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if design project 第2期

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茨城未来デザインプロジェクト

if design project 第2期

茨城の課題解決に取り組みながら、 「これからの自分」を問い直す

「あなたの”もし…“が、茨城の未来を変える。フィールドワーク+講義+ワークショップによる実践型デザインプロジェクト」if design project~茨城未来デザインプロジェクト~(以下、if design project)が、昨年度に引き続き開催された。

if design projectとは、茨城県が東京からアクセス良好であることを活かし、東京圏で茨城や地方に対する想いを持つ個人・フリーランス等のクリエイティブな人材を県内に呼び込み、チャレンジできる環境を創る取り組み。

参加者は、2019年9月から12月の約3ヶ月間、フィールドワークやワークショップを通して、協力企業や地域プレイヤー、メンターと連携し、地域・企業の魅力や課題を学びながら、茨城県の新たな未来を作るアイディアプランを作り上げていく。

※if design project 第1期についてはこちらから:茨城県が新たにはじめた、クリエイティブ人材の流れをつくるプロジェクト  https://iju-ibaraki.jp/feature/things/1682.html

プログラム初日のフィールドワーク。参加者が土浦市のPLAYatre TSUCHIURAに集合し、初めて顔を合わせた。


2回目の開催となる今回は、高い熱意を持つ44名からの応募があった。選考の結果、if design projectに参加したのは21名。それぞれが茨城県や地域課題解決に興味を持っていることはもちろんだが、年代や社会人としての経験も多様で、20代前半や社会人になりたての若手から、30代・40代の会社員、フリーランスなど様々だった。

農・海・酒をテーマに開催

今年度も、参加者は3つのチームに分かれて茨城県の未来を変えるプランを作成。

農×地域チーム(地域:結城市/協力企業:農事組合法人宮崎協業/メンター:井本喜久氏)

先進技術や大型機械を駆使しながら農作業を行い、6次産業化も進めている宮崎協業とともに、結城市外に住む人たちが、農業を通じて結城市との関係をつくるためにどうすればよいか考えていく。

海×地域チーム(地域:大洗町/協力企業:大洗観光協会/メンター:馬場未織氏)

キャンプ場や水族館、大型クルーザーやフェリーターミナルなど、様々なアクティビティもある一方で、海水浴客は減少傾向の大洗町。地域の多様な資源を生かし、海水浴だけに頼らない通年楽しむ海の未来をデザインする。

酒×地域チーム(地域:水戸市/協力企業:明利酒類株式会社/メンター:石川俊祐氏)

約160年以上続く水戸市の総合酒類メーカー、明利酒類のお酒を軸とし、多くの人に明利酒類や茨城の酒を伝え、ファン化させるにはどうすればよいか考えていく。

オフの時間に作られる、課題解決プラン

神田にあるシェア型複合施設the Cにて開催されたDAY3の様子。メンターからの講義と、プラン作成のワークショップが行われた。


if design projectの実施期間中、参加者は講義やワークショップを受講するだけでなく、現地調査や地域を巻き込んだイベントなども自主的に開催。

プログラム期間中は様々なインプットや実践、分析、ミーティングを重ね、参加者それぞれの専門や得意分野を活かしながら、茨城県の地域や企業の新しい未来に繋がるプランを作成。

公開プレゼンテーションの会場は、地域での活動に興味を持つ人に埋め尽くされ、立ち見の人も現れるほど。


プランは、2019年12月15日に行われた「if design project第2期 公開プレゼンテーション」の中で、パートナー企業をはじめ、茨城県や地方に関心のある人々に向けて発表された。当日はif design project第1期の参加者も駆けつけ、第2期チームと意見交換する様子も見られた。

if design project第2期が終了した今も、各チームは自らが提案したアイディアの実現に向けて、自主的な活動を少しずつ進めているところだ。

本業の傍ら、さらにもう一つの仕事をこなすかのように、茨城県の各地域と向き合ってきた参加者たち。その3ヶ月間は、充実感を覚え好奇心を刺激する一方で、なかなかハードな日々だったはずだ。そんな体験にあえて足を踏み入れた参加者たちは、どんな思いでif design projectに申し込み、プログラムの中でどんなことを学び取っていったのだろうか。

