県北芸術祭の閉幕から1年半が経つ。個人的には、地域とアートの理想的関係について深く考えさせられた65日間だった。一方で、27年もまえの、まだ里美が 「里美村」という自治体を成していたころの「青い傘」の記憶を思い返していた。自分はまだ十にも満たない少年で、その眼で直接見たかどうか定かではないのだけれど、鮮やかな“青”の記憶があることだけはたしかだ。
里美の真ん中で地域づくりに懸命に取り組む岡崎靖さんは、「青い傘」を体験していないが“青”の記憶をもつひとりだ。20年前に里美に移住してきて、クリストを直接知らないからこそ、「“クリスト”という事件」を振り返ってほしいと思い、お願いをして書いてもらうことになった。里美にとって“クリスト”とは何だったのか。地域とアートとの幸せな関係とは。記録を探り、そこに暮らすひとへの聞き取りから、ヒントが浮かび上がってくるかもしれない。(編集部・中岡)
「こんにちは。私の作品を3週間だけあなたの土地に飾らせてください」
外国人の夫婦と通訳の女性が、畑に突然やってきて話し出す。
ひとり農作業をしているところに声をかけられたお年寄りにとっては、ちょっとした事件だったかもしれない。
1985年、アンブレラプロジェクトを実現させるためクリストとジャンヌ=クロード夫妻が始めたことは、地域の人一人一人への声がけからだった。