トップページ 茨城のヒト・コト・バ 茨城のコト Hitachi frogs 茨城のヒト・コト・バ PEOPLE, THINGS, SPOTS OF IBARAKI すべての記事 茨城のヒト 茨城のコト 茨城のバ THINGS 若手人財育成プログラム Hitachi frogs 「やるかやらないか、人生はシンプルにその2つ。」 短くも、胸にずしんと響く言葉。Hitachi frogs(以下、常陸フロッグス)のウェブサイトを開くと最初に飛び込んでくる一文だ。 常陸フロッグス公式サイトTOPページ 常陸フロッグスは、2019年、茨城県内の有志が「琉球フロッグス」とのライセンス契約や協力のもとに運営を始めた人財育成プログラム。 シリコンバレー派遣を中心とした研修を通し、世界と茨城をつなぐ若手人財の発掘・育成を行う。社会課題と向き合いながら、「◯◯×テクノロジー」をテーマに学生視点でビジネスを創造し、「次世代リーダー」としての成長を目指す。 「何事も最初は『挑戦したい』という衝動から始まる」 そう話すのは、常陸フロッグスを運営し、メンターも務める菅原広豊さん。 「(常陸フロッグスには)今までとは違う世界への接続のほか、変化に対応しながら自己成長する過程で、たくさんの仲間と出会い、成長できる環境があります。挑戦することによる自己変革や世界との接続といったプログラムの魅力や価値を学生に届けていきたいんです」と、熱い胸の内を明かす。 昨年は、説明会から始まり、一次選考、宿泊を通して行う最終選考、という独自の選考プロセスを経て、茨城県内の高校1年生から大学2年生の5人が抜てきされた。 「常陸フロッグス1期」終了から約半年。半年間の学びや挑戦、描く未来は? 常陸フロッグス1期生で茨城高専2年の伊藤愛基(いとう・まなき)さん、3年の寺門幸紀(てらかど・こうき)さん、水城高校3年の関根康太(せきね・こうた)さん、小貫椎香(おぬき・しいか)さん、常磐大学3年の犬塚真桜(いぬづか・まお)さんに話を伺った。 「やるしかない」、強烈なメッセージから一歩を踏み出した5人 「『半年後に変われる』という言葉が印象的でした」 そう振り返るのは、茨城高専に在籍する寺門さん。子どもの頃からエンジニアを志していたという。 小学生時代を振り返る(手前)寺門さん、(奥)伊藤さん 常陸フロッグス1期生は、県内の中学・高校・大学へのチラシ配布とウェブで募った。1期生の伊藤さんは、寺門さんと同じ茨城高専生。小学生の頃、「ゲームの世界を変えてみたい」と思い、ゲーム機がプログラミングを通して作られるものだと知ったことから、エンジニアの世界を意識するようになった。 「茨城でもフロッグスが始まるよ。やってみたら」偶然にも縁があった琉球フロッグスのOBOGである沖縄の高専生が2人の背中を押した。 「学生の負担なしでシリコンバレーに行けるというのは魅力的でした。応募の決め手はやっぱり『やるかやらないか』という言葉に尽きますね」と、関根さんは振り返る。 「できるかできないか」ではなく、「やるかやらないか」。ウェブサイトにある強烈なメッセージが関根さんの心に火をつけた。 チラシを見て、直感的に「やるしかないだろう」と一歩踏み出した学生もいる。小貫さんと犬塚さんだ。説明会では、琉球フロッグスのOBOGの話を聞き、期待感に震えた。この半年間、「やるかやらないか」だ。5人の常陸フロッグス1期生としての生活が始まった。 (左から)「直感は次第にワクワクや期待感に変わった」と話す小貫さん、犬塚さん、関根さん 自分に向き合い、仲間と向き合う 常陸フロッグスのプログラムでは、夏季休暇に集中的に事前研修が組まれる。シリコンバレー派遣に向けて、約1カ月間、社会課題に向き合い、スタートアップとは何か、チームビルディングとは何かを学び、社会課題からそれぞれが考えたサービスを組み立てていく。並行して英語研修やプレゼン研修と、自分に向き合い続ける時間が続く。 