ここで得たものを、実践に繋げていきたい

「プランを作りながら、色々な仕事や経験を背景にした意見が出てくるところを見ていて、会社の中だけでは分からない世界を知ることができました」

そう語るのは、農×地域チームに参加した、飯塚菜月(いいつか・なつき)さん。飯塚さんは、都内に勤める社会人2年目の若手会社員。水戸市出身で、大学進学を機に上京し、そのまま都内に就職。元々地域コミュニティに興味があり、大学の卒業論文では「地域との繋がり」をテーマに執筆。就職活動の際も、地域に向けた取り組みを行う会社を希望し、現在の会社に就職したそうだ。

そんな学生時代もあり、たまたま読んだ新聞でif design project第1期について知ったときは「二回目があったら是非参加してみたい」と考えていたそうだ。そして、東京での社会人生活も2年目に入って間もないころ、タイミング良くif design project第2期の募集情報を取得。こういったプログラムへの参加は初めてで迷いもあったが、「また茨城に関わることができるなら」と参加を決意。

飯塚さんが参加した農×地域チームがif design projectの中で作ったプラン「お結び」は、「『畑』と『食卓』を結びなおす」をビジョンに掲げた企画。


チームメンバーにはデザイン、医療、農業など様々な分野で活躍している先輩社会人がいる中で、飯塚さんはチームの最若手。経験値の浅さもあってか、仕事の中で得てきたことをプラン作りに上手く生かすことができず、もどかしさもあったそうだ。

しかし、「茨城が好きという熱意だけは持ってきました」と語る飯塚さん。チームの自主活動を進めるため「やりましょう」と最初に声を上げることも多かった。自分にもどかしさを感じつつも、とにかく前に進めるきっかけを作ろうとする姿勢は、茨城愛の表れかもしれない。

講義やフィールドワークの中でも、積極的な質問や発言があった飯塚さん。


飯塚さんは、はじめは「学びの場」としてif design projectに参加していたそうだ。しかし、プログラムの中で、茨城のために実際に活動を起こそうとする参加者を見て、「学ぶだけでなく、実践していいんだ!」ということに気づいたそう。

「大学4年間は、何か実践してみたいなとは思っていましたけど、勇気が無くて行動に移せませんでした。でも、if design projectには茨城や地方のために本気で活動しようとしている方たちがいる。それを目の当たりにして、『そうか、実践していいのか』と気づき、自分が閉じこもっていた『学ぶ』という部屋から外に出ることができました」

学生時代から持っていた地域への興味から、if design projectに参加した飯塚さん。熱意を持った参加者とプラン作りをしていく中で、自分も実践できるという可能性を抱くことができたようだ。

「ここで得たものを絶対ゼロにはしたくないので、どんな形でも次のことへと繋げていきたいと思います。それがイベントになるのかプロジェクトになるのか、どんなものになるのかはまだしっかり考えられてはいませんが、良い学びがあって終わり、ではなく、実践に繋げていきたいですね」

情熱ある人たちに出会うチャンス

海×地域チームに参加した石井翔太郎(いしい・しょうたろう)さんは、現在都内でUI/UXデザイナーとして働いている。水戸市出身で高校まで地元で過ごし、都内の大学に進学。もともとデザインを学びたいと思っていた石井さんだが、進学校に通っていたこともあり、工業系の大学に進学。しかしデザイナーへの道を捨てきれず、大学に通うと同時にデザインの専門学校にも通っていたという。

大学卒業後は、本格的にデザインを学ぶべくロンドンに留学し、現地の語学学校を経て美術大学に入学。卒業後は、そのまま現地のデザイン会社に就職し、約6年働いた後に帰国。

