったそうだ。

そして、「宮田邸 咲くカフェ」に次ぎ2017年の夏にオープンさせたのが、カフェ&ゲストハウス「咲くカフェ」だ。「地元が利用する「日常」と、来訪者をもてなす「非日常」の時空間の重なり」をテーマに、築40年の実家を改修した。

大子町の良い人や良い文化を通年で伝えていきたいと、櫻山さん自身が店舗のデザインや設計を担当。建物の工事も、必要最低限は専門業者の力を借りたが、可能な限りDIYで作成。テーブルや棚といった什器のほか、一見では普通のランプシェードも、調合した色のペンキでオリジナルカラーに仕立て上げられている。

ゲストハウスの部屋の一つ、Brown Room


咲くカフェにゲストルームを併設させる構想は、過去に実家を民泊施設として活用していたことから始まっている。「咲くカフェ」に改装する以前から民泊サイト「Airbnb」に登録し、県内外、さらには国外から泊まりにやってくるお客様と交流を図っていたのだ。

「お客様に、ここに泊まりに来た理由を聞くと、大体の方が、『ハイキングをできそうな場所を探していたら、たまたま見つけた』という感じ。そもそも大子町のことも、袋田の滝さえも知らなかったんですね。旅の目的地が大子の有名な観光地ではなく、この場所になっている、という感じでしたね」

ゲストハウスのもう一つの部屋White Room。二部屋それぞれが違った雰囲気の空間に作られている。


2017年夏に、咲くカフェが完成。完成前から戦略的に広報していくことを考えていたらし く、プレオープン時には「宮田邸 咲くカフェ」で繋がったお客様を招待し、オープニングレセプションでは、地元の人々はもちろん、メディア関係者も招待。タイミングを見計らって「新しいカフェがオープンする」という口コミを広めたり、事前に作りこんでおいたWebサイト、フライヤー、折込チラシの効果も手伝って、「咲くカフェ」の存在は一気に知れ渡っていった。

ちなみに「咲く」という言葉には、とてもポジティブに変化をするイメージを持っていて、「町もどんどんアップグレードしていきましょう」という思いが込められているそうだ。

オープンして約2年が経った現在、大子町に住む人、カフェ好きな人たちはもちろん、これまで大子町と接点の無かった人や、山間の観光地しか知らなかった人などが集い交わる場所となっている。また、櫻山さんは咲くカフェを拠点に「大子デザイン改革」「温もり灯りプロジェクト」「大子デパート プロジェクト」など地域と関わる活動やSNSを通して、大子町の情報発信やイメージアップ活動も継続している。

咲くカフェ2Fは、櫻山さんのクリエイティブ活動の拠点にもなっている


また、人と人、人と地域を繋げる役割も果たしていく「咲くカフェ」はいばらきデザインセレクション2018(主催:茨城県、(株)ひたちなかテクノセンター)に知事選定賞(最高賞)を受賞している。「民家、食材、人など地元にあるものを活用してつくりあげた、食・宿泊・交流の場に多くの人を招き入れ、ネットワークを生み出して情報発信する巧みな地域創生のしくみ」が評価されたのだ。

櫻山さんが大切にしていることは「やり切ること」だという。

「やっぱりやり切ることが大切だと思っています。こだわりというか、完成度というか、仕上がりが足りていないと、『カフェ風なことをやっています』という感じになってしまう。例えば、「楽だから」とか「安いから」など様々な理由で、妥協というか、こだわり切れなくなりがちな部分まで、しっかりとやり切ることですね。お客さんが”触れる”部分の仕上がりには全て気を遣う。物・景色・サービス・音など、結局話は戻り、それが「カフェ文化」の大切な部分です。咲くカフェも、そうやっていくことで、お客さんを集められるレベルの高いカフェに、茨城を代表できるカフェになっていけたらいいですよね」

ポジティブな人に参加してきてほしい

夜間はイルミネーション点灯なども行う。写真は、夏季に行ったときの様子


「咲くカフェ」をオープンしてから約2年。カフェの運営だけでなく、デザインの仕事をしたり、情報を発信したり、大子町を活気づけていく企画も行っている櫻山さんは、大子町でこれからどんな活動を進めていこうとしているのだろうか。

「大子町の商店街を、もっと復活させていくというか、リノベーションしていきたいなと思っています。最近は、商店街にも色々なお店ができつつあるので、もう1・2軒、雑貨屋さんやパン屋さんが増えたりすると、もっと大子町に賑わいが生まれていきそうな感じはしますね」

そして実は、次なる展開も計画中とのこと。

「商店街の中に、「咲くカフェ」2号店として、”とある”メニューの専門店を作りたいと考えています。またそれとは別に、『咲くカフェ タウン』の様な構想も持っています。今ある咲くカフェの周辺の空き家などをリノベーションして、そこに入ってお店をやってみたい人を募る。咲くカフェのお客さんも、気になってフラッと足を運んでくれると思います。咲くカフェとしても、そのお店にしても、お互い双方の集客力で、みんなにとって嬉しい結果につながるし、お店の連携の様子を見せることで『地方に出店する』ハードルが一気に低くなると思うんです。1軒オープンすれば、また次の1軒にもつながる思います。ただ、とにかく今のところは、僕が咲くカフェから抜けられないので、人材が必要ですね」

この場所から生まれる新たな繋がりやきっかけが、これからの大子町の人、街、文化を魅力的にしていくか楽しみだ。

最後に、今後一緒に活動していきたい人物像を伺った。

「大子町で一緒に活動していくなら、とりあえずポジティブな方がいいですね。僕もいろいろと活動をしてきて、最初の頃は、地方ならではの『出る杭は打たれる』みたいな雰囲気を感じましたが、そんなことは気にしない前向きな気持ちの人が参加してきてくれたらいいなと思います。「咲くカフェ」をはじめとした僕の活動だったり、大子カフェネットなどの繋がりから、活動に参加してみたい人、この街でお店をオープンしたい人など、新たに参加してくれる人たちが繋がっていければいいなと思ってます。」

PROFILE
2017年7月にオープンした大子町のカフェ&ゲストハウス。オーナーの櫻山啓三郎さんが、自身の生家をリノベーションしてオープンさせた。

飲食や宿泊事業だけにとらわれず「DJ & Live、ビュッフェパーティー」、「咲くナイト ”奥久慈だいごまつり アフターライブパーティー”」、KENPOKUyogaとのコラボレーション「YOGA RETREAT」など、店舗を使ったイベントを企画し、大子町内外の人たちの交流の場を作りだしている。また、常陸大子駅前の老舗パン屋「サンローラン」とのコラボレーション、「だいごお酒のイロハ」「百段階段キャンドルナイト」など、地域と絡んだ企画にも参加している。

茨城県の優れたデザインを表彰する「いばらきデザインセレクション 2018」では、知事選定(最高賞)を受賞。

咲くカフェ http://saku.cafe/