犬塚さん「これまでの学びは板書を訳のわからないまま写す、という形が多かったんですが、フロッグスでは自分で考えて発言して、周りを巻き込んでいかなきゃいけない。自分から動かなければ何も進まないんだと実感しました」 ほぼ面識のない中で始まった5人のプログラム。当初は、意見の譲り合いも多かったという。 犬塚さん「みんな、価値観がバラバラでした。良いところでもあるんですが、譲り合って自分の意見を言わない・・・みたいなところがあって。でも、プログラムが終わるころには、相手の意見を尊重しつつも自分の意見を言い合えるようになりました」 寺門さん「学校やエンジニアのバイトをする中で『信頼できる仲間』という言葉を聞いていましたが、あまり実感はなかったんです。(常陸フロッグスのメンバーとは)『これ』という大きな出来事があったわけではありませんが、半年間で、支え合える仲間という存在になりました」 半年間を振り返る寺門さん 10日間に及ぶシリコンバレー滞在は、琉球フロッグスと合同で行われた。 滞在中は、主にベンチャー企業を訪問し、現地で活躍する起業家、投資家、エンジニアとの交流やパネルセッション、サービスプレゼンを行った。 伊藤さん「シリコンバレーでは、起業家との1対1の面談で納得のいくまでじっくり話ができたことは大きな収穫でした」 伊藤さんは、5人の中で唯一、琉球フロッグス在籍のメンバーと同室だった。スタンスの違いや課題への向き合い方で起こった衝突も、伊藤さんの考え方をより深化させる糧となった。 伊藤さん「同室のメンバーやメンターを含め、課題を解決していくための発言や話し合いを重ねて、多様な考え方にも触れることができたと思います」 半年間の集大成 シリコンバレー派遣が終わると、半年間の成果発表会「LEAPDAY(リープデー)」がある。 イベント名の「LEAPDAY」は、アポロ11号が月面着陸した際に発した「“That’s one small step for man, one giant leap for mankind.” 人間にとっては小さな一歩であるが、人類にとっては大きな飛躍だ」という言葉の中にある「LEAP」の「飛ぶ、跳ねる」から名付けたもの。「このイベントをきっかけに、世界へ羽ばたいてほしい」、「大きな一歩(Giant Leap)を踏み出してほしい」というフロッグス運営メンバーの想いが込められている。 「どうしよう」 リープデーまで残り1週間。1人でサービスを模索していた小貫さんは、壁にぶつかっていた。「やるしかない」、覚悟をもって参加した常陸フロッグスのプログラム。それぞれが、社会課題に合わせた提案の準備を進めるなかで、どうしても発表できるサービスにたどり着けないでいたという。「大丈夫か?」次のステップに進むきっかけは、メンターである菅原さんの一言だった。菅原さんへの相談を重ね、小貫さんは犬塚さんとグループを組み、リープデーの提案をすることになった。 小貫さん「心強く、うれしかったです。フォローをしてくれる大人がいることで前に進んで行けたんです」 メンターとのやりとりが背中を押したと話す小貫さん 12月1日に開催されたリープデーでは、約100人の来場者を前に、英語で5分間のプレゼンテーションを実施。それぞれ自身のビジネスアイデアなどを発表した。 「この半年間で、5人は本当に変わりました」メンターの一人である和田さんは言い切る。 常陸フロッグスのプログラム時間外にもメンターを通じて、地元起業家とのつながりも生まれた。当時学生のためのサービスを作っていた関根さんは、企業側のニーズのヒアリングや、マネタイズのポイントを探るべくIT企業「ユニキャスト(日立市)」を訪問。ITロボティクスの現場の見学と地域での労働環境を学んだ。 5人が取り組んだ「画一的な教育にはない、答えのないもの」に進んでいくというミッション。多くの出会いと学びの連続だった。 関根さん「関わる人たちが、学生対大人、という関係ではなく、個人対個人で向き合ってくれました。