留学してまでデザインを学びに行った理由の一つが「自分を追い込みたかったから」とのこと。その姿勢からストイックさが伺える石井さんだが、語り口からも朗らかさを感じられるお人柄。if design projectの中では、デザイナーとしてだけでなく、チームの結束力を高めるキーパーソンとしても活躍していた。

if design project第2期について知ったきっかけは、帰国してしばらくしたころに、SNSを通じて友人から教えてもらったこと。

実は石井さん、以前から地域に関わる活動をしたいと考えていた。そう考えるようになったのは、帰国するたびに消えていく茨城の懐かしい風景を目の当たりにしていたことからだ。

「たまに日本に帰ってくると、昔おばあちゃんと行った場所が無くなっていたりするんですよね。単純に悲しい。そんな地域を『デザインの力で盛り上げることができるんじゃないか』というのを、ずっと考えていました。地域に関われるチャンスがあるなら場所は選ばなかったけど、希望としては自分が育ってきた茨城県。だから、if design projectについて教えてもらった時は、速攻で申し込みました」

石井さんが参加した海×地域チームがif design projectの中で作ったプランは、「大洗カオス」。町のエリア特性を捉え直し、多様な大洗という町を「大洗カオス」というコンセプトのもと、再編集していく、コンテンツや商品企画を提案。チームの中では、石井さんはもちろんデザインを中心に担当。大洗カオスのロゴも手がけた。

石井さんが楽しさを感じていたのは、徐々にチームが一体になり強くなっていくところ。プログラム開始当初は初対面同士だったメンバーたちが、それぞれのスキルや知識を連携させ、自分一人ではできない企画も可能にしていく。そして、一体となったチームの楽しさを作っていくために、石井さんも積極的に働きかけていたという。

「自分はチーム内で年長だし、ヒゲもあって見た目も怖い。20代の若手もいるチームなので、全員がちゃんと意見を言える場にしていくため、KPTを企画して、チーム内の問題をみんなで倒しに行きました。『自分は何ができるか分からない』という人がいればみんなで相談したり、逆に自分たちの強みも認識していきました」

※KPT:チーム内でKEEP(よかったこと)、PROBLEM(問題点)、TRY(次に取り組みたいこと)を付箋に貼り出しながら振り返り、現状分析や次にやるべきことを明確化していく手法

石井さんにとってこのプログラムに参加して得た大きな収穫は、「地域をデザインの力で盛り上げる」という思いの再確認ができたことと、情熱ある人たちに出会えたこと。

「30代になって、情熱をもって何かに取り組む人に出会うチャンスってなかなか無いと思うんですよ。みんな、普段働いているのにすごい熱量で取り組んでいました。自分一人ではできないことでも、みんなで『やろう!』という雰囲気で実行できたのも良かったですね」

デザインやビジュアルに関する部分は、石井さんが担当


地域をデザインの力で盛り上げたい、という思いの元、if design projectに飛び込んだ石井さん。今回作られたプラン「大洗カオス」をチームメンバーとともに継続させつつ、個人としても、茨城県に留まらない様々な地域への関わりにも意欲を示している。

「もっと地域に入っていきたくて、if design projectの運営の方にも相談しています。地域のことなら時間を使って取り組みたいし、茨城に限らず色々な地域のフィールドに行きたいですね。日本に帰ってきた理由の半分以上が『地域をフィールドにしたい』ですから」

企業の役割と可能性を考えるきっかけ

酒×地域チームに参加した宮垣慶子(みやがき・けいこ)さんは、大阪府出身。これまで茨城県に深い馴染みは無かったが、プライベートで笠間市の陶器市に出かける機会もあったそうだ。

転職がきっかけで、2019年5月から都内の会社で内装やインテリア関係の新規事業開発を担当するようになった宮垣さん。茨城県の地域を受け持つことになったが、転職当時は地域に関する知識やコネクションが無かった。

そこで、まずは茨城につながるきっかけを探していたところ、if design projectの存在を知り説明会に参加。企画説明を聴きながら「自分にできるだろうか」「このプログラムと仕事のバランスはとれるのだろうか」と悩んだが、「結局のところ参加に必要なのは自分の本気度」と感じ、締め切り目前に参加を申し込み。

宮垣さんが参加した酒×地域チームが作ったプラン「いっぽんのお酒、」は、じっくり茨城県の1本の日本酒に向き合い、味わってもらう場を企画。その後のコンテンツやアプリ展開まで提案していく。

if design projectが始まった当初、宮垣さんは自分の役割が分からなかったと話す。というのも、普段の仕事での役割は、プロジェクトの統括役。明確で専門的なスキルを使う仕事ではなかったため、自分がどのようにチームに貢献できるか分からなかったそうだ。

そんな中でも、研究に携わっていた経験を活かした「情報収集や分析、解析を行い、整理してそれぞれの専門分野の人に渡すこと」、統括としての経験を活かした「チーム内の異なる専門家たちが持つ考えの具体化、議論ポイントの明確化」など、プラン作りを前に進めていくためのたたき台を作っていく役割を引き受けていくようになった。

チーム内の様々な専門分野を持つ人と向き合っていく中で、普段立っていないアンテナがどんどん立っていったことも実感しているそうだ。

そして、熱意ある参加者とプラン作りに取り組むなかで、会社という組織の役割や可能性についても考えるようになったという。 

「以前私が、街づくりや環境系のボランティアに参加していたときは、『この取り組みは、思いや楽しさだけでどれだけ継続できるんだろう』と疑問に思っていたこともありました。なので、志のある人が集まり社会にために何かを示すのは、企業が事業として取り組むことのみを正と考えていました。でも、このプログラムを通して、個人で取り組んでいくことも、これもまた正であることに気づけました」

if design project第2期を終え、宮垣さんは「個人の立場としても、地域の仕事をどんどんやっていきたい」と語る。いま温めているのは、木や間伐材を積極的に活用しながら山を守る企画と、買い手がつかず問屋に売れ残ってしまった質の高い材木を流通・活用させる企画。

「最初は会社の中でやれたらいいな、と考えていたんですけど、今では仲間を集めて自分でやりたいと思っています。if design projectを通じて『自分で動けばいいのか』という発想になってきました」

3つのチームのこれから

昨年度の山・食・スポーツチーム同様、今年度の農・海・酒チームも、if design project終了後の独自展開が始まっている。

農×地域チーム

参加者それぞれが、結城市のイベントへの参加や自主的に仲間を連れて合宿を企画したり、結城市が主催する「トライアルワークステイ」という企画を通して協力企業であった「宮崎協業」で試行的に働く等、継続的な関係を続けている。今後は、「宮崎協業」主催の収穫祭にて、出店を検討している。

海×地域チーム

既に大洗町へチームで合宿したほか、今回の協力企業であった「大洗観光協会」が関わる餅つき大会等にも参加し、地域の人たちとの関係も深めている。

現在、隔週でミーティングを行っており、4月に「大洗カオス」実現化に向けたイベントを開催する予定。

酒×地域チーム

2/29に「いっぽんのお酒、」を体現する場を企画中。協力企業であった「明利酒類」のお酒を提供することとし、そのお酒と合うおつまみを皆で開発したり、お酒に合う器やアートなど、コラボレーションが可能そうな人たちとの繋がりも模索している。

チームごとの活動だけではなく、2018年度と合わせた全6チームの中で「合同で企画を作ったら面白いかもしれない」という話も上がっている。

これまで、if design projectを通して、茨城県内外の様々な人材が地域の課題に関わってきた。プログラム内で熱意のある人たちが連携して課題解決プランを作っきたように、茨城県の中でも、さらなる展開が生まれていくかもしれない。

PROFILE

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日本を、茨城を、地域を良くしようと活動を続ける様々な企業のリアルな課題や茨城の魅力を、フィールドワークを通して学び、異なるバックグラウンドを持つ受講生たちと共に課題解決の企画を行うプログラム。
2018年度に続いて、2回目の開催。2019年度は、結城市を舞台にした「農」、水戸市を舞台にした「酒」、大洗町を舞台にした「海」の三つのチームを軸に開催された。

if design project~茨城未来デザインプロジェクト~ https://if-design-project.jp/