1対1の面談でブレない軸を持つことの大切さを学びました」 ブレない軸を持つことの大切さを学んだという関根さん 犬塚さん「これまで、私のバイブルは母でしたが、このプログラムを通して、多くの人と出会い、自分と向き合う大切さに気づきました。メンターをはじめ、関わる大人が家族の悩みにも共感しながら聞いてくれたのもうれしかったです。実家を出て一人暮らしを始める、というきっかけにもなりました」 常陸フロッグスでの出会いから一歩を踏み出した犬塚さん 2020年、5人は次のステージへ さまざまな活動を展開する常陸フロッグス1期生(左から)関根さん、犬塚さん、小貫さん、寺門さん、伊藤さん 常陸フロッグスのプログラムを終えた5人は、それぞれが次のステージに進んでいる。 小貫さんは、大学受験の勉強をメインに、社会情勢やニュースなどの情報から自身の興味関心の軸を模索しているという。大学3年生となる犬塚さんは、「自分のホテルを持つ」という夢に向け日々学びを深めている。 ウェブフロントエンジニアとしての業務のほか、CTF(※1)の大会に向けた開発や未踏ジュニア(※2)のクリエーターとしても活動している寺門さん。 「実務を重ねながら、知らないことを学び、ゆくゆくはビジコンにもエントリーしたい」と期待をのぞかせている。 伊藤さんは、総務省と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が主催のセキュリティイノベーター育成プログラム「SecHack365」(※3)に参加し、サービス開発に注力している。全国の高専生にツイッターなどで呼び掛けて、約100人が所属するプログラミングのコミュニティ運営などにも取り組んでいる。 「茨城が日本のシリコンバレーのようになったら」と期待を寄せる伊藤さん 伊藤さん「プログラムを通して上辺だけじゃない、自分と向き合う時間の大切さを実感しました。半年を通して、熱い人たちとたくさん出会い『こういう人になりたい』という思いが生まれました。茨城で『どんどんやりなよ!』と、背中を押してくれる環境が整っていき、起業への支援や新たなビジネスの場、ベンチャーが育っていくような雰囲気や環境ができて、茨城が日本のシリコンバレーのようになったらいいなと思います」 関根さんは、フロッグス在籍中に高校生3人で会社を設立。地域の20代、30代の経営者らとの親交も深めるほか、ウェイン挑戦者ファンド(※4)の1期生にも抜てきされ、大学受験勉強と並行しながら、着実に事業を進めている。 現在、水戸市内の飲食店のホームページ作成、アプリ開発を受注し、実証実験は目前。医療機関の予約患者用リマインダーシステムの開発のほか、自動車事業を展開する会社への提案など、活動の幅を広げている。 (後列左から)常陸フロッグスメンターの和田さん、菅原さん(前列左から)関根さん、犬塚さん、小貫さん、寺門さん、伊藤さん 迷い、悩みさまざまな葛藤と挑戦の中で、成長してきた常陸フロッグス1期生。 多様な価値観に触れ、自分と向き合い続けることで、一人ひとりが揺るがない「軸」を持ち、それぞれの歩みを進めている。 茨城には、常陸フロッグスや若手経営者によるコミュニティといった「場」はもちろん、あなたの背中を押す人や共に手を取る「人」がいる。 何かを始めるのに、遅すぎることはない。 こんな時代だからこそ、小さな一歩が明日の力になっていくのではないだろうか。 ※1:Capture The Flag(旗取りゲーム)の略。情報セキュリティの技術を競う競技。 ※2:独創的アイデアと卓越した技術を持つ小中高生クリエータ支援プログラム。 ※3:若手セキュリティイノベーターの育成を目的としたプログラム。 ※4:プロサッカー選手の本田圭佑氏、ネスレ日本元社長の高岡浩三氏、ヘルステックベンチャーのFiNC(フィンク)テクノロジーズ創業者である溝口勇児氏が2020年5月に設立した21世紀型の課題解決に挑むファンド。 前の記事 次の記事